「妻とは別れる」既婚医師の甘い言葉にほだされ妊娠してしまった…。34歳看護師の転落劇とは(前編)
過去に247人の「ワケあり妊婦」から相談された経験をふまえて考える
このドラマは「おかしなこと」だらけなのですが、筆者が特におかしいと思うのは、美羽が産むか堕ろすかを大して悩まなかったこと。妊娠したことが分かったときは少し、驚いたものの、早々に出産する覚悟を決めました。
行政書士、ファイナンシャルプランナーである筆者は過去に247人の「ワケありの妊婦」から「出産するかどうか悩んでいる」という相談を受けた経験があります。
例えば、彼女に夫がおり、相手に妻がおり、いわゆるダブル不倫で出産したら大変です。第一に戸籍の問題(子どもの父親は誰になるのか)、第二に慰謝料の問題(夫、そして彼の妻から二重に請求される)、第三に養育費の問題(離婚する、しないにかかわらず、誰を金銭的に頼ればいいのか)などが山積しています。
秘密を隠して夫と結婚生活を続けるにせよ、秘密を明かして夫と離婚し、彼と再婚するにせよ、大変な人生が待っていることは間違いありません。だからこそ、産もうかどうかを迷うのです。
今回の相談者・川原莉子さんも厳しい選択を迫られた一人です。
夫は会社員。看護師の私は、職場で不倫して…
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:川原悠介(36歳)→会社員(年収700万円)
妻:川原莉子(34歳)→看護師(年収500万円) ★今回の相談者
彼:江良圭太(40歳)→医師(年収1,200万円)
彼の妻:江良絵里奈(28歳)→専業主婦
彼の子:江良清人(6歳)
「妊娠したことが分かったとき、主人は単身赴任中でした」
と苦しい心情を吐露してくれた莉子さん(都内在住)。莉子さん夫婦は結婚8年目ですが、一緒に暮らしていたのは6年目まで。夫の勤務先は繊維メーカーですが、社の肝入りで岩手県内に工場を新設。夫はその工場長に抜擢されたのです。筆者が「旦那さんに付いていったんですか?」と尋ねると莉子さんは首を横に振ります。莉子さんを自宅に残り、夫は一人で岩手に旅立ったのです。夫が戻ってくるのは3ヵ月に1度程度。
そんななか懐妊したので莉子さんの胸中は複雑でした。莉子さんは「夫とは何もなかったんです」と前置きした上で「付き合っている彼がいるんです」と白状しました。状況からみて、相手は明らかにその男性でした。
莉子さんは「排卵日を計算しての妊娠だったので気付くのも早かったです」と振り返りますが、莉子さんが婦人科へ足を運んだのは(性交渉から)1ヶ月後でした。彼にそのことを伝えると、「嬉しいけれど身が引き締まる思いだ」と言い、莉子さんの身体を心配してくれたそうです。ところで『彼』とは一体、何者なのでしょうか?
医師のカレ。病院で緊迫した時間を一緒に過ごすなかで、恋愛感情が
莉子さんは大学病院に勤める看護師。そして彼は同じ病院、同じ科の医師でした。「彼は尊敬できる医師の1人だった」と莉子さんは評します。二人は24時間、緊迫したなかで仕事をする日々で、共通の話題はだいたい仕事の話。一日を振り返って「あれで良かったのか」「こうすれば良かったのではないか」と活発な意見交換をするうちに恋愛感情が生まれたそうです。
実際のところ、仕事の愚痴を嫌な顔せず聞いてくれるし、体力的、精神的に辛いときは、いつも優しい言葉をかけてくれる。彼の存在は「心の支え」だったと莉子さんは言います。「緊迫した空気から抜け出したときに、ホッとできる時間が欲しかったのです」と。
しかし、彼には妻子がいます。「でも、はじめは既婚の人と付き合うつもりなんて全くなかったし、こんなに長い間、関係が続くとは思わなかったから…」莉子さんはそんなふうに弁明します。
莉子さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは、莉子さんの気持ちに迷いが生じたタイミングでした。冒頭で述べた通り、莉子さんは3つの問題を抱えていました。
浮気相手を「父」として表記したい場合、戸籍はどうなる
まず1つ目は戸籍の問題です。莉子さんは「戸籍はどうなるんですか?」と不安そうな顔を浮かべます。
結婚期間中に妊娠した子どもの父親は原則、夫という法律があります。(嫡出推定。民法772条)そのため、筆者は「このまま出産し、出生届を提出した場合、戸籍上、新生児の父親は彼ではなく『夫』になりますよ」と説明しました。それでも父親の欄を夫から彼へ変更したいのなら、夫にありのままの事実を伝え、「協力して欲しい」と頼まなければなりませんが、莉子さんは動揺を隠せません。
具体的には家庭裁判所に嫡出否認の申立をし、夫と子どものDNAを鑑定し、科学的に「親子ではない」と判定されれば、父親欄を白紙にすることが可能です(民法774条)。今年4月から法律が改正され、申立の期間が出生1年から3年に変更されました。(民法777条)。その上で彼が子どもを認知すれば、父親の欄には彼の名前が表記されます。
法務省によると家庭裁判所へ嫡出否認の訴えをし、訴えが認められたのは142件(2014年~2016年)。一方、出生数は3,027,074人なので全体に占める割合は0.004%しかありません。
莉子さんは「子どもを産もうと思っていました。望んでできた子だったから。そのときは彼のことが好きだったし、子どもは大好きだから嬉しかった。女の人は結構、そう思っている人は多いんじゃないかしら?男は無責任だけれど、女は純粋だから」と振り返ります。
ドラマでは美羽(演:松本若菜)が夫の宏樹(演:田中圭)に対して「子どもの名前をつけて欲しい」と頼み、実際に名前をつけました。当初は夫婦の子どもとして育てるつもりだったのでしょう。しかし、途中で宏樹は自分が父親ではないことに気付きました。宏樹は戸籍を修正する手続に踏み切るのでしょうか?
次のページへ▶▶「大人の罪」の問題を引き続き考える。産んだ場合、母子はどうなる?慰謝料と養育費は…?
1 2
スポンサーリンク