2LDKの親子「川の字」がもたらす、夫婦関係のひずみ。妻を誘っても冷たく手を払われる…「見えない結界」に苦しむ、夫の葛藤と孤独
「良き父親」を演じることの息苦しさと罪悪感
子連れ結婚において、新たに父親となる男性が抱える特有のプレッシャーがあります。それは「血の繋がらない子どもだからこそ、実の父親以上の愛情を注ぎ、完璧な父親像を体現しなければならない」という、自ら課した強迫観念です。令和という時代は、男性にも積極的な育児参加を当然のものとして求めます。それは素晴らしい進歩ですが、一方で男性から「弱音を吐く権利」や「一人の男としての欲求」を奪い去っている側面もあるのです。
「僕自身が、陸の前で『一人の男』としての側面を出すことに、強烈な罪悪感を覚えるようになってしまったんです。陸からすれば、ある日突然自分のテリトリーにやってきた見知らぬ大人の男が、大好きなママを独占しようとしているように見えるかもしれない。だから、日中はとにかく『良きパパ』であろうと必死に努めました。休日は自分の疲労なんて無視して全力で公園で走り回り、一緒にお風呂に入って体を洗い、夜は絵本を読んで寝かしつける。美香の負担を少しでも減らすことが、今の僕にできる一番の愛情表現であり、この家族に受け入れてもらうための唯一の手段だと思い込んでいたんです」
彼は間違いなく、客観的に見れば素晴らしい父親です。しかし、その過剰なまでの適応努力によって、彼自身の人間としての、そして男性としての根源的な欲求は完全に重い蓋をされてしまいました。
「夜、狭い和室で三人で寝転がっている時、ふと天井を見上げながら『俺は、この家で性欲を持った男であってはいけないんじゃないか』と本気で思うようになりました。隣で無防備な寝顔を見せている幼い子どもと、日々の育児と家事、そして仕事で完全に疲れ果てて泥のように寝落ちしている妻。この家族という神聖な空間の中で、自分だけがドロドロとした性的な欲求を抱えていることが、なんだかひどく不潔で、許されないことのように思えてきて……。自己嫌悪に陥る夜が続きました」
結婚して半年が過ぎる頃には、二人の間から性的なニュアンスを持つ会話やスキンシップは完全に消滅していました。朝、出勤時の「いってきます」のキスもありません。すれ違いざまに肩を抱くことも、ソファで寄り添ってテレビを見ることもないのです。それは、子どもへの配慮という名の「自己検閲」が生み出した、あまりにも悲しく、そして冷たい距離感でした。
妻の無意識の「母親化」と、決定的な拒絶の夜
智さんをさらに深く追い詰めたのは、他でもない妻・美香さんの変化でした。交際中は、実家に子どもを預けた週末だけ、智さんの前で甘えた表情を見せ、女性としての柔らかな隙を見せてくれていた彼女。しかし、入籍して同居を始めた瞬間、その「女」の部分は完全に封印され、彼女は24時間体制の強固な「母親」へと変貌を遂げてしまったのです。
ーーー奥様自身は、智さんに対する態度や接し方が変わったという自覚を持っているのでしょうか。
「たぶん、全くないと思います。美香の中では『これでようやく無事に家族になれた』という安心感のほうが圧倒的に大きいんでしょうね。彼女にとって、今の僕は『愛し合う夫』である前に、『一緒に過酷な子育てのミッションをこなしてくれる、頼もしい共同運営者』なんです。そこには戦友のような絆はあるかもしれませんが、男女の艶めいた感情は入り込む隙がありません」
決定的な出来事があったのは、結婚から8ヶ月が経過した頃のある夜でした。仕事で大きなプロジェクトを無事に終え、安堵感から珍しく会社の同僚と遅くまで飲み、少し酔って帰宅した智さん。寝室の襖をそっと開けると、陸くんは既に熟睡しており、美香さんは暗闇の中でスマホの画面を見つめていました。
「久しぶりに大きな仕事が終わって、心が少し解放されていたんだと思います。無性に美香の温もりが恋しくなって、少しだけ甘えたかったんです。僕は着替えてから、布団の端から彼女に近づき、背後からそっと抱きつきました。でも、美香は僕の腕を乱暴に解きながら『ちょっと、お酒臭いよ。やめて。陸が起きちゃうからあっち行って』と、氷のように冷たい声で言ったんです。あれは、本当にきつかったですね。心が折れる音が聞こえた気がしました」
愛する妻からのその冷たい拒絶は、男性としての存在意義を根本から否定されたような、深い傷を智さんの心に刻み込みました。
「その日を境に、僕から彼女に触れることは一切なくなりました。これ以上傷つきたくないんです。『また拒絶されるかもしれない』『また軽蔑されたような、汚いものを見るような目で見られるかもしれない』と思うと、恐怖で手が出せない。そうやって、自分から分厚い壁を作ってしまったのは、間違いなく僕の方でもあります」
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