
「入れる施設はありません」介護のプロもお手上げ。認知症の母、仕事に子育て……それでも私が、心折れずに向き合えた理由とは?
プロもお手上げ。母の行き場所がない……その時、視界を広げてくれたのは、経験者の一言だった
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ところが、母親の「前頭側頭型認知症」は、発症率が低く、プロもその対応に不慣れだという現実が、高い壁として立ちはだかります。
「ケアマネ―ジャーさんが言うには、『気持ちはわかるけれど、何もしてあげられません』と。こちらが困ってプロに相談しているのに、『こんな風に動ける認知症の方が入所できる施設はないんです』と言われてしまって……まさに詰んだ状態でした」。
そんなyuraさんを救ったのは、所属していたオンラインコミュニティの仲間からの一言でした。
「コミュニティで介護について話した私に、介護経験者のメンバーが『そういう状態でも、きっと預かってくれるところはあるはず』と、体験談を共有してくれたんです。
そう言われたら、『近所で探したり、ケアマネージャーを頼るのではなく、もっと視野を広げて調べてみる方法もあるのかも』と、ちょっと違う方向へと考え方をシフトできました。それから間もなく見つけたのが、民間のサービス会社。駆け込んでみたら、相談員さんが『頼れそうな先を探してみますね』って……『ああ、助かった』と思いました」。
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後日、相談員がリストアップしたのは3か所の施設。弟とも話し合った結果、yuraさんの自宅に近い施設に入所が決定しました。
「前頭側頭型認知症は、私たち同様、当事者の行き場所がなくて困っているケースが非常に多いようです。『どうやって施設をみつけて、どこに入所しているの?』と、医師に聞かれることも。施設に頼れた私たちは、本当にラッキーだったと思います」。
それまでの関わりから一歩外に踏み出し、新たな視界に選択肢を求める――それがyuraさんが家族を守るためにとった手段でした。
理解のある職場と、自ら積み重ねる行動があってこそ。ダブルケアと向き合いながら考えたこと
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自宅から近距離の施設を選んだことで、それまで以上にyuraさんが介護の中心を担うこととなりました。入所からおよそ1年半。今の状況はというと――。
「実は、今は一旦病院に入院しています。少し前に、自分で嚥下(飲み込み)ができなくなってしまったんです。飲み込む行為に恐怖を感じるようで、食べ物どころか、水分も取れない状況になってしまいました。でも、プロってすごいですね。言語聴覚士さんが提案してくれた食事介助用具を使えば、口から食事がとれるようになったんですよ。
何とか状態がよくなりつつあるので、元の施設に戻るつもりが受け入れを拒否されてしまって……。今は次の施設を探しているのですが、ことごとく断られてばかり。そういう器具を使った介助経験もないし、状態的に難易度が高いから、って……」。

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行き場の目途が立たず、パニックになってもおかしくない状態。それでもyuraさんはダブルケアばかりか、仕事まで両立させています。
「ダブルケアという点で大変なのが、そもそも施設に幼児が入れないんですよね。周りの人に預けようにも頻度が高すぎるので、そこはもう割り切って、職員の方が集まる事務室でちょっとだけ見てもらったりもしています。
娘と母の関わりでいうと、かつてにこやかに接してくれたおばあちゃんが、いまや反応も全然なくなってしまったので、娘はしばらく怖がっていました。でも、私が『以前のおばあちゃんは、こんなことをしていたんだよ』と聞かせるうちに、ありのままの母を受け止めてくれるようになりました。一緒に面会に行って、一緒に音楽を聞いて、時には『おばあちゃんに、絵描いてあげる!』とかね。
一方で、仕事にかなり皺寄せがきているのは正直なところです。10~17時の時短かつ在宅勤務ですが、施設からの相談は絶えないし、施設から精神科へ通院させる日は4時間くらい費やすことに。その合間に、保育園の送り迎えも……。それでも救いなのは、職場に理解があること。社長が介護経験者なので、家庭の事情を最優先にさせてもらえる環境に助けられています」。
自分を壊さず、守るために。感情を外在化して、理論的に行動する

