母「つよ」の死、妻「てい」の妊娠……。命がめぐり、生まれ変わる。蔦重が見つめた“生”と“創作”の交差点とは【NHK大河『べらぼう』第42回】
また、二人の間には作品の制作の方向性にも乖離があります。蔦重は生産性を高めるため、歌麿の弟子が主に描き、歌麿が修正など少し手を加えれば、“立派な歌麿作”になると考えます。一方、歌麿は“一点一点 ちゃんと心を込めて描きてえ”と思っています。彼にとって絵はていが言うように“子のようなもの”だから。歌麿が絵を描いているときの姿を思い出してみると、どこか夢想的な表情を浮かべており、対象物の生命を感じながら描いている時間は、俗世界のわずらわしさから解放されているよう…。
蔦重との関係に悩む歌麿のもとに西村屋の主人・与八(西村まさ彦)が鱗形屋の次男であり、西村屋の二代目となった万次郎(中村莟玉)を連れて訪れました。
万次郎は歌麿の「虫撰」を見て胸が震え、歌麿とやりたいことを思いつく度に書き留めていたといいます。市中の男の男ぶりを売る当世美男揃え、摺(すり)を工夫した濃淡のみの錦絵など歌麿の好奇心を掻き立てるおもしろそうなアイデアがぎっしりと書かれたメモには、万次郎の熱意はさることながら、歌麿の絵への尊敬も伝わってきます。

歌麿(染谷将太) 万次郎(中村莟玉) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

万次郎(中村莟玉)のメモ書き 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK
歌麿は万次郎の熱意とアイデアに感銘を受けつつも、彼との仕事は蔦重への恩義から躊躇していました。そんな歌麿の心を大きく揺さぶったのは与八の一言でした。与八は錦絵において蔦屋の印が上、歌麿の名前が下にあることを指摘し、蔦重に長い付き合いをいいことに都合よく利用されている可能性を示唆したのです。歌麿自身、このことを何気なく感じていたものの、錦絵の蔦屋の印と自分の名を改めて見つめ直すと、心中にあった蔦重への疑問が確信であるように思えてきます。

歌麿の絵 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK
蔦屋の印と歌麿の名の位置は歌麿も意識していなかったように、蔦重も気づいていなかっただけなのかもしれません。この件は数あるうちの1つにすぎず、親しい間柄で遠慮が不要であるゆえ、仕事上本来気遣うべきことがなおざりにされていました。
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