子どもに手を焼いている親に知ってほしい、小児患者サポートのプロがやっている「心の扉の開け方」と「周囲への上手な相談のしかた」
「こうしてほしい」ではなく「こんな状態を目指したい」と相談するのが効果的な理由
―― ちなみに、作中ではCLSが子どもの本音に寄り添う姿が鮮やかに描かれていますが、実際にはうまくいかない場面もあるんですか?
もちろん、あります。
たとえば、勤務時間終了後のタイミングで、「明日の朝のオペに向けて説得をしてくれ」と依頼が来たとき。私は残業をすればいいにしても、患者さんにとっては、その時刻はベストなタイミングとは限らないわけで…もはや手段は限られていて「うん」と言わせるしかない。そんな気持ちのまま病室に足を運んで、強引にバタバタと進めようとすると、間違いなく失敗しますね。
―― そういう時はどうするんですか?
時間を置くのも手ですが、もうその猶予がないわけですから、人を変えます。「失敗しちゃったから……お願い」と、看護師さんなどのスタッフにヘルプを出します。
―― 子ども対応のプロでさえ、別の専門家に助けを求めるんですね。
もちろんです。そしてそれって、とても重要なんですよ。
私だって人間ですから、全員に好かれるとは限りませんし、私が得意ではない方法がベストアンサーのこともある。CLS=最後の砦ではなく、現場のスタッフ同士の得意や人柄を差し出し合って対応します。
だから、親御さんだって「自分の子だから……」と、いろんな困難を一人で抱え込まなくても大丈夫。別の人に対応を任せるのは、決して逃げではありません。大事なのはその事態を「親が」「CLSが」何とかすることではなく、その子が良きサポートを得ることなのですから。
―― そんな「良きサポート」を得たいとき、周りに協力を仰ぐときのポイントはあるのでしょうか?
専門家や関係者に対して、「こんなこと言っていいのかしら?」と迷う親御さんを多く見てきましたが、まずは周りと話すことをためらわないでほしいです。そして、「何に困っているのか」、「どうなればいいと思うのか」――その2点を伝えることだと思います。
たとえば病院だと、食事を全然食べない子の親御さんから「食べ物を持ち込んでいいですか?」と相談されることが多いんです。でも、そう聞かれてしまうと、「規則上、ダメです」としか答えられません。
でも、「ご飯を食べるようになってほしいんです」と、目指したいゴールを伝えてもらえれば、栄養部につないで、メニューを相談する場を設けたりできます。食べられない理由が食事そのものではないところにあれば、医師や看護師がお役に立てることだってあるかもしれませんよね。
―― なるほど!頼らせてもらう申し訳なさが先に立って、「親の自分ができる方法」を具体的に提案したほうがいいのでは、と思っていました。
そうだとしたら、「どうしてそれがしたいのか」という理由を併せて伝えてみるといいですよ。
大切なのは、「こうしたい」「こうしてほしい」ではなく、ゴールを共有すること。本作で描かれるように、一つの行き先へ辿り着くためには、様々なアプローチや手段があるんです。親御さんが知らない方法を持つ人たちも、いるかもしれません。だから、「ここに向かいたい、でも走り方がわからない」と伝えてみることで、周りの人たちは、もっと手を差し伸べやすくなるのでは、と思います。
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「ゼノン編集部」https://comic-zenon.com/

天野香菜絵/埼玉県立小児医療センター チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)
2010年米国ルイジアナ州ルイジアナ工科大学チャイルド・ライフ学部卒。卒業後、ミズーリ州Children’s Mercy Hospitalにてインターンを経て、2012年より地方独立行政法人埼玉県立病院機構埼玉県立小児医療センターにてチャイルドライフプログラムの立ち上げ・運営を行い、現在に至る。
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