体調の波は移り変わるから、天気予報のように先読みして味方につけたい。画面に込めた思い【RizMoを作った12人】
体調ナビゲーションサービスRizMo(リズモ)は「計測デバイス」と「月額課金アプリ」2つがセットで動くサービスだが、先に記したとおり、108年の歴史を持つパナソニックにおいて、月額課金型のアプリサービスはほとんど事例がない。
ITネイティブの企業であればある程度のバグを許容し、リリース後に修正を重ねていくものだろうが、パナソニックでは「エラーがある」という状態が許されない。つまり、バグをシステムマージンとして許容するウェブサービスと、それを事故と捉えて許容しない日本メーカーのものづくりは、実は猛烈に相性が悪いのだ。
サーバーとユーザーをつなぐサービスシステムのメンバー3人がこうしたせめぎあいのはざまに立たされたことは言うまでもない。その苦闘を聞いた。
【RizMoを作った12人】#4
ついに生まれた「パフォーマンス」という指標。追い詰めず、がんばらせない
パナソニック株式会社 デザインセンター UIUXデザイン課 宮形春花氏
今回取材した4つのストーリーはことごとく初のトライに苦闘を続けた。ユーザーとサービスをつなぐ接点となるアプリのUIUXデザイン分野でさえも、今回は一般的なデザインとはスタートのレイヤーが違ったという。
担当した宮形氏は従来からデジタル分野のサービス設計や、液晶類の表示デザインを担当してきた。今回は特にアプリそのものが価値提供をメインで担うため、UIデザインにおいても「価値の本質は何なのか」をどのような軸で定義するかが重要になる。開発メンバーの想いを一つにするためにも、共感を得られる軸策定の試行錯誤が始まった。
プランナー井上氏とともに「自分の状態を可視化するもの、管理ではなく予測にシフトするもの」と構想の大枠を設定。さらに「自分の『パフォーマンス』を発揮するための」という本質価値を軸に据えたのが宮形氏だった。
「従来型のアプリは月経を『管理』するものがほとんどですが、RizMoはリズムをモニタリングするもの。日々のリズムから『パフォーマンス』を予測し、未来を『予報』することができるのではないか。妊活も仕事も勉強も機嫌も、すべては『パフォーマンス』がどれだけ発揮できるのかであると定め、そこを掘り下げました」
天気予報には情報としての高い価値があり、「雨だから傘を持っていこう」と行動の適正化が起きる。同様に「来週水曜はパフォーマンスがよくないかもしれないから予定を詰めないようにしよう」など行動変容がきっと起きる。とすれば重要なのは、パッと見てこれらが「自分のための表示」だとわかることだ。何を捨て、何を大切にして届けるか、作っては壊す画面デザインが始まった。
「パフォーマンスという指標にはわれながら納得がいきました。一般に生理は10代から始まり、50代の閉経まで続きます。あるときは幸せ、あるときはしんどさなど、さまざまな感情を共起します。一つの尺度では定義が難しい中、女性の一生を一貫するぶれない指標は何なのか。『パフォーマンス』は何とも矛盾しない、誰かを無理にがんばらせることもない非常に合理的な指標です。だからこそ、直感的に伝わる画面を追求しました」
それでありながらも、表示内容の具体的な解釈はお客さまにお任せしたかった、宮形氏はそう語る。穏やかに過ごす、たくさん笑う、ぐっすり眠る、どれも「よい」パフォーマンスであり、これらの価値判断にまで入り込むのは僭越だとも感じたそうだ。
パフォーマンスを可視化するにあたり、余計な文言を入れない、数値だけでの納得感と、グラフィカルなわかりやすさの両立にいちばん苦労したという。ユーザーが「腑に落ちる」表示になっていないと誰も納得しない。ぱっと見の納得感、わかりやすさ、情報提示のバランス、閲覧すべき箇所の文言の内容や配置、表示タイミング……。
「通常ならばある程度の想定範囲の中でコンセプトに沿ってインターフェースの設計を整えます。でも、今回は何度も何度も何度もユーザーテストを繰り返し、反応を見ながら即改善するというステップを通常の何倍も繰り返しました」
一度作り上げた提案を壊すような修正も何度となく行ったという。
「最初は気軽にパフォーマンスを見てもらえるよう、グラフィックメインの画面を設計したのですが、人によっては数字やゲージで『エビデンスの存在』を実感しないと信頼感が薄まる。それを修正すると今度は『前半の情報の置き方が納得できない』『この数値の意味が不明』と意見が出る、訂正したら余計わからなくなって最初のデザインを復活させる。まさに大混乱の現場でしたが、猛烈にやりがいある作り込みでした」
月経管理アプリ画面の「1カ月単位のフィードバック」ではなく、今日の私はどうなんだろう、明日はどのくらい力を発揮できそうな日なのだろうと、毎日楽しみにアプリを開けるように。結果として、RizMoの象徴の一つ、天気予報のような体調予測画面が生まれた。もちろんここが終着点ではなく、今後もユーザーの声を反映して、よりよいものにアップデートし続けるという。
押しにくさを指のせいにしない。微細な違和感にも向き合い続けるアプリ開発
パナソニック株式会社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ビジネスデザイン部 フェムケア推進課 平田悠貴氏
宮形氏のUIUXデザインをもとに、それをアプリとして実現するための仕様に落とし込むのが平田氏の担務だった。
「だった、と過去形で語りましたが、今回の私の担務は『完成』がないと感じています。お客さまにとってどうあれば最善なのか、もっといろいろとやりたい中で絞って絞って現時点での最良へと持っていったのが現在のアプリですが、これで終了ではないなとリリースされる前から感じていました。たとえば、現在はRizMoのアプリを起動しないとデータが見られませんが、『予報』なのですから、アプリを起動しなくても見えている状態を実現したいですよね」
RizMoは取得しているデータそのものの幅が多岐にわたるため、それらを宮形氏のデザインに応じて、どのように実際のアプリ機能として実現すればもっとも価値の高い体験を作り出せるかを注意深く捉えたうえで仕様策定したという。
「今回はパナソニックとしては珍しくスクラム的な開発で進めました。上流から下流に順番にバトンを渡すという従来のウォーターフォール式ではなく、担当者がスクラムを組み、何が価値になるのかを議論しながらぐるぐるとクイックに開発していく方法です。体験価値を実現する宮形、仕様に落とす平田、実装サポートするパートナー企業との間で議論しながらぐるぐる進めていきました」
たとえば、ロード時間やボタンの押しやすさは個人の感覚的な部分に大きく依存するため、通常ならば「まあ、仕方ないか」と妥協する部分も生まれるという。しかし今回は「いやこれは違う」とわずかでも感じる点は最後まで妥協せず、通常ならば突き詰めないレベルまで改善したという。結果、イベントなどでデモ画面を紹介しても「使いやすいですね」「クオリティが高い」「見やすいです」と好意的な反応が通常より明らかに多いそうだ。

