バツイチ独身女がハマった「都合の良い不倫」のドロ沼【不倫の精算 7】
恋愛は面倒なもの
G子と彼の出会いは5年前、今とは別の派遣先で働いている頃の上司が今の彼だった。
彼のほうからG子に声をかけ、肉体関係を持つまでそう時間はかからなかった。G子はその頃も今と同じように恋愛にのめり込むことは避けていて、本当に体だけのドライな関係のつもりだった。
だが、いざ付き合ってみると、彼も配偶者の浮気で大きな悩みを抱えていた。世間体を気にして離婚は避けたが、夫婦の仲は修復が不可能なくらい冷え切っていた。子どもがいないこともあって、完全な仮面夫婦だったという。
そんな彼の姿が、昔の自分と重なった。夫からの拳に怯え、小さな娘と肩を寄せ合うようにして過ごした惨めな自分を思い出したとき、G子は彼を精一杯励ますようになっていた。大丈夫、私がいるから、と。
そのせいもあってか、ふたりの絆は順調に育っていった。彼の妻は、彼が不倫をしていることに気がついても何も言わなかった。G子は娘を紹介することは避けたが、ふたりで誕生日を過ごしたり旅行に出かけたりと、それなりに幸せな時間を過ごしていた。
が、それでもG子は彼に離婚を望むことはなかった。
「娘のため」、をいつも前面に押し出してきたが、本当の理由は別にあった。
どんな嘘? と尋ねると、G子は
「彼に、ほかに好きな人ができたって言っちゃったの」
と答えた。思わず呆気にとられ、「なんでそんな嘘をつく必要があるの?」と返すと、G子は
「彼が独身になったら、私の自由がなくなるじゃない」
と今度は吐き出すように言った。
G子にとって、彼はあくまで「既婚者」でないと困るのだった。別れて独身になってしまったら、正々堂々と付き合える代わりにふたりの関係に責任を持つことになる。
G子は何よりも娘の存在を大切にしている。だが、自分のことをないがしろにするわけではない。自由でいたい。5年も不倫の関係を続けていたのは、この関係に無責任でも良いという暗黙の了解を勝手に手にしていたからだった。
だが、
「離婚されたら困るから別れるなんて言えないじゃない!」
と視線を落としたまま肩に力を入れるG子の姿には、どこかで矛盾を感じた。
彼のことが本当に軽い存在なら、すっぱり別れを切り出せたはずだ。だが、それができないのはどこかでG子自身もこの不倫を大切にしていたから。先はないと思いながら、一方で彼を愛している気持ちもまた、事実だった。
だから嘘をついた。それはG子の弱さだった。
だが、G子の意図に反して彼が取った行動は、さらに離婚に向けた動きを進めるというものだった。
「自分が離婚しないせいでほかのオトコを好きになったって思ってるんだね」
だから、離婚すれば戻ってくると考えたんだ。ぼそっとつぶやくと、頷きながらG子が言った。
「もう、これだから恋とか面倒くさい……」
それが彼女の本音だった。