約6割の日本人が間違えている「確信犯」の使い方。他のきわどい日本語は
忘年会はエースの彼の「独擅場」思い通りに振る舞って好き放題。そんなふうに使う時、この「独擅場」は「どくだんじょう」と読みますよね。
でも実はこれ、「どくせんじょう」が正しく、しかも「だん」「壇」と「せん」「擅」は漢字が違うのです。今日は読み間違いや勘違いが原因で、それが多数派となってしまった例を紹介します。どうしてそんなことになってしまったのか、この機会に覚えておくと、ちょっと自慢かもしれません。
1 そんな言葉はなかったのに、誤用で市民権を得て、辞書にも掲載!「独壇場(どくだんじょう)」
このように「独擅場(どくせんじょう)」の「擅(せん)」と「独壇場(どくだんじょう)」の「壇(だん)」は漢字が違います。
擅……ほしいまま、わがまま、勝手。ほしいままにする。思いのままにする。自分の自由にする。「擅横」「豪擅」など
壇……祭壇。土を小高く盛り上げた祭場。一段と高くした場所。「壇場」「仏壇」など
三省堂『新明解漢和辞典』より
このように、とても似ている漢字ですが意味が全く違います。
そして、もともと「独壇場(どくだんじょう)」という熟語は存在しませんでした。「思いのままにする」という意味の熟語は「独擅場(どくせんじょう)」しかなかったのです。「独擅場(どくせんじょう)」の意味のうち「一人舞台」というものが分かりやすいかと思います。そのイメージが「独壇場(どくだんじょう)」の「壇」と重なり、誤表記されるようになりました。そして「壇(だん)」が常用漢字であるのに対し、「擅(せん)」の方はそうではないので、放送や活字などのメディアでもひらがなに直さなくてはいけません。そういったことも相まって「独壇場(どくだんじょう)」の方が市民権を得ていき、いつのまにか「こちらでもOK」と辞書にも載るようになったのです。
独擅場(どくせんじょう)
その人ひとりだけで、思いのとおりの振る舞いができるような場面・分野。ひとり舞台。独壇場(どくだんじょう)
三省堂『大辞林』
辞書にもこのように掲載されるまでになりました。
2 「確信犯」は「テロ」に場所を譲り、ちょっとした「悪さ」も示すようになった
こうなることが分かっててやるなんて、確信犯だね
そんなふうに使うことが多い「確信犯」。本来の使い方とは違うのに、このように使われ、挙げ句の果てには「それでいいんじゃない?」的な擁護論もちらほら見受けられます。
確信犯
1 道徳的・宗教的または政治的確信に基づいて行われる犯罪。思想犯・政治犯・国事犯などに見られる。
2 俗に、それが悪いことと知りつつ、あえて行う行為
広辞苑第6版
「俗に」とありますが、この「2」の部分があとから辞書に付け足された意味です。本来はありませんでした。信念に基づいて行われる犯罪で、基本的に「悪いことと知りつつ」とは思っていないほど、確固たる信念に基づいて行われる犯罪です。例えば、「他の人がどう思うと知らない。私の信念に照らし合わせるとこの人は抹殺されるべき」という考えで殺人に関わった場合、彼を「確信犯」といいます。「悪いこととは知りつつ」なんて思っていないわけです。まあ、そんな重い例に限らず、確固たる信念に基づく犯罪をそう呼びます。この言葉を面白おかしく日常に利用した例が、私たちがよく使う「確信犯」ですね。
平成14年度の「国語に関する世論調査」で、「そんなことをするなんて確信犯だ。」という例文を挙げ、「確信犯」の意味を尋ねています。
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/h14/
結果
(ア) 政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪、又はその行為を行う人……16.4%
(イ) 悪いことであるとわかっていながらなされる行為・犯罪、又はその行為を行う人……57.6%
(ウ) (ア)と(イ)の両方……3.9%
(エ) (ア),(イ)とは全く別の意味……3.3%
分からない……18.8%
全体では、本来の使い方とは違う(イ)を選択した人の割合が57.6%と、本来の使い方である(ア)を選択した人の割合、16.4%を41ポイント上回っています。一部の辞書が「明らかな誤り」と表記していますが、これだけ市民権を得ると、色々な辞書がこの意味も可とします。
文化庁の解説では、元の意味である「確信犯」に対し、「テロ」という言葉で呼ばれることが多くなったこと、逆に、犯罪とまではいかないけれど、何らかの「意図」を達成するために、ちょっとした「悪さ」をすることにも使われるようになってきたためとしています。
http://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2012_05/series_10/series_10.html
他の言葉が台頭し、辞書が書き換わった例といえるでしょう。
3 存亡の機?存亡の危機?
こちらも文化庁の平成28年度「国語に関する世論調査」の結果、誤用の方が市民権を得ていると分かった例。
ちょっと皆さんも答えてみてください。
問題 「存続するか滅亡するかの重大な局面」をなんと言いますか?
(ア):「(a)存亡の機」を使う
(イ):「(b)存亡の危機」を使う
(ウ):(a)と(b)の両方とも使う
(エ):(a)と(b)のどちらも使わない
(オ):分からない
正解は……?
正解は(ア)の「存亡の機」です。
存亡の機
存在するか別棒するかの大切な場合。存亡の秋(とき)
広辞苑第6版
ところが、この調査で(ア)を選んだ人はわずか 6.6%!誤用である(イ)を選んだ人は 83.0%にのぼりました。
辞書にも載っていないこの「存亡の危機」が市民権を得た例です。
当時新聞では、文化庁も、「存続の危機」などと混同しているとみられるが「『存亡の危機』は広く使われており、誤用というのは難しい」と指摘しています。
「存続」の場合は「危機」を使いますが「存亡」は「機」なのです。
しかし、当時の総理大臣が「存亡の危機」という言葉を使うなど、もう完全に誤用の勝利です。
このように、大多数の人が間違え、そちらの方が定着し、誤用と呼ぶのが難しくなったほどの例もあります。言葉は生き物。変化して当然ですが、本当はどうだったか、それを知っているかどうかで教養が試されるとも言えるでしょう。さて、友人が言葉を間違えた場合、誤用だと知っているけれど波風立てないよう聞こえなかったふりをするのは、果たして「確信犯」でしょうか?(笑)