「私やチームメンバーの誰かが違和感を持った部分には、将来的に多くのお客さまに使っていただく中で同様の違和感を持つ方が出てくるはずだと考えました。通常はこうした部分は個人差として片づけてしまいがちなのですが、この開発ではとにかくお客さまの体験を第一に考えて妥協しないで品質確保したことがよかったと思います」
中でもこだわったのはグラフ画面だという。「すべて」という画面は月経の周期性と自分のバイタルを一覧で見られる画面だが、ここが技術的には相当に難しい。多数のデータが並び、表示のたびに内容が更新されるため、スムーズに動くように整えるのが極めて難しいのだ。実装当初はとにかく表示に時間がかかり、更新も反応ももっさりと重たい状態だった。しかし、ユーザーは毎日の体験の中で、必ずここを見るだろう、見たいはずだと考え、可能な限り軽くする改善を始めた。
「改善してもぱっと見は全然変わらないんです。でも、こうした部分の速度でお客さまの使い勝手は着実に向上していきます。たとえば機器からデータを転送して結果が表示されるまでのタイムラグも、通常なら何かアニメーションを出して待ち時間を持たせるところを、今回は正面から表示時間短縮に挑みました。こんなに膨大なデータをこれだけの短時間で表示できるのはなかなかの自慢です」

