「気持ち悪いから見せるなよ」術後の妻に夫が吐いた言葉…私が離婚を決めた理由

2026.04.11 LIFE

前編では、乳がんを告知されたTさんが、夫に支えてほしいと願いながらも、思いがけない冷たい言葉を浴びせられた出来事についてお伝えしました。

「面倒なことになったな」その言葉は、長年抱いていた「いつか変わってくれるはず」という期待を打ち砕くものでした。そしてTさんは、子どものために生き続ける決意を胸に、乳房切除という大きな選択をします。しかし、本当の試練はそのあとに待っていました。

<<本記事の前編:「胸は残せ。女として見られなくなる。あと、俺のメシはどうなるんだ?」乳がん告知で見えた夫の本当の姿

 

術後の苦しみの中で、夫に言われた言葉

手術は無事に終わりました。しかし、それで全てが終わったわけではありませんでした。術後、Tさんには抗がん剤治療が待っていました。副作用で髪が抜け、体が思うように動かない日が続きました。食欲もなく、起き上がるだけで精一杯の朝もありました。吐き気と倦怠感の中で、それでもTさんは子どもの世話をし、家のことを何とか回そうとしていました。

 

子どもたちは「ママ、寝ていて」と言いながら、よく手伝ってくれたといいます。そんなTさんの姿を間近で見ているのに、夫から思いやりの言葉が向けられることはありませんでした。家事が滞れば不満を口にし、自分の生活リズムを乱されることへの苛立ちをぶつけ続けました。妻が治療を受けながら必死に日常を保とうとしていることへの理解も、ねぎらいの言葉もありませんでした。「手を上げると傷が痛む」と口にすれば、「自分が切除を望んだんだろう」と言われたこともありました。

 

抗がん剤治療を受けながら、Tさんは何度も、「なぜ私がこんな思いをしなければならないのだろう」と感じていたといいます。がんの苦しさ以上に辛かったのは、支えてくれるはずの夫が何もしてくれないことへの孤独でした。病気そのものよりも、その孤独の方が辛かったと話してくれました。Tさんは歯を食いしばりながら、子どものために、

「もう少しだけ頑張ろう」

と自分に言い聞かせ続けました。泣きたいときも、倒れそうなときも、子どもたちの笑顔だけが支えでした。夫に頼ることをとっくに諦めていたTさんにとって、子どもたちの存在が唯一の光でした。

 

寛解し、ようやく自分の人生を生きる

そしてある日、医師からこう告げられました。

「寛解です」

寛解とは、がんの症状が消える、あるいは著しく軽減した状態を指します。完治と断言することは難しくても、治療がひとつの大きな区切りを迎えたことを意味する言葉です。長く苦しい治療を乗り越えたTさんにとって、その言葉は何にも代えがたいものでした。その言葉を聞いたとき、Tさんが最初に感じたのは、夫への感謝ではありませんでした。涙があふれたのは、生き延びられた安堵と、そして誰にも頼れないまま一人で戦い続けてきた自分自身への労いでした。

「やっと、自分の人生を生きていいんだ」

そう思った瞬間、Tさんの中で、我慢の糸がぷつりと切れました。

 

今、Tさんは復職に向けて準備を進めています。仕事に戻り、自分の収入に自信が持てたとき、夫に離婚を告げるつもりだと話してくれました。

もう、愛はありません。がんを告知したあの日、夫が放った言葉。そして、手術後の自分の胸を見て、「気持ち悪いから見せるなよ」と吐き捨てるように言った、あの言葉。自分の胸の傷は、生き延びた証であり、勲章のようなものです。その傷を馬鹿にした夫を、もう許すことはできない。Tさんは、ようやく自分自身の気持ちに正直になれたのです。

 

モラハラ被害の相談を受けていると、こんな言葉を何度も耳にします。

「いつか変わってくれると思っていた」
「本当は優しいところがあると信じていた」
「いざというときには支えてくれると思っていた」

Tさんも、ずっとそうでした。暴言を受けながらも、どこかに優しさが残っていると信じていたのです。しかし、人の本質というのは、平穏な日常よりも、危機の瞬間にこそ現れます。

「死ぬかもしれない」と告げたその瞬間に、最初に口から出てくる言葉。そこに、その人の本当の姿が表れるのです。

 

心理学では、相手が苦しんでいるときに感情的なサポートができない状態を「情緒的ネグレクト」と呼びます。Tさんの夫は、妻ががんを告知された瞬間に、自分の不便さしか口にできませんでした。それは無意識であれ、妻の存在を「自分の生活を支えるための道具」としか見ていなかったことの、残酷なほど正直な表れでした。

 

病気が人生を変えたのではありません。病気のときに夫が放った言葉こそが、Tさんに「夫への期待や希望はすべて無駄だった」と気づかせたのです。そしてTさんは今、その現実をまっすぐ受け止め、自分の未来を自分で選ぼうとしています。それは冷たい決断ではありません。自分を守るための、静かで力強い一歩です。

 

Tさんは、危機のときに見せたあの姿こそが、夫の本当の姿なのだと心底分かったといいます。一方あのとき、心から寄り添ってってくれた友人が、今は離婚の手続きやこれからの生活の準備のために、さまざまな形で支えてくれています。本当に信じられる人とは、自分が辛いときにそばにいてくれる人です。

「自分自身を信じて前に進んでいこうと思えるようになりました」と、Tさんは穏やかな笑顔で話してくれました。

<<本記事の前編:「胸は残せ。女として見られなくなる。あと、俺のメシはどうなるんだ?」乳がん告知で見えた夫の本当の姿

 

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