節約のつもりが散財?「ポイ活」や「半額」に潜む心理的罠

「あら、これ半額? お得じゃない!」 スーパーで赤いシールを見つけると、ついカゴに入れてしまう。 「ポイントが失効しちゃうから、何か買わなきゃ」 そう思ってネットショッピングを開き、気づけば本来欲しくなかった雑貨をポチり……。

家に帰ってから、「また余計なものを買っちゃった」と自己嫌悪に陥ること、ありませんか? わかります、その気持ち。私も「お得」という言葉にはめっぽう弱いんです。節約のために頑張っているはずなのに、なぜかお金が貯まらない。そんな矛盾にモヤモヤしてしまいますよね。

でも、どうか自分を責めないでください。 私たちがついつい乗せられてしまうその行動、実は私たちの意思が弱いからではないんです。脳の仕組みが、そうさせているだけなのかもしれません。

お得と思って飛びついて結局は無駄遣いをしてしまう…という人々の行動の背景にはどのような心理が作用しているのでしょうか?行動経済学博士である相良奈美香氏に伺いました。

※本記事は書籍『ポジティブアフェクトで幸せの仕組み化』(相良奈美香:著、須山奈津希:イラスト/主婦の友社)から一部抜粋・編集したものです

 

宝くじもポイ活も、得するようにできてはいない

行動経済学は人間の非合理な側面に光を当てる学問ですが、先日 「相良さんは 『非合理なもの』 と聞いて何を思い浮かべますか?」 と質問されました。パッと思い浮かんだのが、宝くじです。宝くじほど非合理なものはありません。

1等の7億円が当たる確率は、2000万分の1ともいわれています。2000万といえば、東京都と千葉県を合わせた人口に匹敵する数。その中のたった1人に選ばれるなんて、そんなこと絶対にありえないのです。

にもかかわらず、多くの人が宝くじを買います。ときには行列までして。どうしてだと思いますか? それも人間の 「非合理な意思決定」 のせいなのです。

これはノーベル賞を受賞した 「プロスペクト理論」 の一つ、「確率加重関数」によるものです。人は実際の確率をそのまま受け止めることはせず、それを主観的に判断して受け止めてしまう傾向がある、というものです。

一般的に、客観的な確率が低いほど主観的な確率は高くなり、客観的な確率が高いほど主観的な確率は低くなる傾向があります。

たとえば5人中4人が合格する試験の場合、合格率は8割。客観的確率は高いのですが、主観的確率は低くなり 「自分だけが合格できない気がする」 と不安になってしまいます。

一方で、宝くじで1等の当選確率は約2000万分の1。客観的確率が低いほど、主観的確率は高くなり 「もしかしたら当たるかも?」 と考えてしまうのです。

それはポジティブなことだけではありません。航空機事故で死亡者が出る確率は580万便に1件と非常に低いにもかかわらず、飛行機に乗ることに不安を抱く人は少なくありません。これも客観的確率に対し、主観的確率の高さを物語っています。

ちなみに、宝くじの1等は、航空機事故よりも当たる確率は低い。だから私は安心して飛行機に乗り、宝くじ売り場は素通りするのです。

 

ポイ活でハッピーな選択ができているかを考えてみて

私が 「やらないこと」 と言って、次にパッと思い浮かぶのはポイ活、つまりポイントを集めることです。たとえばスターバックスコーヒーのアプリには 「スター」 というポイント制度があります。

保有するスターの数に応じてドリンクやコーヒー豆などと交換できるのですが、スターを多く集めることで 「ゴールド会員」 に認定され、誕生日などに特典がもらえるのです。これはスタバ好きのポジティブアフェクトを刺激します。

さらに 「ゴールドまであと〇スター」 などと示されるので目標勾配効果が働き、「いつもはコーヒーだけだけど、ポイントを貯めたいからサンドイッチも追加しちゃおう」 などという気持ちにさせられます。

