更年期以降の女性が悩む「薄毛・脱毛症」は医師も一緒に悩んでいる…「少しでも有望な打ち手があることが私にとっても希望です」
更年期、特に50歳を過ぎたころから少しずつ進行する女性の薄毛や髪質の変化。多くは女性ホルモンの減少による自然な変化ですが、朝、鏡を見たとき、写真を撮ったときに分け目の薄さが気になる、気持ちが落ち込んでしまう……という声も。
医師向けにたくさんの講演や実技指導を行う秋葉原スキンクリニック院長、堀内祐紀先生は「髪に悩む女性たちの声を聞き続ける中で、単なる治療だけでなく、気持ちに寄り添うケアの大切さを感じてきました。そうした思いから、女性の薄毛治療に長年携わっています」と語ります。
女性の「髪の悩み」にはどのような治療があり、また、堀内先生はどのように向き合っているのでしょうか。
前編記事『「最近なんだか髪の分け目が薄くなった」そんな私が「知っておくべきこと」は?女性の薄毛の専門家に聞く「薄毛治療の現在」』に続く後編です。
堀内先生が「希望を託す」新たな治療とは?「その確かさは天の川のごとく輝いています」
「女性の薄毛に対する治療法が、たくさんSNSなどで紹介されている昨今、我々医師にとっても、院内に採用する治療法を見定める力がさらに必要になっています」
そう語る堀内先生。そんな先生が最近新たに導入したのが、これまで3つの大学病院だけが手がけてきた最新の薄毛治療S-DSC毛髪再生医療」です。
髪の成長は毛球部で毛乳頭細胞が毛母細胞を活性化することで促進されます。この治療は、この毛乳頭細胞の前駆体であるDSC細胞(毛球部毛根鞘細胞)を自分の非薄毛部の頭部から採取し専門施設で培養後、培養した組織を注入治療によって薄毛部の毛乳頭付近に戻すことで、毛乳頭細胞を増やす治療です。現在、非常に注目を集めているこの「再生医療」。この分野において、日本は世界的にも最先端を走っています。
「再生医療の中でも、このS-DSCという治療は業界最大手の資生堂が長年研究を進めてきたものです。私は先輩の医師に推薦をいただき、全国のクリニックの中で初めてこの治療に選ばれました。この治療を知り、最初に感銘を受けたのは、研究の精度の高さと、治療データの厳密さでした。資生堂が長年積み重ねてきた確かな科学的裏付けに支えられた治療に携われることは、医師として非常に心強く、また大きな信頼感につながっています」
特に日本人を対象とした臨床データがこれほど豊富にそろっているケースは非常にまれ、と堀内先生は語ります。
「高齢で症状が進行した病状の方でも毛が太くなっていくデータがありますから、S-DSCによる女性の薄毛治療に対して、私は大きな期待を持っています。これほどのデータがそろっているという事実は、長い時間をかけて丁寧に研究を積み重ね、強い信念と覚悟を持って取り組まれてきた証だと感じています。そうしたプロジェクトに参加できることは、非常に光栄です。現在はスタートからまだ3カ月ほど。ようやく最初の患者さんが2回目の来院を迎え、治療前より毛が太くなった結果を見て、非常に期待感を持っています」
3カ月で来院という点からわかるとおり、この治療のメリットのひとつは治療回数の少なさにもあると堀内先生は断言します。
「患者さんからは、『毎月通院するのが負担』『髪のことを常に気にしている自分に疲れてしまった』『この悩みごと手放して、誰かに任せたい』といった声がよく聞かれます。また、毎日のセルフケアが負担に感じられる方も多く、中には『鏡を見るたびに髪の状態を意識させられるのがつらい』と話される方もいらっしゃいます」
ああ、わかります。そもそも時間が足りずにいろいろなことを時短して毎日の生活を成り立たせているのに、なんで髪のケアは短縮できないのか……毎月毎月通院したくない……そういうこと、私も絶対に思います。
「3カ月に1回の来院で治療を継続できるというのは、多忙な方にとって非常に大きな安心材料だと感じています。頻繁に通うのが難しい方だけでなく、すでに他の治療を続けている中で効果が頭打ちになっている方にとっても、追加で取り入れることで何らかの良い変化が期待できる可能性があります」
一人ひとりの気持ちに丁寧に耳を傾けながら治療を進めていく中で、実際のデータを提示しながら説明を行うことで、患者さんの納得感にもつながっているようです。
「もうひとつ、私が注目しているのは、高齢の方に対しても良好なデータが出ている点です。治療が難しいとされがちな60代以降の方にも効果が期待できると思います。注射による治療ですので、外用薬でかぶれやすい方にもご提案しやすいのが特長です」
まだポイントは続きます。先生が重視している「安全性」の面では、日本の毛髪科学研究を代表する大学病院と資生堂が「再生医療等安全性確保法」にしっかりと準拠し、レベルの高い学術的なデータに基づき確立したエビデンスある治療法である点が最大の材料とのこと。自分自身の細胞を用いるため、拒絶反応などの副作用リスクは極めて低く、また、注入時の痛みをなるべく軽減できるように独自機器も開発しているというから至れり尽くせりです。
「薄毛や脱毛の悩みは、こじれてしまう前にできるだけ早めにご相談いただくことで、よりスムーズに改善へとつなげることができます。治療は長期にわたることも多いため、何でも気軽に相談できる、相性の良い医師と出会えることが大切です」
この治療、「効果が出やすい人」と「そうでない人」の違いは何?
