【不倫の清算5】「仮面妻」の孤独。40代女性がハマるニセの愛
「仲良し夫婦」を演出したがる夫
E子と夫は結婚して18年、子どもはひとりいるが県外の高校で寮生活を送っている。
ふたりは以前同じ会社で働いており、E子は夫の部下だった。夫が声をかけてくれて交際が始まり、とんとん拍子で結婚、退職が決まったあとはすぐに妊娠して出産、育児に時間を費やしている間に夫が独立して今の会社を立ち上げた。
「あっという間だったよね、ここまで。勝手に周りが動いていって、私は何もしていないの」
子どもは可愛く育児は苦ではなかったが、仕事が忙しい夫は家にいる時間が少なく、子育てについて話し合ったことはほとんどない。何を言っても「それでいい」で締めくくられる虚しさに気がついてから、E子は高校受験も息子とふたりで決めた。
息子が県外に出ていってから家での時間を持て余しているE子に、夫が「会社で働いてはどうか」と提案したのが二年前になる。
「結局ね、家が苦痛なのよ。帰ってきても私と話すことがないの。ずっと無言で別々に寝るでしょ、休みの日もふたりで出ていくなんて何年もしてないしね」
これが「仮面夫婦」なんだ、とE子は実感したが、離婚には踏み切れなかった。息子のことが気がかりだし、離婚したところで10年以上社会から離れていた自分に生活できるだけの金額を稼げるあてもなかった。
しばらくして、E子は夫の「思惑」に気がつく。会社では、夫は笑顔で話しかけてくるのだ。「昔、同じ会社で働いていた頃みたいに」気安く声をかけてくる姿には違和感があったが、それは社員や外の世界に対する「ポーズ」なんだと、すぐにわかった。
自分を会社に誘ったのは、夫婦仲良く事業をがんばっています、という自分を演出したかったから。ある日地元の雑誌から取材の依頼を受けたとき、あらかじめ用意された質問の「解答」を必死に考える夫を見てE子は痛感した。
「馬鹿みたいだけどさ、ほんとにね、何のための結婚なんだろうなぁって……」
そのとき、下を向いたE子の瞳には深い影があった。