【更年期ダイエット】いま話題の「内臓脂肪減少薬」でやせる? 医師にホントのところを聞いてみた!
内臓脂肪減少薬の成分「オルリスタット」とは?
一つ目は、「オルリスタット」という成分です。大正製薬の内臓脂肪減少薬「アライ」の有効成分として知られ、ネットでも話題になっています。
使用経験者からは「本当に便と一緒に油が出てきて『やった!これ、吸収されないんだ』と感動した」(40代後半・女性)という嬉しい悲鳴が聞こえながらも、日常的にお尻から油が出てくるってホント!?と副作用を心配する声も。
宮崎先生に、詳しいメカニズムを伺いました。
オルリスタットの基礎知識
ーーオルリスタットを有効成分とした市販薬はどんな薬ですか?
「オルリスタットは生活習慣病の発症基盤である内臓脂肪の減少が期待される市販薬として発売され、薬剤師から対面で購入することが必要な要指導医薬品です。
服用の主な条件は、『腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上、特定の健康障害等を有していない、購入前1カ月の生活習慣改善の記録すること(少なくとも週1回は腹囲、体重、食事/運動への取り組みの有無を記載)』などです。他にも承認審査の過程で、特定の疾病にかかっていないかなど、販売する際にいくつかの条件の確認をすることが定められています」
ーーオルリスタットを有効成分とした市販薬でやせるメカニズムをお教えください。
「脂肪分解酵素であるリパーゼを特異的にブロックすることにより、食事由来の脂肪の吸収が抑制され、結果として食事に含まれる約25%の脂肪が便として体外に排出され、体重が減少するエビデンスが立証されています」
油が漏れる、下痢をしてしまう?などの疑問も。先生の見解と対処法
ーーオルリスタットを有効成分とした市販薬は、「油が漏れる」ことで大変な苦労をするという噂などがあります。現状はどのような感じですか?
「オルリスタットには、食事から摂取した脂質の約25%を体外に便として排出する作用があります。副作用の1つとして油漏れ等が報告されていますが、一般の方々には油漏れが誇張されて伝わっているように思えます。
臨床試験データによれば、何らかの消化器症状が発現するのは服用した方の約60%ですので、全員に発現するわけではありません。また、大半の副作用が投与開始2週間以内の初期に生じやすく、比較的速やかに消失する傾向があります。症状が発現した方も、徐々に通常の排便の範囲内で対応できるようになってきます。
一方で、服用期間を通じて症状が断続的に生じているケースも認められています。高脂肪の食事を継続的に摂取すると、油漏れが生じる可能性が高まると考えられます。万が一、服用期間中ずっと脂分が便から大量に出てくるのが気になった場合、それは脂肪分の多い食事を日常的に食べている証なのだと気づき、食生活を見直すきっかけにするとよいでしょう。
これまでは、肥満を解消しようとすると自己管理に基づく生活習慣改善しか対処方法がありませんでした。そんな中、動機づけや継続性に課題を持つ生活習慣改善を補助するというコンセプトのもと、しっかりとしたエビデンスを持った薬を活用できるようになったことは、予防医学的にも画期的であると評価しています。
また、医療費の高騰による社会保険システムの持続性が危ぶまれる中、過剰な内臓脂肪蓄積が引き起こしうる生活習慣病や、その後に生じる心筋梗塞や脳梗塞、がん、認知症などを早期に低減するという可能性もあります。膨らみ続ける医療費の軽減にもつながりますし、いろいろな意味で日本社会にとっても意義があると考えます」
ーーオルリスタットの油漏れを前向きにとらえるポイントを教えてください。
「油漏れを含む消化器症状は、オルリスタットの本来の効果の現れですが、実際に生じた場合は、不快に感じるのは当然です。油漏れは少量の油がじわっと染み出す症状であり、油の量が多すぎるならば、ナプキン等で物理的な予防策を講じる必要があるかもしれません。
しかし、そんな症状を体感するときは、よっぽど過剰に油を摂取してしまっている可能性が高いでしょう。自身の食生活の振り返る機会でもありますし、少しでも脂肪が少ない食生活を送るように決意する機会として、前向きにとらえることをおすすめします。
また、通常の排便の範囲内でコントロールできる程度だったり、あるいは油漏れが発現しない方は、現在の食生活が油の摂取を少なくした適切な状態と考えても良いのではないでしょうか。
排便時に排泄された油を見ることは、視覚的なインパクトがあります。高脂肪な食生活を是正するきっかけとして活用してみてはいかがでしょうか」
更年期女性にはおすすめ?