スタバに限らず、ポイントには期限があります。無料でもらった300ポイントなのに、失効するととても損した気持ちになります(損失回避性)。とはいえ、使うときに300円ぶんきっちりの買い物をすることはなく、数十円、数百円は上乗せすることになります。

しかも、 「ポイントでもらったもの」 と思うと、普段はブレンドコーヒーなのに、高いフラペチーノを注文してしまうかもしれません。ポイントで貯まった300円もお財布に入っている100円玉3枚も、同じ300円なのに……。

こういう感覚を「メンタル・アカウンティング」といいます。人は無意識のうちに、心の中でお金を仕分けしているのです。

臨時ボーナスやギャンブルで当てたお金は 「あぶく銭」 と感じて散財しがちです。そういう危険が、ポイントにもあるということです。

……と言いましたが、宝くじもポイ活も 「やると楽しい」 「ワクワクする」 などポジティブアフェクトを上げるためであれば何も問題はありません。無理のない範囲で楽しんでください。

 

テレビショッピングが深夜0時に放送される真の理由

「ダイエットしよう」 と決意したばかりなのに、仕事帰りのコンビニでハンバーグ弁当とシュークリームを買ってしまった……そんなことはありませんか? 買うのはヨーグルトとブランパンのはずだったのに。

「今月は節約しなくちゃ」 と思っていたのに、 「読みたかったマンガがアマゾンでポイント30%還元」 と知って、シリーズ全巻大人買いしちゃうこともありそうな話です。ポイントが還元されるからといって、出ていくお金は変わりません。

そういうときはたいてい、疲れているときやおなかがすいているときかもしれません。認知のクセの一つに「自制バイアス」があります。

その名のとおり 「私には自制心がある。誘惑になんて負けない!」 と自分を過信しがちになることです。何度も失敗しているにもかかわらず、なぜか 「今回こそ大丈夫」 と思ってしまうのだから困ったものです。

自制心がきかなくなっているとき、脳はシステム1で判断しています。システム1が優位になりがちな場面として、 「疲れているとき」 「急いでいるとき」 などが挙げられます。

仕事帰りは当然疲れていますし、おなかがすいているから早く食べたい。「今日はがんばったんだから、ごほうびくらいいいじゃないか」 という悪魔の誘惑に打ち勝つのは、ほぼ不可能でしょう。

もっとも簡単な対策は、夜にコンビニへ行かないことです。ネットショッピングも夜に見ると、うっかりポチってしまいます。夜のアマゾン、油断できません。

私の場合、米国にいるときは日常の買い物にインスタカート(食料品の即日配達サービス)を利用します。夕食の食材を注文するのは午前中。この時間帯は疲労感も少なく自制心が働きます。

でもあるとき、うっかり夜に注文したことがありました。そうしたら1時間後に甘いものや脂っこいものがドーンと届き、しまった!と我に返りました。

以来、夜にアプリで注文することはなくなりました。どうしても夜に 「これが欲しい」と思ったら、カートに入れるところまでで一旦ストップ!

それでも気持ちは落ち着くし、手に入れた気分になってハッピーになれます。そして翌朝、冷静な気持ちでカートを見返し、 「やっぱりいらない」 と思ったら、削除すればいいのです。

「30分以内の注文なら、さらにお得!」 戦略が自制心を阻む

「夜になると、合理的な判断をしにくくなる」 という原理を上手に利用しているのが、深夜に放送されるテレビショッピングです。値引きの手法も、行動経済学的なポイントをしっかり押さえています。

たとえば掃除機を売る場合、まずは吸引力の高さや軽さ、扱いやすさなどをデモンストレーションすることで、視聴者に 「この掃除機、便利そう」 というポジティブアフェクトを抱かせ、システム1に働きかけるのです。

そのうえで値段発表。 「3万4500円です!」 。視聴者は 「そのくらいするよね(ちょっと高い)」 と思います。

でもその直後に、「本日に限り1万5000円!半額以下です」 と価格を下げます。これは「アンカリング効果」。つまり、最初に提示された金額をアンカー(基準値)にしてから値引きした価格を提示することで、一気にお得感が増す作戦。

