あまりに酷な江戸の刑罰、50日も手錠につながれる「手鎖の刑」!命がけで贅沢を楽しんだ江戸っ子と、そこから生まれた華やかな文化
*TOP画像/定信(井上祐貴) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」34話(9月7日放送)より(C)NHK
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は江戸時代における「質素倹約」について見ていきましょう。
江戸幕府は“金欠状態”だった!?
江戸時代といえば、徳川家の大奥に象徴される政治体制のもと、市中ではさまざまな文化が花開きました。また、江戸の町は当時のイギリスやフランスと比べても清潔だったといわれています。そうはいっても、幕府は常に赤字財政であり、金欠状態でした。このため、幕府は庶民に贅沢を禁じ、質素倹約を何度も命じていました。
『べらぼう』においてもこうした時代思潮が34話から描かれています。井上祐貴が演じる松平定信が、渡辺謙が演じる田沼意次に代わって老中の座に就き、市中に質素倹約の気風を広めていきます。
また、蔦重が生まれる前の1716年にも、徳川吉宗は享保の改革を出し、国民に質素倹約を呼びかけ、田んぼを増やしました。享保の改革は効果があったものの、農民の負担は重く、この時期には“年貢の取り立てがつらすぎる”と悲鳴が上がり、百姓一揆も頻繁に起こっていたといわれています。なお、吉宗は定信の祖父にあたる人物です。
そうした中で、意次は新たな方法で幕府の経済を立て直そうとします。彼は商売を活性化し、税金を取ることで、財政を立て直そうと試みたのです。意次はそれなりに成果を出し、平賀源内のような新進気鋭の人を育て、守りましたが、意次が失脚し、定信が老中の地位を得たことで、江戸の雰囲気はガラッと変わります。
定信は財政の厳しさを鑑みて、倹約令を出し、民に節約を要求します。また、1789年には、全国の大名に飢饉に備えて米を蓄えるように命じ、1万石につき、50石の備蓄を命じました。さらに、1791年には、飢饉や災害などで窮地に陥った人たちを保護するために町人に財を蓄えさせました。町の運営費を節約し、蓄財分のお金を捻出します。
定信は民に節約を命じただけでなく、浮ついた心を抑えようとしました。そこで、目を付けたのが、朱子学。上下関係や礼節を重視するこの学問を幕府の正学に定めたのです。
さらに、定信は出版統制も行いました。いつの時代においても、強い信念を持ち、上の者の言いつけに背く人はいます。蔦重も山東京伝も面白い本をつくることにこだわり、妥協しませんでした。山東京伝は違反する本を書いたため、罰金刑や50日の手鎖の刑を受けました。蔦重もまた罰金刑を受けています。
命令にこっそり背くのはいつの時代も同じ!?
生活水準を一度上げると前の暮らしに戻れなくなるものですし、おしゃれの楽しさを知ると地味な服では人生が味気なく感じるものです。
幕府が“節約しろ!” “派手な着物を着るな!”と命じたところで、江戸っ子たちは“はい、わかりました!”と素直にうなずいたわけではありません。かれらは命令の抜け道を探し、ファッションをコソコソと楽しんでいました。例えば、町民の着物の色や素材に厳しい規定が設けられた時期がありましたが、その中で、遠くからは無地に見える小さな柄の着物や、凝った裏地を用いた着物が人気を博しました。“魚のかば焼き”や“かたつむり”が裏側に描かれた着物もあったそう。一見したところ、地味な着物であっても、分かる人には分かり、自分が着るときに喜びを感じられるデザインです。
女性たちもまた、おしゃれを簡単にはあきらめませんでした。現代においても、多くの女性がヘアアクセサリーにこだわっていますが、当時も同じ。多くの女性たちがステキな櫛(くし)や簪(かんざし)をファッションのワンポイントにしていました。今でも高級素材風のヘアアクセサリーが存在しますが、当時もベッコウもどきの櫛が広く流通していました。しかし、贅沢禁止令が出されると、派手な櫛や華やかな簪を市中で身に着けることが難しくなります。そこで、出てきた製品が、頭に耳かきが付いた簪です。建前上、“耳かき”として使用することもありました。江戸女子の“私は簪なんて付けていないわ。これは耳かきよ”と自己弁護する声が聞こえてきそうです。
さらに、友禅染の着物が出現したのも贅沢禁止令のおかげといっても過言ではありません。武家や商人のお嬢様たちは刺繍や金銀箔が輝く着物を着ていましたが、幕府によってこうした贅沢は禁止されます。幕府の命令に背かず、美しいものを着たいという女性たちの想いから生まれたのが、友禅染だったのです。
本編では、江戸幕府の財政難から生まれた松平定信の質素倹約令と、それをくぐり抜けた江戸っ子たちの粋な抜け道についてお伝えしました。
▶▶田沼派・蔦重、黄表紙で反撃! 大奥も揺らす松平定信の質素倹約令と“書を以って抗う”決意
では、定信の新政に真っ向から挑んだ蔦重の戦いと、その裏にある田沼派の絆についてお届けします。
参考資料
金谷俊一郎『30の失敗でわかる日本史』芸文社、2007年
上念司『経済で読み解く日本史 江戸時代』 飛鳥新社、2019年
本郷和人『東大教授がおしえるシン・日本史』扶桑社、2022年
堀江宏樹『女子のためのお江戸案内: 恋とおしゃれと生き方と』廣済堂出版、2014年
スポンサーリンク









