人間には「欲」が必要?吉原・女郎屋・庶民の現実から見える江戸の真理【NHK大河『べらぼう』第37回】

2025.10.01 LIFE

人間が生きるには「欲」が必要

江戸時代は戦の火が燃え盛ることはなかったものの、“偉くなりたい” “楽したい” “一旗揚げたい” “儲けたい”といった欲の業火が激しく燃えていたと、本作の1話において説明がありました。吉原の女郎屋の主人たちは強欲で、自らの利益しか考えておらず、自分にほんのわずかでも損になることには猛反対。

 

本作は前半においては人間の欲が否定的に描かれていましたが、後半においては人間の欲が肯定的に扱われているように思います。

 

「遊ぶってなぁ 生きる楽しみだ。楽しみを捨てろってなぁ欲を捨てろってこった。けど 欲を捨てることなんかそう簡単にはできねえんだよ」

 

蔦重は強欲な女郎屋の主人らを批判していた時期もありましたが、人間が欲を簡単に捨てられないことを今は認めています。

 

また、政演の『心学早染草』に登場する善玉と悪玉と呼ばれる人間の魂の化身のように、人間の内には善と悪の二つが存在します。

山東京伝『心学早染草』 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」37話(9月28日放送)より(C)NHK

人間は内に抱える“欲”や“悪”を抑え込むことを苦手とする傾向にあると思います。だからこそ、社会の秩序を保つには吉原のような幕府公認の場が必要なのかもしれません。

 

徳川治貞(高橋英樹)が定信に“物事を急に変えるのはよくない”と忠告していましたが、老中首座に就任後すぐに社会の在り方を変えた弊害が弱者を中心にいたるところで出てきています。りつ(安達祐実)が話すように、中州が取り壊され、岡場所も取り締まりが始まると、これらの場所で働く女たちが吉原に流れ込むようになりました。さらに、口利きの金を倹約することで、女郎屋は安く女郎を世話できるという考えも広まり、女郎が置かれる状況はこれまで以上に悪くなりそうな雰囲気です。

蔦重 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」37話(9月28日放送)より(C)NHK

ふく(小野花梨)は社会の状況が悪くなると真っ先に苦しむのは下々の者であることを理解していましたが、定信の政策でもっとも苦しんでいるのは娯楽を享受できるほどのゆとりもなく、自身の欲を満たせるほどのお金もなく、地べたを必死に這いつくばって生きている人たちなのかもしれません。

 

定信は大切なことに気づけるのだろうか…。

 

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