視聴者を 「買わなくちゃ損」 という気持ちにさせたところで、「30分以内に注文すれば、ノズル3種類が無料でついてきます」など、時間を区切ってサービスを上乗せ。

あわてて決断させることで、システム2を作動させない作戦です。行動経済学の理論がしっかり反映されているというわけですね。

おすすめの対策は 「自分は誘惑に弱い」 と自覚し、誘惑されそうなものから距離を置くことです。つまりテレビショッピングは見ない、夜にコンビニへ行かない、ということですね。

 

〈確率加重関数〉

確率加重関数とは、私たちが物事の「起こる確率」をどのように心の中で重みづけしてとらえているかを表す感じ方のクセ。プロスペクト理論の中核的な考え方の一つで、実際の客観的な確率と、私たちが感じたり判断したりする主観的な確率とのズレを関数で表している。非常に確率の低い可能性を「自分にも起きるかもしれない」と感じる一方で、現実的には成功するであろう確率でも「自分だけがうまくいかないのでは」と過小評価してしまう。

 

〈メンタル・アカウンティング〉

「心の会計」ともいう。お金は本来とても合理的なもので、何の色もついていないはず。しかし「どこで得たのか」「どう使うのか」を無意識に仕分けして管理する傾向がある。たとえば臨時収入やギャンブルで得たお金は、コツコツ働いて得たお金とは別の勘定に仕分けし、普段よりも気軽に使ってしまい「あぶく銭」になってしまいがちだ。

 

〈自制バイアス〉

「自分は誘惑には負けない」「自制心が強い」と過信してしまう認知のクセを指す。ダイエット、禁酒、禁煙、ギャンブル、ショッピングなどで起こりがち。自分の自制心を信じるよりも、そもそも誘惑が多い状況を避けるなどの環境調整をすることのほうが効果的だ。

 

〈アンカリング効果〉

最初に提示された数値や情報が基準(アンカー)となり、その後の判断や選択に大きな影響を及ぼすことをいう。スーパーの「価格980円のところ300円引き」の表示は、980円がアンカーとなるので、300円引きの680円を魅力に感じる。ほかにもオークションサイトでの開始価格の高低がその後の入札額に影響するなど、さまざまな場面でアンカリング効果が利用されている。冷静な判断を妨げる要因となることも多いので注意が必要だ。

 

〈システム1とシステム2〉

人間は意思決定するときに、2つの情報処理システムを使い分けている。システム1は素早く直感的な判断に、システム2は注意深く考えたり分析したり時間をかけた判断に使用する。この2つのシステムは無意識のうちに連動して、ほぼ同時に動いているので、時と場合でその強さが変わってくる。また、人によっても違い、システム1とシステム2のどちらが強く働くかの傾向が異なる。

 

■著者略歴:相良奈美香(さがら・なみか)
行動経済学博士・コンサルタント。日本とマレーシアで育ち、オレゴン大学で行動経済学の修士・博士号を取得後、デューク大学でポスドクを務める。起業しサガラ・コンサルティングを設立、世界最大級のマーケリサーチの会社Ipsos行動科学センター代表などを経て、現在は米国を拠点に、ビヘイビアル・サイエンス・グループ代表として、世界各国で幅広い業界の企業に行動経済学を提供。著書『行動経済学が最強の学問である』は16万部超のベストセラーとなり、日本における行動経済学の認知度を広げる大きなきっかけとなった。

 

Amazonでこの書籍を見る
楽天ブックスでこの書籍を見る

◆関連記事◆
「意志が弱い」は間違い。ダイエット成功の鍵は「お菓子を隠す」!

【強烈寒波の防寒はコレ!】48歳「冷えに悩む」PTA中受ママが「温活にハマった」結果、家でも外でも「つけっぱなし」!暖房代も節約できるあったかグッズとは?
熟年離婚する予定なら?あと10年ないけど老後資金って何とかなる?「60代からの私のためのお金の話」人生100年時代を安心して歩むために

続きを読む

この記事は

スポンサーリンク