更年期という言葉のタブー感は減ったかもしれないが、受診にはつながっていない。更年期を診察する医師が「伝えたい」こととは

母親の更年期症状が強いほど子ども自身も孤独感・不安・抑うつが高く、インターネット依存の傾向がより強く示され、また更年期症状の「血管運動症状」「心理症状」「身体症状」3つのドメインのうち、特に「心理症状」が子どもの健康状態と最も強い関連を示したことが、国立成育医療研究センター「女性の健康総合センター」の研究*1で示されました。

 

この研究を手掛けた、「女性の健康総合センター」小宮ひろみセンター長と、女性の健康推進研究室 森崎菜穂室長に、研究の背景と私たちが知っておくべきことを伺いました。

 

前編記事『母親が「更年期の不調を我慢したまま」にすると、子どもの抑うつリスクが約3.9倍に? 研究者に聞く「更年期世代が心がけてほしい」たった一つのこととは』に続く後編です。

 

【更年期を「助けてくれる人たち」名鑑】#2後編

 

更年期での受診率向上のために「必要なこと」とは?現場の医師たちの思いは

2020年のフェムテック元年から5年の間で「更年期」という言葉が持つタブー感はかなり減り、女性ファッション誌の表紙にも「更年期」という単語が入るようになりました。しかし改めて中等度以上を抱えている人でも10人に9人は治療にたどり着いていないことが今回の研究で判明しました。「女性の健康センター」で更年期診療に携わる小宮先生のご実感はいかがでしょうか。

 

「更年期がどのような時期なのかはだいぶ知られるようになり、受診の敷居も下がっているのではないかと思います。しかし、更年期症状での受診患者がどんどん増えているという実感は現場にはありません。言葉の認知は上がったけれど、医療にはつながっていないというのが現状でしょう。もっと来院して医療につながっていただきたいというのが私たちの本音です」(小宮先生)

 

まさに、遠慮せず医療につながってほしい、この1点ですよね。しかし、更年期症状の診断の難しさも受診しにくくなる要因かもしれません。

 

「更年期症状は鑑別診断と言って、他に疾患がないかを調べて、何も原因がなかった場合にはじめて下される診断です。更年期の頃に見逃してはならない症状は多々あり、それらの病気ではないことを1つ1つ鑑別する必要があるのです。ですから、何かしら不調の自覚がある場合にはまず一度病院で調べ、何もなかった場合に『やっぱり私はサプリでいいわ』と決めてほしい。少なくともどこかしらの相談窓口にはつながってほしいのです」(小宮先生)

 

とはいえ、地域差もあります。東京ならばレディースクリニックを選んで通うことができますが、たとえばお隣の埼玉県は婦人科の数が少なく、近隣での病院探しにかなり苦労すると聞いています。東京への通勤圏ですらそうですから、少し地方に行くだけでより難しくなることでしょう。

 

「確かに、地方ならば内科も小児科も地域医療をまとめて担う先生に診ていただくことも多々あるでしょう。そうした先生がたはご多忙で、なかなか更年期の最新治療までフォローできませんから、『私は更年期でしょうか』と質問しても対応が難しいこともあると思います。一度でもそういう経験をした患者さんが、それを乗り越えてまで再び婦人科を受診しようとは思わないかもしれません。医療の側でも他科との連携が必要な時代になったなと感じます」(森崎先生)

 

更年期症状での受診にも生活習慣病と同じように「管理料」を認めてもらいたい!

もうひとつ、更年期症状が持つ特有の課題もありそうです。オトナサローネは日頃取材する婦人科の先生がたから、「更年期診療は丁寧なカウンセリングと検査、診断が必要で、非常に手間と時間がかかる。かといって地域で自分の他に診る先生もいない、もうちょっと仕組みで何とかしてほしい」という本音を聞かせていただくことがあります。この、医師の過重負担感は、私たちがクリニックジプシーに陥る原因の一つですよね……?

 

「そのため、更年期症状の治療にも医療保険制度上の『管理料』を適用してほしいとさまざまな関連学会が声明を出しています。他の疾患との鑑別を行い、患者さんのバックグランドをしっかり把握してと、現状は医師にとって負担が大きな診察になりがちです。『管理料』をつけてもらえればもっとしっかり診ようという医師が増えますし、患者さんにとっても医療の選択肢が広がります」(小宮先生)

 

とはいえ厚労省も手をこまねいているわけではなく、更年期の相談窓口を拡充しており、いくつかの自治体ではすでに設置が始まっています。この流れの中ではもうひとつ、医師だけでなく多職種の連携も大事なのですと小宮先生。薬剤師、看護師、助産師などでチームを組んで情報交換を行いながら治療を進めていけるのがベストなのだそう。

