「体だけの関係」とわかっていても、抜け出せない40代独女の葛藤【不倫の精算 9】
性的な欲望を満たしてくれる相手
I子と彼が出会ったのは、会社の部署が開いた忘年会だった。たまたま隣になり、意気投合したとという。
二次会でも、I子と彼は話し続けた。彼が既婚者であることはすぐに知れたが、「そんなことより、彼の体がね」、とI子は恥ずかしそうに目を伏せながら話す。
I子にはもう何年も彼氏がいなかった。会社と家の往復で出会いもなく、単調な暮らしを続けながら、一方で高まる性欲に苦しむ日々を送っていた。はけ口にするのは、スマホで読める漫画や深夜にこっそり観る大人向けの動画。以前、インターネットのセキュリティについて質問されたとき、そういう界隈のものにアクセスしていることは知っていた。
そこで目にするたくましい男優の体が、I子の飢餓感をさらに深くさせた。恋もしたいけど、ベッドで快感を貪りたい。そんな出口のない欲で悶々としているときに彼と出会い、ゴルフで鍛えたという筋肉の乗った体に、まずI子は目を奪われた。
「でも、写真はマズいでしょ。どこに流されるかわからないのに」
そう言うと、「わかってるけど……」と返しながらI子の目が揺れる。顔がわかるこんな写真を不倫相手に簡単に渡してしまうことは、それだけ弱みを握られることにもなる。万が一、彼が危険な男だったら。
「せめて顔は写さなくてもいい?」とI子がお願いしたとき、彼は「顔が写ってないと興奮しないから」とあっさり却下したそうだ。こんな写真を求められるようになったのは、I子からホテルに誘い不倫関係になって数ヶ月後のことだった。
想像通り、彼とのベッドは「最高」だった。重量のある体に圧倒される快感は、ずっと男性と寝ていなかったI子の欲望を解放した。その頃から、I子の雰囲気は親しみの感じられる柔らかいものから、色気を含んだ女の「性」をにおわせるものに変わっていった。
「彼のことは、まぁ一応好きだけど」
と毎回断りを入れるが、I子から聞かされる話はいつもベッドの中のことだった。自分たちがどれだけ相性が良いか、どれだけ気持ちが良いか、そこに相手が既婚者という罪悪感はなく、純粋に性的な欲望を満たしてくれるパートナーのような感覚があった。
そして、「エッチな写真が欲しい」と彼からお願いされるようになったとき、I子はすっかり彼の肉体へのぼせ上がっていた。
離れている間も性的な刺激を求め合う快感が、I子から危機感を奪っていた。
請われるまま、布地の少ない下着を身に着ける。「着たままできるものがいいって」とはしゃぎながら話す姿には、彼の真意を疑う理性が見えなかった。そしてI子自身、そんな「オトコの欲を形にした下着」を普段から身近に感じることで、さらにベッドでの時間へとのめり込んでいった。
こんな関係がいつまで続くのか、それを危惧する瞬間も持てないまま。