「この子と一緒に命を絶とう」思いつめた重度知的障害児の母親。孤独のなかで見つけた、もう一つの生き方【体験談】
第2子出産、ところが――。

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第一子出産から3年後。まどかさんは無事に、次男をその腕に抱きます。思い描いた青写真が現実となり、喜びに満ちた新生活となるはずでした。ところが、次男が一歳半検診を迎えた頃、4人家族となったまどかさん一家の日々に、静かに影が差し始めました。
「検診の場で『できないことが多い』と発達の遅れを指摘されたんです。たまたま同伴していた義母はとても心配していたのですが、私は『まったくもう、そんなこと言っちゃって!』と、あまり真に受けてはいませんでした。だって、目に見えて気になる様子も、育てにくさもありませんでしたから。個人差の範疇だと思っていたんです。
でも、数カ月が経ち、半年が経過しても、次男の口からは一向に言葉が出てこない。さすがに『あれ?』と思い始め、2歳ごろから療育機関に通い始めました」。

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発達に関する診断が可能なのは、一般的に3歳ごろからと言われます。その診断を待たず、療育に通わせ始めたまどかさんでしたが、事態は思うように好転しませんでした。ようやく3歳を迎えた次男に専門医から告げられたのは、「知的障害を伴う自閉症」という診断だったのです。
「次男は現在小学5年生。ところ構わず『キキキキ』『トトトト』と声を発したり、パンパンと手を叩いたりします。こちらの言うことを理解できる部分もありますが、本人からの発語はありません。知能面での発達レベルは、今も2~3歳程度と言われています。次男の場合、この知的発達は年齢に比例して大きく成長するわけではありません。療育手帳の等級的には『重度』ですが、『最重度』との境目ギリギリのところですね」。
『命を絶つ』という選択の向こうに見つけた希望

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幼い次男に突き付けられた厳しい現実。それと時期を同じくして、夫婦関係を大きく揺るがすもう一つの大きな出来事が、まどかさんに襲い掛かっていました。次男の出産前から長きにわたる、夫の裏切り行為が発覚したのです。
次男の障害がわかってからの夫は、『なんだか大変そうだね』とまるで他人事。『俺なりに心配しているんだよ』とは言うものの、具体的なサポートも寄り添いもない。それに裏切り行為が加わったのですから、まどかさんの気力が尽きるのも自然な流れでした。
「あの頃は、下の子を連れて命を断つことばかり考えていました。『この子は生きていても、将来大変なだけだ』って。夫が一緒に頑張ってくれるわけでもないし、未来が見えない。本当にギリギリの状態でした。でも、苦しみふさぎ込む日々を過ごしたある日、ふと思ったんですよね。『人生を終える』という究極の道を選べるなら、真逆の方向に振りきって『自分が生きたいように生きる』というもう一つの道も選べるんじゃないかって」。

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それまで夫との関係に行き詰まり、幾度も「離婚」の選択肢が頭をよぎりつつも、自らの生活力のなさに足踏みしていたまどかさん。が、この考えに辿り着いたのを境に、2人の息子とともに、のびのびと自分らしく生きる方法を模索すべく、一気に舵を切ります。
まず着手したのは、離婚を認めてもらうための証拠集め。その傍らで、自身の働き方や暮らし方の徹底的なシミュレーションを開始します。障害児育児と両立させながらどれほど稼げるのか。障害児支援の充実度はどうか。生活面でのメリットが大きいのは、当時住まいがあった西日本なのか、それとも両親が暮らす都内なのか。――情報収集と検討を重ねた結果、辿り着いた答えは、「東京に住まいを移し、両親と一緒に暮らす」という道でした。

「都内は家賃も物価も高いけれど、各種手当や障害者への支援がとても充実しました。そして、両親の手も借りられるという安心感もある。
小学校入学を控えていた長男は、環境の変化に抵抗を示すのではと心配しましたが、離婚も引っ越しも、拍子抜けするほどすんなり理解してくれたんです。話をした翌日には、保育園で『僕、東京の学校に行くんだよ!』って友達にケロッと報告していたくらい。もちろん、心配させないように振る舞っていたのかもしれませんが……長男の前向きな姿にも背中を押してもらえました」。
こうして、時間はかかりつつも、離婚は成立し、新生活の方向が定まりました。それもこれも、絶望からふと視線をずらした先に見つけた新しい光を、まどかさんがしっかりと握りしめたからこそ。家族3人の新たな「家族のカタチ」が幕を明けたのです。
次回は、シングルマザーとして「自分の人生を生きる」日々で目にしている景色や、今後の自分と家族の生き方について思うことを伺います。
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