能登地震、子どもの強さに触れたあの日「怖いんじゃない。みんなのことが心配なんだ」
能登の魅力を再発見。華やかな都会暮らしからUターン、老舗酒蔵の若女将に。
「能登は暮らしと自然の距離が近いんです。例えば秋の能登はイカ釣りが楽しいシーズンで、朝一番にイカ釣りをしてから出社する生活スタイルを持つ方も珍しくありません。まるで、遊びながら暮らすとでもいいましょうか……仕事で1日のほとんどを費やすのではなく、仕事以外の時間に、季節を感じる食や自然・行事などを、家族や地域の人たちと楽しみながら過ごす毎日を皆が大切にしている――そういう能登が大好きなんです」。
自らの出身地であり、現在の生活を営む能登の魅力を、生き生きと語るしほりさん。そう思えるのは、一度能登から離れた経験があるからこそだといいます。
大学入学を機に上京したしほりさんは、フランス留学も経験。大学卒業後は東京の大手メーカーに営業職として勤務、社会人6年目には売上成績で首都圏トップになったことも。その後、総合美容サロンに転職して幅広い年齢のスタッフをまとめる経験をするなど、順調にキャリアを積み上げてきました。
「当時は仕事もプライベートもとても充実していたし、都会の生活を謳歌していました。でも一方で、もっと本質的な生き方をしたいという思いが芽生えていました。都市での暮らしは便利で刺激的で、たくさんの素敵な出会いに恵まれる環境ではありましたが、急に、街のイルミネーションや流行のスイーツも全部作り物のように思えてしまって、心がときめかなくなっている自分がいました。私は自然に恵まれた能登で生まれ育ったので、余計そう感じてしまったのかもしれません」。
ちょうどその頃30歳を迎えた、しほりさん。
「そんな心の変化とともに、結婚や出産などの次のライフステージを意識し始めたタイミングで、たまたま訪れた能登の酒蔵で出会ったのが、夫でした。お付き合いする間もなくプロポーズを受け、4ヶ月後に結婚。周囲はそのスピード感あふれる展開に驚きましたが、私は能登に呼ばれて使命を与えてもらったような気がして、安堵に似た喜びを感じていました」。
こうして明治2年創業の数馬酒造5代目社長でもあった嘉一郎さんと結婚したのは、10年前のこと。そして、2人の兄弟の母親にもなりました。
「ハイヒールを脱ぎ捨てた今は、フラットシューズがユニフォームです」と笑うしほりさんは、そんな毎日がとても心地良いといいます。
「酒造りもそうですが、めぐる季節や自然と共存しながら営む暮らしに心が潤うんです。自然、伝統工芸、一次産業……人為的に作り上げたのではない“本物”がすぐそばにある能登の素晴らしさを、日々感じています」。
そんな美しい風景と喜びに満ちた日常を突如として襲ったのが、2024年1月1日の地震でした。
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