閉経後の健康寿命を支えるHRT最前線。人生100年時代、女性の体に起きる変化とどう向き合う?
昨今、更年期以降の女性の健康や生活の質(QOL)を向上させるための選択肢として、ホルモン補充療法(HRT)が注目を集めています。
「人生100年時代」と言われる現代、閉経後の人生が長くなる中で、多くの女性が人生後半の生活について不安を抱えています。また、閉経前後の更年期と呼ばれる年代には、ホルモンバランスの乱れから、心身が不安定になりがちでもあります。そこで今回は、日本女性医学学会名誉会員であり、長年にわたり女性の健康管理に携わってきた『ローズレディースクリニック』院長の石塚文平先生に、閉経後の女性がクオリティ・オブ・ライフをより良いものにするための、HRTの新常識についてお話を伺いました。
東京・東急線尾山台のローズレディースクリニックは、不妊治療と婦人科診療を通じて女性の生涯に寄り添ってくれるパートナードクター。長年に渡って女性の悩みに向き合ってきた石塚先生からのメッセージとは?
【シリーズ・40代50代が向き合う更年期/変えられることを変える知識と、変えられないことを受け入れる知恵】#5
※写真はイメージです。
体に不調を感じる「更年期世代の女性」たち。体の中で起きている変化とは
――更年期世代の女性を取材すると、多くの方が、体がだるい・疲れやすいなど「ぼんやりした調子の悪さ」に悩まされています。閉経前後の女性の体にはどのような変化があり、HRTで女性ホルモンを補充することでどのようなメリットがあるのでしょうか?
更年期を迎えると女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、閉経後には分泌量がさらに低下します。女性ホルモン(エストロゲン)は、女性の身体のさまざまな臓器や機能に影響を与えています。エストロゲンは、血管の内皮に働きかけることで血管のしなやかさを保ち、動脈硬化を防ぐ役割があると考えられています。また、LDL(悪玉)コレステロールの増加を抑え、HDL(善玉)コレステロールを保つ働きにも関わっており、それらの作用により、心筋梗塞などの心血管疾患リスクの軽減にも影響しているとされています。
このほか、血管機能に作用することで、血圧の上昇を抑える方向に働く可能性も指摘されています。さらに、骨密度の低下を防ぎ、骨を強く保つことも女性ホルモン(エストロゲン)の大切な役割のひとつです。閉経後に骨粗しょう症や骨折リスクが高まりやすくなる背景には、女性ホルモン(エストロゲン)の減少が関係しています。
また、女性ホルモン(エストロゲン)は脳機能とも深く関わっていると考えられており、気分の安定や認知機能の維持に影響を与える可能性があることも分かってきています。同時に女性ホルモン(エストロゲン)は皮膚にも作用しているため、HRTを行った患者さんの中には、肌の乾燥が改善したり、肌の調子が良くなったと感じたりする方もいらっしゃいます。美容面での変化が最も直接実感できる効果です。
更年期の女性は、それまで全身を守ってくれていた女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、心身ともにゆらぎやすい時期を迎えます。さらに、閉経後は女性ホルモン(エストロゲン)の「守り」が弱まることで、骨粗しょう症や動脈硬化などの健康リスクも高まりやすくなります。そこで、減ってしまったホルモンを補充する治療を行うことで、健康リスクが高い無防備な状態で生きる期間を減らし、健康寿命を伸ばすこと。それが、HRTの目的のひとつです。
――平均より早い時期に閉経するほど、早く「守り」がなくなるということになり、健康のリスクもあがるのでしょうか?