この治療はどんな人におすすめなのでしょうか。たとえば本記事の筆者はどちらかというと猫っ毛で、小学生のころから髪が薄いとからかわれることがありました。この1年は前髪の上あたりの地肌がとてもよく見えるのが気になって、頭頂だけカバーするタイプのウィッグを作ろうか検討することもあります。
「もともと髪が細く、毛量や密度が少ない方は、加齢などで髪がさらに細くなると地肌が目立ちやすく、その見た目に悩まれるケースが少なくありません。中には実際には薄毛ではないのに、『自分は薄毛かもしれない』と思い込んでしまっている方もいらっしゃいます。ただし、この治療は生まれ持った髪よりも太くするものではなく、あくまで本来の髪のポテンシャルを最大限に引き出すアプローチです」
なるほど、つまり私はあまり顕著には奏功しないかもしれないのでしょうか。わあ、残念。
「『もともとおでこが広いのですが、治りますか?』というご相談をいただくことがありますが、先天的な骨格や生え際の形によるものであれば、治療による改善が難しいケースもあります。そのため、私たちはまず丁寧にお話を伺い、その方のお悩みの背景と医学的な治療適応を慎重に見極めるようにしています。実際には薄毛ではないにもかかわらず、『自分は薄毛かもしれない』と強く思い込んで不安を抱えていらっしゃる方も少なくありません。そうした場合には、『現在の状態であれば治療の必要はないですよ』と安心していただけるよう、わかりやすく丁寧にご説明するよう心がけています」
資生堂のデータでは、「よく効果が出た人」「中程度の反応だった人」「あまり効果が見られなかった人」の3つのパターンが明示されており、「自分はこのくらいの効果が期待できそうだ」と視覚的にイメージしやすく、納得感をもって治療に臨めるそうです。
「『効果があった』『効果がなかった』という両極端な例だけでなく、その中間にあたる『ある程度の改善が見られたケース』の写真も開示されているため、よりリアルな治療効果をイメージしやすくなっています。S-DSCは完全自費の治療で、1クール始めるだけでもおよそ250万円かかるため、『とりあえず試してみては』と軽々しくご案内できるものではありません。だからこそ、こうした正確かつ誠実なデータをもとに、ご本人と一緒にしっかり相談しながら治療を決定できることは、医師・患者様双方にとって非常に重要で意義のあることだと感じています」
約250万円という費用は決して小さくはありませんが、外用薬を10年継続した場合、トータルで100万円を超えることもありえます。費用と効果のバランスを長期的に見すえたとき、「可能性のある選択肢」として検討する価値は十分にあるのではないでしょうか、と堀内先生は語ります。ちなみに、これまでにS-DSC毛髪再生医療を始めた方のうち、半数以上はご自身で情報を集め、「S-DSCを希望します」と明確に治療を指定して来院された患者さんだったそうです。
「印象的なのは、この治療についてご相談にいらっしゃる方々が、どこか前向きで、非常に冷静かつ理性的に悩みと向き合っておられることです。『自分自身の細胞を使う安心感』『資生堂という企業への信頼感』『科学的根拠に基づいていること』など、複数の観点からご自身でしっかりと判断されている様子がうかがえます。医師としても、そうした価値観に共感される方々には、より適した選択肢となりうる治療だと感じています」
先行して治療が行われている大学病院では、ある女性の患者さんが「電車で上からの視線を気にせず座れるようになりました」と、涙ながらにお話しされたそうです。こうした背景も踏まえて、医師としてのお考えもぜひお聞かせいただければと思います。
「私自身、医師として長年臨床に携わってきましたが、最近は若いころには気づかなかったような不調にも目が向くようになってきました」
そう語る堀内先生。この治療法がどのように広まるとよいとお考えでしょうか?
「お互いのデータをフィードバックし合いながら、さらに良い治療法にしていけるような志の高い先生方にぜひ導入してほしいと思っています。すべては治療法の限られている薄毛でお悩みの女性を応援するために!」
クリニックへの導入時には面倒な部分を資生堂がサポートすると聞きました。関わるみなさんが全員本気で応援しているのですよね。
「はい、もちろん私たちもです。私はクリニック開業以来18年、一貫して“女性を総合的に応援する”ことを大切にしてきました。その中でも『美肌』は大きなテーマのひとつです。最近では骨盤底筋を鍛える機器を導入したり、悩みに応じたクラスを設けたピラティススタジオや、鍼灸師によるメンテナンスも取り入れるなど、アプローチの幅を広げています。肌はとても興味深い臓器で、心の状態とも密接に関わっています。心が元気でないと、肌も健やかに保つことが難しい。毛髪に関しても同様で、毛髪だけを診ているだけでは本質的なケアにはならないと感じています。社会のあり方や価値観が日々変化する中で、これからもより良い医療を模索し、届けていきたいと考えています」
▶▶女性の毛髪への新アプローチ「毛の成長を促す起点となる細胞の一つを移植する」治療への期待を専門医に聞きました
お話/秋葉原スキンクリニック 院長 堀内祐紀先生
東京女子医科大学医学部卒業。東京女子医科大学皮膚科学教室入局後、JR東京総合病院、埼玉協同病院を経て2007年秋葉原スキンクリニック開設。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本医学脱毛学会理事。日本痤瘡研究会理事、美容皮膚エキスパート協会代表理事、Aesthetic Medical Academy理事。保険治療だけでなく美容治療を各種取り揃え、さらに肌を良くしたい!という気持ちを叶えるために、エビデンスのしっかりとした治療を、自信を持って届ける。
撮影/柴田和宣(主婦の友社写真室)
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