フィルムの会社が「化粧品を開発してみて」起きたこととは?【開発秘話#6後】
開発や企画、設計やデザインなど「ものを作った側」の人々に、「なんでコレ作ったの?」とオタクが感涙しながらしつこくお聞きするシリーズ、今回は富士フイルム・アスタリフトの「ジェリー アクアリスタ」です。
前編では「なぜフイルムの会社が化粧品を…?」という話を伺いました(こちらから)。後編では「作ってみたら」のお話です。
富士フイルム ライフサイエンス戦略本部 バイオサイエンス& エンジニアリング研究所 研究マネージャー 本間俊之さん
(以下敬称略)
外からだけじゃない、「肌内部からセラミドを補う方法」って?
--本間さんは「ジェリー アクアリスタ」にはどのようなタイミングで関わったのですか?
本間・2019年に「赤のジェリー」4代目、そして2020年に「白のジェリー」が新登場しました。私はこの2製品の開発に携わりました。効果的にセラミドを補うにはどうしたら良いか、シミやくすみの原因となるメラニンはどのように排出されるのか、などそれらをどう効果的にケアするかがテーマです。
--こうしたシリーズは代を経るごとに開発難易度が上がっていく、というイメージでいいでしょうか?
本間・はい、間違いなくハードルはどんどん上がります。ジェリーには、ナノアスタキサンチンだけでなく、Wヒト型ナノセラミド、他にも多くの美容成分を配合した黄金比率でできています。そのため、配合をちょっと変えると成分の効果が低下してしまったり、成分が沈殿してしまったたり。とにかく成分をナノ化したまま安定させておくのは非常に難しい。
--セラミド研究の進化はどのように実現したのでしょうか?
本間・こうしたセラミドそのもののナノ化とは別に、私は皮膚内のセラミド産生の研究を担当しました。セラミドを外部から補うだけではなく、肌の内部から効率的にセラミドを補うアプローチがないか、研究しました。セラミド産生経路を考えたとき、どこに着目すれば有効あアプローチになるかな……?このようにゼロから考えて、新しい発想やアプローチを見出します。
数多くの研究工程を経て、ようやく導き出される新たなアプローチ
--エッ、ちょっと研究のスケールが大きすぎて理解が?成分じゃなくて、皮膚側を考えるんですか?
本間・当時、セラミドがストレスで減少すると言われていましたが、なぜ減少するのかは明らかになっていませんでした。まず、ストレスによって、どのようにセラミドが減少するのかを確認するところがスタートです。この研究を進めるためには、数多くの工程があります。まず、3次元皮膚モデルを作り、そこからストレス物質の影響を評価、続いてセラミド産生に与える影響を分析、さらに、その後、バリア機能の回復を検証、顕微鏡で観察、。ジェリーはそんな苦労の結晶なんです。
--ごめんなさい、何を言っているのか半分もわかってないんですが、さらにこのあと美白ジェリーも登場するんですよね?
本間・美白のジェリーはまた別の大変さがありました。ジェリーの処方は、複数のナノ化成分と美容成分を安定的に配合できる完成形なので、配合比率が少しでも変わると成り立ちません。そこにまた美白有効成分を新たに加えるのは、多くの課題がありました。Wヒト型ナノセラミドもナノアスタキサンチンもどちらも不安定な成分であることに加えて、美白有効成分(アルブチン)を配合するなんて……しかも美白ですから決められた濃度で配合しないとなりません。さらに、これまで使っていた成分が使えなくなり、ジェリーの処方をゼロから開発する必要がありまし。
--ゼロから……というと、どのレベルの改良なのでしょうか?
本間・いや、これはもう改良というレベルの話ではなく、完全にゼロからの作り直しです。成分同士の相性があるので、総当たりにすると1000通り以上を粛々と調べていきます。組み合わせを1つ変えるとこっちに問題が出る、それを解消するとこっちがダメになる、またダメだった、こっちはどうだと、トレードオフの関係です。
--本当に気の長い実験ですね。
本間・例えば30サンプル分を一度に仕込んだとしても、安定性は1週間、2週間、3週間と経時で見ていくのでしばらくは判明しません。運が悪いと1週間たたずに分離したり、絶対イケると自信満々だった処方が3週間たってみると見事に析出していたり……。
--悲しい!私だったら落ち込んでご飯食べられなくなっちゃいそうです。
本間・私は落ち込まないタイプ、次いくぞという性格なのですが、研究者によっては落ち込むこともあるでしょうね。よい製品や技術を生み出したいという思いはみな同じ、苦労が多いほど完成したときの喜びは大きいと思います。
白のジェリーは、やっと出た!奇跡!という思いが強い商品
--白のジェリーではどんな点に着目したんですか?
本間・角層内のメラニンの排出について研究しました。美白化粧品は角層より深い部分をターゲットとしていて、メラニンはターンオーバーによって自然と排出されていくものと考えられていたので、あまり詳しく研究されていませんでした。そこに着目、角層にどのくらいメラニンが存在し、皮膚にどれほど影響するのかを研究したのです。これは美白アイテムとして新しく、チャレンジングな課題した。
富士フイルム コンシューマーヘルスケア事業部 商品開発・ブランドマネージメント推進本部 ブランドマネージメントグループ 藤谷知世さん
--今回は広報の藤谷さんにもご同席いただいていますが、広報の立場からはいかがでしたか?
藤谷(広報)・商品が形になってきたと社内で一報が入ったときは、やっと出てきてくれた!と嬉しく思いました。構想の段階から本当に長い長い間研究してきた美白ジェリーで、課題がとても多く、開発が計画通りに進まないということもありました。アプローチを変え、研究を変え、製法を変え、関係者が執念のように生み出してきた経緯を知っていますから、ようやくこの商品を発売できるんだな!という嬉しさがありました。
--美白が大好きな日本の市場にとって、待ってましたの1品ですよね。
藤谷(広報)・はい、もともとの開発のきっかけもお客様の声でした。美白タイプのジェリーや、夏用のジェリーがほしいというご要望が多々上がってきていました。お待たせしました、やっとお届けできます!という喜びを昨日のことのように覚えています。お陰様でこの夏も大変ご好評をいただきました。
--ジェリー アクアリスタは洗顔の後、化粧水の前に使う、先行美容液ですよね。今後もまた新しい開発が進むのでしょうか?
本間(開発)・肌へのアプローチの仕方は私のテーマでもあります。従来の保湿やバリア機能改善以外に何かないのかな、もっと有効な後押しはないのかなといつも考えています。ぜひアスタリフトにご期待ください。
左・アスタリフト ホワイト ジェリー アクアリスタ 40g 1万1,000円 60g 1万4,300円(すべて10%税込)
右・アスタリフト ジェリー アクアリスタ 40g 9,900円 60g 1万3,200円
公式サイト/富士フイルム
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