そうですね。例えば、40〜44歳で閉経するケースについては、臨床の現場で便宜的に「早期閉経」と表現されることがあります。自然に40歳未満で閉経する女性は約1%、45歳未満では約5%とされており、100人に1人が40歳未満、20人に1人が45歳未満で閉経を迎える計算になります。早い時期に閉経した女性については、適切な治療を受けない場合、60代での死亡率が高くなる可能性を示したデータが、英国・米国・韓国などで報告されています。
一方で、55歳頃まで月経があった女性は、それより早く閉経した女性と比べて、60代での死亡率が低いというデータもあります。ただし、早期に閉経した場合でも、適切な治療によってこうしたリスクを軽減できると考えられています。日本ではまだ十分な統計データはありませんが、同じアジア圏である韓国の研究結果は参考になるでしょう。
早い閉経や、ホットフラッシュをはじめとする更年期症状によって、ご自身の健康状態に不安を感じたとき、選択肢のひとつとしてHRTがあることを知っておくのは大切です。より良い日常生活を送り、健康寿命を延ばしていくためにも、必要に応じて医師に相談していただきたいと思います。
ホルモン補充療法(HRT)の歴史と「怖い」という誤解が広まった経緯とは
――更年期医療は、近年でどのように変化してきたのでしょうか? HRTが行われるようになった歴史、そして「怖い」というイメージが広まり、後に訂正された経緯についても教えてください
女性は男性より長生きし、いっぽうで女性は寝たきりになる確率が高く、健康寿命の男女差は、平均寿命の差ほど大きくありません。前述の通り、女性は更年期を迎えると、卵巣機能の低下に伴ってエストロゲンの分泌量が減少します。その急激なホルモン環境の変化に体が適応しきれず、さまざまな不調が現れる状態が更年期障害です。
そんな不調を緩和するため、「減少した女性ホルモンを補うことで、更年期特有の症状を和らげたり、老年期の病気を予防したりしながら、女性の若さや活力をサポートする」ことを目的としたHRTの研究が始まり、1990年代には現在につながるHRTの治療法が整備され、安全性にも配慮した形でホルモン補充が行われるようになりました。
しかし、2001年にアメリカの国立衛生研究所(WHI)から、HRTを5年以上続けると脳卒中と乳がんの発生率が上がるという研究報告が出され、一時的に「危険」という誤解を受けることになります。ただ、この研究の対象は主に、かなり高齢の方や、すでに動脈硬化が進んでいる方であったということが判明します。つまり、HRTにもともと適さない方を対象としたデータだったのです。その後、新しい解析結果が次々と発表され、2005年には解釈が修正されています。
現在は、専門医のもとで適切な検査をした上で、必要な分量だけ減少したホルモンを補い不調を緩和するHRTは再び注目を集めており、世界的に普及率も再び上昇しつつあります。
医師に聞く、ホルモン補充療法(HRT)で「メリットと注意するべき点」
――HRTに興味はあるものの、正確な情報が伝わりにくく、不安を感じている女性も多いと思います。実際には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
HRTは、閉経後に減少した女性ホルモンを補うことで、更年期症状をやわらげるだけでなく、骨粗しょう症や動脈硬化の予防にも役立つとされている治療法です。閉経後の女性のQOL(生活の質)を維持・向上させることが、大きなメリットといえるでしょう。一方で、乳がんの既往歴がある方には、原則として推奨されません。また、乳がんの家族歴がある場合も、体質やリスクを十分に考慮したうえで、慎重に判断する必要があります。
現在のガイドラインでは、HRTによる乳がん発生リスクへの影響は比較的小さいと考えられています。標準的なHRTで用いられる2種類のホルモン投与によって、乳がん発生率のわずかな増加が報告された研究もありますが、その影響は、肥満や飲酒など生活習慣によるリスクと同程度、あるいはそれ以下とする見解もあります。
誤解されやすい点ですが、女性ホルモンが乳がんを直接「作る」というより、もともと存在していたホルモン感受性のある乳がん細胞に対して、エストロゲンが増殖を後押しする可能性がある、と思われます。そのため、乳がんの既往歴がない女性においては、HRTによる乳がんリスクの増加は大きくないとされています。ただし、乳がんはさまざまな要因で発症しうる病気のため、経過を丁寧にみていくことが大切です。
HRTを行う際には、マンモグラフィーや乳房超音波検査、子宮体癌検査(子宮内膜細胞診)などを継続的に受けながら、体調の変化を確認していくことが推奨されます。こうした検査を受けながらHRTを行うことで、女性ホルモン低下に伴う骨粗しょう症や動脈硬化などのリスクを抑えつつ、万が一の異変にも早い段階で対応しやすくなります。
そのためにも、治療前に健康状態をしっかり確認し、信頼できる婦人科専門医のもとで継続的に管理を受けながら治療を進めることが重要です。
つづく【関連記事】では、更年期世代の「HRTを続けるための「検査」と「治療の続け方」」について、ローズレディースクリニックの石塚文平先生にお話を伺います。
【関連記事】更年期・閉経後もエネルギッシュに!女性を支える「HRT治療」の事前検査・方法・続け方とは?【婦人科医が解説】
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