「ある日突然モームリから電話がかかってきた」50人規模の事業所の経営者が、モームリ社長逮捕を聞いて「腑に落ちた」意外なこと
「どう言い表せばいいのか迷うのですが……やっぱりそうだよね、法律的におかしかったから『使われた側」の私たちはモヤモヤを抱えたんだよねと。腑に落ちた思いで、正直言ってほっとしました」。
こう話すのは、12月の記事(こちら)で退職代行サービスを「使われた側」として経験を語ってくれたYさん(56歳)。
2月3日、退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロスの代表取締役社長が弁護士法違反(非弁提携)の疑いで警視庁に逮捕されたと各紙が報じました。一連の報道に触れたYさんが改めて感じたことを伺います。
前日まで何の変化もなく出社していた20歳の女性が、突如モームリで退職を告げた
Yさんの事業所に電話がかかってきたのは、いまから約半年前、25年8月上旬の午前でした。「退職代行のモームリからお電話です。〇〇さんの上司とお話したいそうです」と取り次がれたため、最初は人事サービスの営業電話かと思ったそうです。
「誰だっけ誰だっけ、聞いたことある社名だからお取引がある会社さんだっけ。ですが、電話を代わりましたら『現在御社にご勤務の××さんに退職の意思があることを代わりに伝えさせていただきます』と告げられたため、ちょっと待ってくださいと電話を保留にして、社長室に移動してスピーカースイッチを押しました」
慌てて呼んできた経理・人事担当の社員さん、お父様を含む複数名で対応します。電話相手は声から察する限り、責任ある実務担当者というよりは、台本を読み上げる係のパート中年女性だったそう。以下のようなことを伝えられました。
・〇〇さんは今日から出勤しません。これから有給休暇を消化します。
・引継ぎは行いません。
・彼女に連絡を取ってはなりません。親に連絡を取ることも禁止します。
・会社に残った私物を自宅まで宅急便で送ってください。
・給与は予定日時に振り込んでください。
「……というような内容のことを淡々と読み上げられて、メアドを聞かれたのでお伝えして、あとのやりとりはメールになりました。すぐに弁護士さんと社労士さんの判断を仰いだところ、弁護士さんは『モームリには何の法的権利もない。言ってることは聞かなくていいです、本人に連絡しちゃってください』。ですが、社労士さんからは『パワハラで訴訟になる可能性があるから本人に連絡せず、モームリに従ってください』とアドバイスされました」
法に基づいて進めるべき退職なのに、「法を無視した単なる他人」に割り込まれる感覚
社内で相談のうえ、いたずら電話の可能性もゼロではないので最低限本人の意思は確認しようと結論を出し、LINEを入れたところ、すぐにモームリから電話がかかってきて「やめてください、連絡はすべて我々を通してください」と言われたそう。
「最初の電話でモームリは『我々には交渉権はないので』と宣言していたのですが、おかしいな、連絡を制限して代理行為って、交渉では……? 退職という法的な手続きなのに、相手は法律を無視している。この違和感は最後まで続きました」
今回モームリの代表らが逮捕されたのは「法律事務の周旋行為」、つまり弁護士を紹介した行為ですが、Yさんは弁護士法72条のもう一つの禁止事項、「弁護士資格を持たない者が報酬目的で法律事務に関わる行為」に関しての違和感を持ったのです。
「例えば退職日の確定、有給残の処理、制服や私物の返還調整、こうしたことはやっぱり交渉を伴う法律事務の一部だと思うんです。検索してもやはり、弁護士や労組、特定社労士など法律で認められた立場以外が行うことを禁じられていると出てきます。何の権利を持って私たちは直接連絡するなと言われているのだろう……?」
決定的だったのは、その後送られてきた退職届だったそうです。
「退職届はモームリのフォーマットでした。弊社には弊社のフォーマットがありますし、そもそも退職したいという意思が書いてあれば何でもいいはずなのに、なんでモームリのフォーマット……? 私にはモームリが法律事務を行っているようにしか見えません。しかもモームリからのお手紙も同封されていて、『有給休暇の消化を認めない場合は、労働基準監督署へ相談するそうです』とあります。いうなれば報復行為を示したうえで要求を提示している、これが交渉行為でないならいったい交渉とは何なのか……」
こんな辻褄の合わない業者に頼るくらいなら、組合なり弁護士なりに相談してくれたほうが、彼女のために私たちができることも見つかったろうに、とYさんはため息をつきます。
「気を付けていたつもりではあるけれども、結果的に辞めたいと言い出しにくい環境にしてしまい、代行を使う状況に追い込んだのは私たちです。その点は深く反省しています。しかし、モームリからは何が退職の原因だったのか、私たちは何を改善するべきなのかは教えてもらえません。繰り返さないために行うべき業務改善ができないのです。何の関係も権利もない他人が若い子から2万円も取って、こんなことがまかり通るのか……そう半年思い続けていました」
「本当に労働者のためならば、やはり交渉という行為は必須なのだ」と改めて感じる体験だった
若者がブラック企業に対抗するセーフティネットとして退職代行サービスが機能しているとモームリの代表が語るインタビューも読んだYさん。それはそれで確かに必要だろうと納得はするが、やはり違法なものには無理があるのだと強く感じたそうです。
「もし間に入ったのが組合や弁護士さんなら、それはそれは強いお叱りを受けたでしょうが、同時に『本人は何に困っていたのか』『私たちは何を改善すべきか』に答えてもらえたと思うのです。しかし、モームリは非弁行為は行わないという看板を守るため、つまり自分たちの利益のために、本来ならば代理人が行うべき交渉を全部飛ばして料金だけかすめていった。日本の労働環境の整備という観点からすれば、社会は何ひとつよくなっていなかったのではないでしょうか。今回の逮捕を受けて、改めて法律の仕組みはよくできているのだなと感じました」
公式サイトでは「累計4万件以上の退職を確定させた実績とノウハウ」と謳うモームリ。
「つまり、私のような思いをした上司が4万人いるということだと思うのですが、検索しても使われた側の声はほぼ挙がっていません。恥ずかしいという意識があって口にできない側面もあるのでしょうね。もちろん退職手続きに応じないブラック企業も存在するでしょうが、じつは退職意思を示せばスムーズに退職できた事業者さんも多かったろうなと思うのです。疲れ果ててもう連絡する力も出せなかったという人たちには心からお見舞いを申し上げますが、いっぽうで本来2万円も払う意味がなかったことを知らない若者も多いのではないかと思います。今後同じことが起きない社会になるといいなと思います」
つづき>>>「ある日モ〇ムリから電話がかかってきた」50人規模の事業所。対応が終わってから気づいた「それどころではない半端ない損害」
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