夫に無視されても「私に価値がないわけではない」 サイレント・モラハラの夫に支配されていた妻が、“自分の軸”を取り戻すまで
それでも別れたくない
それでもNさんは、夫と別れるつもりはありません。ときおり見せる夫の優しさに「本当は悪い人ではない」と思い、「自分がもう少し我慢すればいい」と考えてしまうのです。だからこそ、「離婚するかどうか」ではなく、「どうすれば今の苦しい状況から少しでも抜け出せるか」を考えることが大切になります。
「ごはんできたよ」と声をかけても夫からの返事はなく、子どもに「お父さん呼んできて」と頼むと、その声にだけ夫が反応して立ち上がる。それが、もう日常になっていました。
食卓に並ぶ料理はいつも三人分。けれど、会話は夫と子どもの間だけで完結していきます。「美味しい?」と聞きたいのに、その一言が喉につかえて出てこない。返事がないとわかっているからです。
それでもNさんは、家族のためにできることはすべてやっていました。子どもとは笑顔で話し、父親の悪口は一切言わないと決め、できるだけ穏やかに過ごそうとしていたのです。
しかし、一人になると……
「夫は私を愛していない」
その思いが静かに胸を締めつけていきました。
それでも、Nさんは離婚を考えてはいません。それが愛情なのか、諦めなのか、自分でももうわからなくなっていました。
モラハラ加害者の多くは、常に冷たいわけではありません。時折ふっと優しい言葉をかけたり、思いがけないタイミングで手を差し伸べたりします。この“断続的な優しさ”が、被害者の心を強く縛ります。
「本当は優しい人なんだ」
「きっと、またあの頃の彼に戻れる」
そうした“希望”が心の支えになる一方で、現実的な判断を鈍らせてしまうのです。
また、このケース(無視)のようなサイレント・モラハラは、暴言や暴力とは違って外からは見えにくいものです。そのため被害者自身が「私が悪いのかもしれない」と感じやすく、加害の構造に気づきにくいのです。「夫を怒らせたのは自分のせい」「気をつければ大丈夫」そうやって自分を責め続け、関係の中に留まってしまいます。
人は“愛していた時間”があるからこそ、簡単には離れられません。でも、我慢することと愛することは、同じではないのです。
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