Tさんのお子さんは中学受験を目指して、小学校4年生から塾に通い始めました。夫は息子を、自分が通った大学の付属中学校に進学させると決めていました。じつは息子と妻は、地元の中学校に進学することを希望していたのですが、その意見には一切耳を傾けませんでした。
夫婦間で教育方針が食い違うことは少なくありませんが、Tさんのケースでは、それが単なる意見の違いではなく、夫が家庭内での力関係を強調するための「支配」の一環となっていました。妻の意見を無視し、自分の考えだけを押し通す…それはモラハラと言えます。
息子が通う塾では毎月のクラス分けテストがあり、その成績によってクラスが決まるのですが、夫は息子が1番上の国公立クラスに居られないとTさんに強くあたります。そして、子どもの成績が悪いのは、全部母であるTさんのせいだと責めたてるのです。
「なんでお前は子どもの面倒をちゃんと見てないんだ?成績が下がったのは、お前が家で何もしないからだろう!」
夫の怒鳴り声は、家中に響き渡ります。息子はびくっと身を縮め、Tさんは泣きそうになるのを必死でこらえました。
そんな生活が続き、息子は成績が悪いとTさんが怒られるというプレッシャーから、テストの日に具合が悪くなるようになってしまいました。
どうして子供の成績を妻のせいにするの?モラハラ夫の心理
1. 自分の価値を保ちたい
モラハラ夫は、自分の価値を家庭や子どもの成果に依存する傾向があります。たとえば、子どもの成績が良いと「自分が優れた父親だ」と感じますが、成績が悪いと「自分が否定されている」と受け取り、妻にその責任を押し付けます。
「俺がこんなに頑張って指導しているのに、どうしてお前は子どもをちゃんと見ていないんだ?」
これは、自分の指導力や家庭での役割を正当化したい気持ちの表れです。
2. 妻をコントロールしたい
モラハラ夫は家庭内で「自分が上に立ちたい」という欲求がとても強くあります。妻の意見を無視し、自分の考えを押し通すのは、自分の力を誇示し、支配感を得たいからです。特に教育や進学問題に妻の意見を受け入れることが「自分の立場が弱くなる」と感じるので譲歩はできません。
「子どもの教育に関しては俺の言う通りにするべきだ。お前は余計なことを言うな。」
妻の意見を無視することで、自分が妻を支配していると思い込むのです。
3. 責任を取りたくない
家庭で問題が起きると、モラハラ夫は自分の非を認めたくないため、責任を妻に転嫁します。これは、自己保身の心理からくる行動と言われます。
夫はプライドのために子供の成績にこだわる
“夫は教育熱心なフリをいつもしているが、それは息子への愛情からではない”
ということは、Tさんには分かっていました。夫にとって「子供の成績」は自分のプライドの一部であり、他の方に自慢できるかどうかが重要なのでした。「優秀な子供を持つ立派な父親」と思われたい。そのために、子供には過剰な期待を押し付け、ミスや失敗があれば容赦なく叱りつける。そんなことの繰り返しでした。
夫は息子に怒った後は必ずTさんにも怒りをぶつけてきます。家族の中で問題が起これば、それは全て妻のせいなのです。息子の成績が悪いのも、子供が反抗的になるのも、家が少しでも散らかっているのも、「妻が至らないから」と全てTさんのせいになります。
「責任をすべて私に押し付けることで、自分は良い父親だと本気で信じているのです」
妻を攻撃するもう一つの理由「支配欲」
モラハラの背景には、「自分が家族の中で一番上でなければならない」「自分の言う通りに家族が動くべきだ」という強い支配欲があります。これは、家庭内での自分の立場を確認し、コントロールすることで安心感を得ようとする心理が働いているからです。
- 「自分は家族のリーダーであり、間違いがない存在だ」という信念を守るために、問題が起きると「俺は正しい。妻が至らないせいだ」と責任を押し付けます。
- 妻を責めることで、妻を従属させ、「自分が優位に立っている」という感覚を得ようとします。これにより、自分の不安定な内面を補おうとしているのです。
モラハラ夫にとって、「妻を責めること」は、自己肯定感を保つだけでなく、自分が家庭内での力関係をコントロールしているという実感を得る手段でもあります。
モラハラ夫は、自己中心的で自分の弱さや不安を隠そうとするために、妻や子どもを攻撃的に支配しようとします。しかし、その背景には、自己評価の低さや責任逃れの心理が隠れています。