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理解ある我が子や職場に、感謝の言葉を口にするyuraさん。苦労はしつつも前を向き続ける姿が印象的です。どのように自らの心を整え、保っているのでしょう。
「まずは、気持ちを自分の外に出すことを大切にしています。たとえば、私は音声配信で介護の日々のあれこれを吐き出していますね。こんなカロリーたっぷりな話題を身近な人に毎日聞いてもらうのは憚られるけれど、音声配信なら聞きたい人だけ聞いてくれる。母の状態やその日自分が考えたこと……思いを外在化すると、少しだけ気持ちが落ち着くし、コメントで専門家ならではの知見や体験談を寄せてくれる人もいる。想像以上に大きな助けになります」。
さらに、「行動することで、心が保たれている」とも。
「音声配信のリスナーからは、『行動量が多過ぎる!』『yuraさん、絶対影武者がいるよね』なんて言われることも(笑)。では、なぜあれこれ動くかと改めて考えたら、自分が壊れないようにするためなんですよね。
実は昨秋、施設内で母への虐待が判明したんです。それを聞いて、弟も、私の夫も、ケアマネージャーさんも激怒したのですが、私は不思議なほど冷静でした。その姿を見た夫に『なんでそんな冷静におれんの?人間的に、どっか欠落してるんじゃないの?』と言われて、初めて叫んだんですよね。『私だって嫌だよ!悲しいよ!!』って。
その出来事も踏まえて気づいたのは、『母のことばかり考えすぎて怒りや不安に身を任せると、自分が壊れてしまう』と潜在的に感じていたんだな、ということ。論理的に考え、行動に移して、自分を守っているんだと思います。
だから、介護はもちろん、それ以外にも、どんどん積極的に手を伸ばすんです。休日だからといって介護最優先にはせず娘とお出かけしますし、平日早朝の時間を使って副業をすることも」。

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セルフコントロールをしながら、パワフルに日々と現実と向き合うyuraさん。高い壁を前にしても踏ん張るエネルギーの源泉をたずねると、ふっと柔らかくほほ笑みながら、こう答えてくれました。
「少し前、通院先から施設に戻る合間に、母と外食に立ち寄ったことがありました。その時ね、一瞬、私のことを娘として思い出してくれたんです。言葉にはしないけれど、『あれ?なんかこの人知ってる人かもしれへん』という表情が見て取れた、あの時が一番嬉しかったなあ。毎日やるせなくて、切なくて、考えることも決めることもいっぱいで、正直涙を流す日もあるけれど……あの母と通じ合えた一瞬が、私の大きな力になっています」。
私の人生も有限だから。1割でも関わっていたら、介護はきっとハナマル

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「こちらがあれこれ考えて結論に辿り着く前に、すごいスピードで刻々と状況が変わるものだから、私が追いつけないんですよね」と、答えがない日々と向き合い続けるyuraさん。
「もしも似たような境遇に悩む方がこれをのインタビューを読んでくれているのだとしたら、何より、自分の心を守ってほしい。介護から離れる時間や、楽になる方法を見つけてほしい――そう思います。私の場合は『積極的に行動する』ですが、自分に合うなら『愚痴を聞いてもらう』でも構わない。それがきっと、自分の人生を生きる一歩になるはずだから。
身近な人には話しにくいことが多いなら、リアルでもオンラインでもいいから、利害関係なく安心できる居場所を見つけてほしいですね」。

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そんなyuraさんの言葉からは、自分と介護の間に前向きな境界線を引こうとする『家族のカタチ』が伺えます。
「一時期、私が母を家で見ればいいのでは、と思い詰めたこともありました。今でもやっぱり、『私がケアをすべきでは』という義務感や迷いは拭えません。でも、私の人生も有限なんですよね。
ある時、友人に『自分のために、娘にどっぷり時間や手間を費やしてほしいと、お母さんは思わないんじゃないかな』って言ってもらったことがあったんです。確かに、私も娘の負担にはなりたくないし、母も多分同感だろうな、と思えました。だからこそ最近は、介護は『自力で全力投球』が最適解ではなく、自分の人生のうち1割でも関わっていたら、もうハナマルなんじゃないかな、って……そう、自分に言い聞かせています。似た境遇にあって、今まさに苦しく葛藤している方も、実は自分が考えている以上に、既に十分がんばっているんじゃないのかな。私は、そう思います」。
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