ーーオルリスタットを活用した内臓脂肪ダイエットは、更年期女性におすすめですか?
「女性の更年期は、女性ホルモンの減少、加齢による基礎代謝の低下や筋肉量の低下などが複合的に関連しながら、内臓脂肪が徐々に増えてくる年代です。
一方で、内臓脂肪を減らすには、食事や運動などの生活習慣改善が重要であることは、おそらく誰もが頭では理解していますが、実践することや継続していくことがむずかしいことも事実。美味しい食べ物、夜中のポテトチップス、お酒を飲んだ後のラーメンなど、脳にインプットされてしまっているいわゆる『報酬系』と呼ばれている行動を制御することは至難の業です。
これらは一気に変えようとするとその反動も大きく、何度もリバウンドを経験した方も多いのではないでしょうか。
まずは、生活習慣改善に取り組み、うまくいかない場合は、生活習慣改善の取り組み効果を高めることが期待されるオルリスタットを治療選択肢の一つとして検討するのが良いのではないでしょうか」
ダイエットを成功させるコツ
ーーオルリスタットを有効成分とした市販薬をうまく活用してダイエットを成功させるコツを、注意点も含めてお教えください。
・オルリスタットを服用するだけではNG
「オルリスタットを服用するだけで痩せようとしてはいけません。重要なことは、なかなか上手くできなかった生活習慣改善を習慣化させていくことや、そのために必要なモチベーションを獲得していくことです。
脂肪が体内に蓄積されるという現象は、消費カロリーよりも摂取カロリーが多い状態です。消費カロリーを減らす食行動や消費カロリーの増加が期待できる運動の小さな目標を立て、できることから少しずつ取り組んでいき、時間をかけて試行錯誤しながら、実際の行動を変容させていくことを意識してみてください」
・無理のない目標を立てる
「目標とする行動は、例えば『今後ラーメンは食べない、一切間食しない』など、極端なものは、継続できない可能性が極めて高くリバウンドするリスクも高いです。そのため、無理なく続けられるものからスタートし、慣れてきたらその強度を上げていくのがコツです。
間食を毎日する方であれば、まずは『週に1回は間食しない日を設ける』と決め、行動が習慣化してきたら、取り組む日を週2回に増やしてみるという進め方が良いでしょう。
また、取り組むと決めたことが守れなかった場合に、必要以上に落ち込まないことも重要です。食べるという人間の本能に過大な負荷をかけ続けるのはストレスなので、時には食べたいものを食べたいだけ食べましょう。最も重要なことは、小さな成功体験と失敗経験を積み重ねながらも取り組みを継続し、中長期的に生活習慣が変わっていくことです」
ここまでの前編記事では「オルリスタット」や更年期に向いているかどうかを伺いました。後編記事では、話題の肥満症治療薬「GLP-1」と更年期ダイエットのコツについて伺います。
つづき>>>【医師が解説】話題の肥満症治療薬「GLP-1」はやせる? 副作用はないの⁉ 更年期ダイエットのコツが知りたい
【取材協力】
宮崎 滋先生
日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)
結核予防会 総合健診推進センター所長、東京逓信病院顧問、日本肥満症予防協会副理事長。編著書は『ダイエットの方程式』(主婦と生活社)、『肥満症教室』(新興医学出版社)など多数。
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