
「家族」を言い訳にしない、守りに入らない。わが子に誇れる「生き方」のために、私が挑戦したコト【体験談】
夫が退職して、私はますます自由になった
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インタビューの間、何度も「交際当時から、私を肯定して背中を押してくれた夫のおかげで、私は思考と行動の『自由』を手にすることができた」と口にしていたたま子さん。とはいえ、さすがに「夫の退職」という事件では奪われた自由があったのでは――そう尋ねてみると、たま子さんから返ってきたのは、意外な答えでした。
「退職前の夫は朝6時から20時頃まで勤務だったので、家事・育児の大半は私の役割。ところが、退職して在宅ワークになった夫との間で、その比重を見直すことができました。むしろ私は、仕事にフルコミットできるようになったんです。
この『フルコミット』は、一家の大黒柱として責任がのしかかるということではなく、私がやりたいことに全力投球できる、という意味。彼に任せられる育児や家事が増えたことで、それが実現できました。だから、夫が退職して、私はむしろラクになったし、やっぱり自由なままでしたよ!」
自由は「奪い合うもの」ではなく、「尊重して増やしあうもの」
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退職した夫との新体制が始まったのは2023年の夏。ところがその数カ月後、今度は「たま子さんの父が倒れた」というしらせが届きます。
「別居している父と連絡を取っていたのは私だけ。家族内の伝書鳩のような役回りでした。だから『父が入院する』という一報にも、私が前面に立って対応したんです。
父とは年に数回会っていましたが、実は怪我をする少し前から、お金を無心されるようなことがありました。娘としては、そんな父を見たくない。徐々に足が遠のいていたところに起こった出来事でした。
入院のために身の回りのものを揃えようと、久しぶりに父の自宅に足を踏み入れた時……愕然としました。空っぽのペットボトルがあちこちに転がって、冷蔵庫の中は数年前に賞味期限が切れたものばかり。病院に持ち込むタオルをまとめようにも、見つからない。認知機能が衰えて、お金の管理や使い方の判断もできなくなっていたんだ、と、ようやく父の状態に気づきました。なぜここまで放置してしまったんだろうって、ものすごいショックと後悔でしたね」。
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突然始まった父の介護。制度上、入院できるのは2カ月間。退院後に入所する施設の検討も、そのためにどうお金の工面するか考えるのも、すべてたま子さん一人の肩にのしかかりました。
「あれこれしんどいことばかり考えなくちゃいけないのに、かたや自分の仕事だってある。育児は夫に任せられたものの、そうすると子どもはすっかりパパっ子になるのも、なんだか不本意で切ない。本当は介護の負担を減らして、子育てに時間と心を注ぎたいのに、見事に真逆の状態でした」。

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自由な時間も全くない日々。心身の不調を自覚するようになったたま子さんが導き出したのは「休職する」という決断でした。かつて夫がそうしたように、自らの資産を棚卸し、投資信託の追加などで経済的な算段を立て「結婚協定」の責任が果たせることは確認済み。それでも、やはり不安は否めなかったようです。
「いくら縛り合わない夫婦とはいえ、さすがに夫に相談しましたよ。『どう思う?夫婦そろって安定して働いてない状態って、さすがにマズくない?』って。でも夫は、『こちらの退職を何も言わずに受け入れてくれた君に、何も言えないよ』と。その上で、お金では測りきれない私が望む時間の使い方や生き方を、肯定してくれました」。
夫の退職に続き、自らの休職も。困難の前で“自由というパイ”を奪い合うのではなく、むしろパイの総量を増やす――たま子さん夫婦はいつもそんな方法で、家族の壁の向こうにある新たな扉を開いていくようです。
家族がいるから「守りに入る」のではなく、「自分に嘘をつかず挑戦できる」

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職場から離れ、少しずつ生き方を整理してきたたま子さん。1年ほどかけて、次なる風景をだいぶはっきり描けるようになったといいます。
「仕事と距離を取ってみて初めて、職場でやるべきことはやりきったと思えている自分に気づきました。もう少し落ち着いたら、場を変えて新たなキャリアを開拓しようと準備を進めているところです。
畑違いの場に踏み出そうとしているので、できないことばかり。新しいことを知れば知るほど、自分の力不足と現在地との差分を思い知らされて打ちのめされそうになりますが……今回も夫は私を信頼して、背中を押してくれています」

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この1年で、揃って次なる新たな世界に踏み出し始めたたま子さん夫婦。その選択の裏には、実はもう一つの理由もあるようです。
「子どもはようやく3歳になろうとしているところ。まだまだ小さい彼女の存在が、私たちが自分に正直であることを後押ししてくれているんですよね。
夫の退職は、育児を発端にした人間関係のもつれが最終的な火種になりましたが、それ以前から、彼は同僚との関係に違和感を抱いていました。私は私で、仕事の新たな目標を見失っていた部分がありました。二人とも数年前から、そういう思いをきっと抱えていたんです。それでもそこに居続けたのは、『人生って、仕事って、きっとこんなもんだよね』という割り切りに見せかけたあきらめがあったから。
ところが、子どもが生まれてからというもの、少なくとも私は自分に問うんです。『これはこの子に見せたい背中か?』って。『この結婚は失敗だった』と口にする母のもとで育ったからこそ、私は我が子に対して、『人生の選択は失敗だった』だなんて言いたくない。子どもや家族を言い訳にして、自分を縛りつけるようなことはしたくないし、挑戦を楽しむ姿を見てほしい。
娘が現れたから、私も夫も、自分の中にくすぶっていた違和感から目を逸らすのを辞めて、新しい場所や方法で生き直すことを選ぶことができたのだと思います。夫も、きっと、そう思っているんじゃないかな」。
【編集部より】
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