腹を切り、豆腐に頭をぶつけて死を選んだ戯作者。命がけで笑いを生み続けた江戸の出版現場の悲劇耕書堂開業以来の最大危機とは【NHK大河『べらぼう』第36話】
春町の死の真相と喜三二の人気絶頂期における引退
前回の放送回では、春町が“よろこんぶ”こと『悦贔屓蝦夷押領』の売れ行きが京伝と喜三二の黄表紙と比べて悪いと落ち込んでいましたが、この時期の彼は本業で出世し、重臣になっていたため、作品の質が落ちていました。
しかし、春町は『鸚鵡返文武二道』で復活を果たします。この本は定信が著した『鸚鵡言』を揶揄した内容で、オウム返しのようにうるさい世相を批判したものでした。同著は幕府の怒りを買い、蔦重はこの本の絶版処分を受け、春町は江戸城に出頭するように命じられました。春町は仮病で出頭を拒否し続けた結果、自身の主君である譜代大名に迷惑をかけることになったといわれています。その責任を感じて引きこもり、そのままこの世を去りました。本作では春町は腹を切り、豆腐の角に頭をぶつけましたが、彼の死因は定かではありません。
喜三二については引き際がよく、逃げ切ることができました。秋田藩主・佐竹家は喜三二の『文武二道万石通』が大ブームとなった時期、作品が幕府から咎められ、その咎めが藩にまで及ぶことを恐れ、執筆を辞めるように命じました。彼は“殿の命令には逆らえない”と判断し、戯作からいさぎよく身を引いたのです。
定信が権力を握っていた時期、蔦重は耕書堂の発展に貢献し、支えてくれた何人もの仲間を失いました。
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参考資料
伊藤賀一『面白すぎて誰かに話したくなる 蔦屋重三郎』 リベラル社、2024年
日本史ミステリー『日本で本当に行われていた 恐るべき拷問と処刑の歴史』彩図社、2015年
三栄『時空旅人 別冊 蔦屋重三郎 ─江戸のメディア王と波乱万丈の生涯─』 三栄書房、2025年
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