ファーストビューで「何の情報がどこまで見えていいのか」も議題によく上がったという。アプリを起動したとたん、周囲の人に月経周期が見えてしまっていいのか。それはダメだろう。毎日の暮らしの中で、人の目を気にせず開くことができるファーストビューにする必要もあった。なおかつ、パフォーマンスが低いと予測される日ならばエビデンスとなるデータと共に何かしらの解消法も提示され、これ一つで解決までが提示されている画面。それが現在の画面といえる。
「おかげさまで、開発中に子どもを授かったメンバーもいます。私もこのプロジェクト内で妻と出会い、結婚に至りました。これからも進化し続ける終わりのない開発ですが、こうした人生のビッグウェーブにも寄り添い、バイタルから体調や周期の波をチェックすることでよりよい人生を過ごせるサービス体験を提供し続けたいと思っています」
「体調がよくなった、休止します」ユーザー離脱が起きてもサービス側が「正直言ってうれしい」と語る理由

パナソニック株式会社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ビジネスデザイン部 フェムケア推進課 森下竜也氏
一方で、サービスシステムの開発には別の苦闘があった。月経周期や妊活など特にデリケートな個人情報を扱うため、ユーザーが安心してデータを預けられる管理システムでなければならない。パートナーと周期情報を共有するためにLINEなど社外のシステムとの連携を担保する必要があった。前述のとおり、パナソニックのECストアで月額課金型のアプリサービスはほとんど事例がない。
プロダクトであるRizMoとアプリ、サーバー、ECを含む全体システムをゼロから設計した森下氏は、これまではWi-FiエアコンなどのIoT関連モジュールなどを開発し、通信・ネットワーク・セキュリティなどの、ユーザーとつながる部分の技術開発を担務してきた。大きく言えば似た分野だが、細部を見ればまったく作法が違う。友人宅のキッチンで調味料のありかがわかず右往左往する状態に例えられるだろうか。

「ユーザーはECサイトで契約し、アプリをダウンロードしてログインします。アプリにはRizMoで取得した生体データが連携され、それをサーバーで分析し、ユーザーの周期や症状に応じたアドバイスやコンテンツを提供します。このようにサービスを構成する各要素を連携させるため、関連部門の担当者と打ち合わせを行いながら並行して構築を進めていきます。ただし、われわれも十分に慣れているとは言い難い領域であるため、リリース日から逆算し、いかに事故なく進めるかが重要になります。これは『システム設計』という名の全体の交通整理でした」
月額課金型のアプリサービスを実現するためのECとの連携だけでなく、個人のデリケートな生体データを取り扱うシステムも初の担務だった。エアコンをオンオフするための生活空間データとは要求されるセキュリティのレベルが違う。また、使用状況も特徴的で、朝の起床時間帯に一斉にアプリへのデータ転送が始まる。当然ながら、セッションが殺到したからといってサーバーが重くなってはならず、ましてや止まるなどはもってのほかである。
「ユーザーの体調管理のためのサービスだからこそ、システムが無事に動いているかどうか、私自身もRizMoを毎日利用して確認しています。実は障害を起こしてしまったことがありましたが、そのおかげで即座に気づいてすぐに復旧できました。でも、こうした見えない部分を担当している分だけ、お客さまからの声がすごくうれしくて」

中でもうれしいのはユーザーから「体調がよくなった」「おかげさまで妊娠できました、いったん休止します」など、プラスの反響が届くことだという。
「『休止します』と言われると、普通のサービスならば『ユーザーが減少してしまう、困った』となるのでしょう。でも、いやいや、こんなに喜びに満ちた休止はないですよね。われわれもより健康に寄与するサービスにバージョンをアップし続けますから、また次のステージでお使いくださいと、一緒にお祝いをしたい。こうした一つ一つの反響は今に至るまで原動力になっています。終わりのない運用の仕事ですが、誰かの生活がよりよくなっていると実感できることがこの上ない喜びです」