 

「『女性の健康総合センター』は連携の構築を進めています。目指すのはライフコースアプローチと性差医療をベースにした女性の総合診療ですので、更年期だけを診察するのではなく、思春期からの継続的な視点を持って女性という存在に向き合っています。たとえば月経外来や女性内科などを拡充して婦人科の敷居を下げ、若いころからクリニックに通う習慣を持ってもらうことも大切です」(小宮先生)

 

出産年齢の後退とともに、「夫・父親」の育児分担はより一層重要になっている

もうひとつ、今回の研究で編集部が気になったのは、子どもの抑うつやインターネット依存という事象に対して「父親の影響は?」という点でした。子どものメンタルに母親の更年期症状が影響を及ぼすのと同様に、夫・子どもの状態もまた私たちの更年期症状に大きな影響を与えることはおそらく間違いない。ですが、「また子どものことは全部お母さんのせいにされるのか」という諦めもあるくらいに、やはりこの国ではお父さんの影が希薄だなと思います。

 

「今回は子どもの『保護者』宛に調査を行いましたが、回答した保護者の9割は母親でした。それだけお母さんの方が『保護者』という自覚が強いのでしょう。今後の研究では、例えば母親自身に夫婦関係の状態、あるいは個人の時間の使い方を聞くことで、母親を介して父親、あるいは祖父祖母など周囲に存在する家族の形を捉えることもできると考えています。夫婦関係だけでなく、人間関係全般のストレスは更年期症状を悪化させる原因の一つであることは間違いありません」(森崎先生)

 

今回の研究はお母さんを責めるものでは全くなく、その逆、「お母さんがご自愛すればするほどよくなります」といたわってくれる内容であることはよくわかります。私たちも常時ニコニコしていたい。しかし、すべてがお母さんにかかるというのが本当にしんどいのです。お父さんがニコニコしていればいいのではないか。誰にこの文句を言ったらいいのかと、八つ当たりもしたくなるのです。

 

「初産年齢が5歳ほど上がった結果、今や子どもの思春期と母親の更年期は同時になり、父母両方の関与という視点で見ないと解決策が提示できない例が多々あります。臨床の現場でいえば、思春期のお子さんが月経症状で来院しますが、母親が更年期世代で、どちらもメンタルがしんどいため険悪になる例もよくあります。おっしゃるとおり、その背後にはお父さんがいるはず。家族の全容を捉えて、片側からだけではなく関係性全体から診る必要がある時代になったと感じます」(小宮先生)

 

 

前編記事>>>『母親が「更年期の不調を我慢したまま」にすると、子どもの抑うつリスクが約3.9倍に? 研究者に聞く「更年期世代が心がけてほしい」たった一つのこととは

 

*1 Morisaki N et al,Associations Between Female Caregivers’ Climacteric Symptoms and Adolescent Mental Health: Findings from a National Japanese Cohortm,Menopause 2026

*2 Shinno K et al,Frequency and number of somatic symptoms in association with depressive symptoms in Japanese children aged 10-15: a population-based study,
Eur J Pediatr 2025 Aug 20;184(9):564.

 

■お話/

国立成育医療研究センター
森崎 菜穂
国立成育医療研究センター社会医学研究部 部長
女性の健康推進研究室 室長

2007年、東京大学医学部医学科を卒業。沖縄県立中部病院にて小児科初期研修修了。2009年から東京大学小児科後期レジデント。東京大学医学部附属病院や東京都立墨東病院、東京都立小児総合医療センターに小児科・新生児科医師として勤務。2012年、ハーバード公衆衛生大学院 公衆衛生学修士号取得。2013〜2015年に東京都立墨東病院などで、ハイリスク児フォローアップ外来の医師として勤務。2015年、東京大学医学系研究科医学博士号取得。2015〜2020年に国立成育医療研究センター社会医学研究部ライフコース疫学研究室長を務め、2021年4月から社会医学研究部部長。2024年からは女性の健康総合センターの女性の健康推進研究室室長も兼任。医学博士、公衆衛生学修士、社会医学指導医、小児科指導医。

国立成育医療研究センター 小宮ひろみ先生

「女性の健康総合センター」センター長
1986年、山形大学医学部卒業。産婦人科医。福島県立医科大学附属病院性差医療センター教授を経て、2024年10月、国立成育医療研究センター「女性の健康総合センター」センター長に就任。女性総合診療センター 女性外科/婦人科診療部長も務める。専門は生殖内分泌、女性ヘルスケア、性差医療、漢方医療。

スポンサーリンク

スポンサーリンク

スポンサーリンク