「しばらく立ち上がることができなかった」元TBSアナが話題の映画『国宝』鑑賞で陥った「不思議な感覚」とは
アンヌ遙香です。今おすすめしたい映画をフックに今思うことを語る連載で今回は『国宝』をクローズアップ。この作品が傑作である理由についてさらに語ります。
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「国の宝」とは何なのか
そもそも人間国宝というのはある特殊な「わざ」を保持している認定保持者のことを指します。文化庁のホームページに詳しく掲載されていますが、演劇や工芸などの「無形文化財」すなわち人間の「わざ」を高度に体現している保持者もしくは保護団体を認定し、日本の伝統的なわざの継承を図っていくという背景がそこにあるわけです。
人間国宝に認定された時点で高度な「わざ」をその人が所持しているのは変わりないわけですが、作中で印象的な言葉がありました。ネタバレになりますので若干ぼやかして表記しますが、ある登場人物がいわゆる人間国宝に認定された際、「あなたがここまでたどり着くまでに、どれほどの人を苦しめてきたか、犠牲にしてきたか、わかっているのか」というような言葉を投げかけられます。しかし「それでも、あなたの舞台を観ればまるでお正月が来たかのような晴れやかな気持ちになったのは事実だ」と続きます。
人間国宝は、様々な人間の目に見えない「わざ」の凝縮
そうなのです。ひとりの人間国宝が生まれるまでに、それはもちろん個人の才能や努力、運命などによるところも大きいのは確かですが、その人物の肩には目には見えない多くの人々の、あるときは犠牲であり、ある時は尽力であり、無償の愛であったり、、、裏方さんの日々の準備など、数えきれない人々の艱難辛苦の積み重ねがあるわけです。その中には劇場に足を運び続けた観客ひとりひとりの存在もあるはず。
要するに、「国宝」誕生までには、まったく無関係に見えるような人々の、目には見えない日常の積み重ねがそこにはある、という、当たり前なようでいて実は忘れがちな事実が確かにあるのです。どんなかたちであれ、数えきれない人間の「わざ」が折り重なって誕生するのが「人間国宝」。だからこそ「国の宝」であるわけです。
それに何となく思いを馳せたとき、本当に不思議な感覚なのですが、(これはおそらく原作者・吉田修一氏の意図しているものではないだろうということは重々承知の上で発言しますが)目に見えない無数の個人の力の凝縮が人間国宝であるならば、実は全く無関係に見える私たちですらじつは「国宝」の一部なのではないかと思うのです。
すなわち、人類みな国宝、といっても過言ではないのではないかと、そんな不思議な考えが私の中に浮かんだのでした。この映画の観客一人ひとりが実は「国宝」である、ということなのかも、なんて思ったり。
もちろんこれは私が劇場で感じたこと。皆さんはどうお感じになるか、ぜひ体感していただきたいです。ちなみに、上映中何度泣いたかわかりません。その疲れも相まり、エンドロール後しばらく立ち上がれなかった私でした。唯一無二の体験をぜひあなたにもおすすめしたい。
『国宝』 全国東宝系にて公開中
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
原作:「国宝」吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督:李相日
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、渡辺謙
映画『国宝』公式サイト
アンヌ遙香
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道生まれ。お茶の水女子大学大学院ジェンダー日本美術史修士。2010年、TBSに入社。情報番組『朝ズバッ!』、『報道特集』、『たまむすび』等担当。2016年退社後、現在は故郷札幌を拠点に、MC、TVコメンテーター、タレントとして活動中。文筆業にも力を入れている。ポッドキャスト/YouTube『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。仏像と犬を愛す。
インスタグラム:@aromatherapyanne[/hidefeed]
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