女性はやはり自分のバイタルデータで「自分を乗りこなせる」ことが実証されている

ここまで12人のメンバーに登場いただき、ぐるりと話を伺ってきた。最初の2名、図師氏・井上氏に話を戻そう。ローンチから半年を経て、ユーザーはどのように利用を続けているのか。
プランナー・井上氏によれば、現在のユーザーの利用目的は「妊活」と「周期的な不調への向き合い」が半々なのだという。ユーザーの声で最も多いのは「温度計測のラクさ」。これまで四苦八苦して測っていたのが、ただ装着して眠るだけでよくなった。このストレスフリー具合に大きな反響がある。また、計測を始めたばかりのユーザーは「睡眠データがおもしろい」「寝姿勢が見えて自分の睡眠がよくわかる」と毎日の睡眠データ確認を楽しんでいるという。
「図師が最初に描いたとおり、自分の状態を客観的に見る安心感、納得性は、女性を前向きにしています。たとえば、自分は睡眠の質が悪い、夜も眠れていないと思っていた人であっても、『ぐっすり寝ました』とメッセージが表示されると、とたんに前向きに過ごせるようになります。このほか、考えもしなかった行動変容が声として届くことがとてもうれしいのです」
たとえば「いままでは月経前から月経中にかけては体調が悪いので無意識のうちに友達の誘いを断っていたが、実は月経前でも睡眠さえ十分にとれていれば大丈夫とわかった。自分で行動を制限していたことに気づいた。これからはフットワーク軽く動いてみようと思う」。こうした明らかな行動変容があちこちで起きているのだ。
「無理をしてほしいわけではないのですが、客観的に体調を理解すればリミッターを外してフットワーク軽く動ける、これは非常にうれしい発見です。現在アプリは月経が定期的にある女性を対象としていますが、中には閉経に向かっているお客さまもいます。今後は閉経に向けての不調との向き合いも実装していきたいですし、たとえば企業や自治体などと共同して職場や地域の健康を増進していけるようにとも考えています」

プロジェクトリーダーの図師氏は「やっと長い長い挑戦のスタートに立ちました」と心境を明かす。
「長く愛されるブランドには共通点があります。たとえば東京ディズニーリゾートならば、完成されたあの場に加えて、その日のベストな状態でお客さまを迎えるキャストの皆さんのおもてなし、この両方でブランドが完成しています。おもてなしは日々変化し、進化する。価値も更新される。さらに重要なのは、同時にお客さま自身も変化していくという点です。長く愛されるブランドとは不動のものに見えてさにあらず、進化し続ける顧客とともに、常にこの瞬間の価値を考え、常時進化し続けているのではないか。RizMoが目指すゴールも同じだと考えています」
ローンチして完成ではなく、初めてスタートとなった今回のプロジェクトには、まだ未知の部分が横たわる。決して未完成のものを世に出したつもりはないが、しかし、聞こえてくる声にはより大きな改善と期待の声があるという。目的はあくまでもユーザーの人生を幸せに豊かに変えていくことであり、中でも女性特有の健康領域のサポートが達成できてはじめて「完成したね」と言えるのだろう、と続ける。
「私の娘たちはすでに社会に出ていますが、プロジェクトスタートの時点で次女は大学生でした。私の念頭には社会に出る娘たちが立ち向かう理不尽を減らしたいという思いもありました。私自身が長い間、女性と肩を並べながら切磋琢磨してきましたが、女性が抱える健康課題を認識できていなかった。男女が体調条件の面でも理解し支えあい、よりよいパフォーマンスを出せるよう、私は個々へのサポートができるエコシステムを完成させたいのです」
みんなが持ちつ持たれつの中で、RizMoによる自己認識をきっかけにして一段と暮らしやすい社会に変容していってほしい、そう続けた。
「ただ、まだその挑戦は始まったばかりで、日々、お客さまに向き合うなかで、ご期待に応えるために、努力する日々です」

体調ナビゲーションサービス RizMo 公式サイト https://ec-plus.panasonic.jp/store/page/RizMo/
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