「障害があってよかった」なんていえない。それでも11年間で、この子が私を変えてくれたこと【体験談】
この「家族のカタチ」は、「私たちの周りにある一番小さな社会=家族」を見つめ直すインタビューシリーズ。いまや多様な価値観で描かれつつある、それぞれの「家族像」を見つめることは、あなたの生き方や幸せのあり方の再発見にもつながるでしょう。
前回からお話をうかがっているのは、重度知的障害児を育てるシングルマザー・まどかさん(仮名・40代前半)です。結婚6年目で授かった第二子には、重度の知的障害を伴う自閉症児と診断が。同時期に夫の裏切りも重なり、命を断とうと考えるほどに追い詰められたまどかさんでしたが、「それができるくらいなら、思い切り好きなように生きてみよう」と離婚を決断。
ここからは、シングルマザーとして、新たな「家族のカタチ」を紡ぐ日々で目にしている景色や、今後について思うことを伺います。
※記事中の画像はすべてイメージ画像です。
◀関連記事『「この子と一緒に命を絶とう」思いつめた重度知的障害児の母親。孤独のなかで見つけた、もう一つの生き方【体験談】』
【家族のカタチ #10 シングルマザー編】
東京で生き続けることを選んだ2つの理由

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両親と同居しながら、まどかさんがシングルマザーとしての生活をスタートさせたのは6年ほど前。
次男が新たに通う療育園の預かりは1日4~5時間。その制約の下、不動産業界のパートを新たに見つけることもできました。ところがわずか2年後には、両親が東京から地元の西日本に戻る展開に。再び「東京で暮らし続けるか、両親とともに故郷に再び引っ越すか」の選択を迫られます。考え抜いた結果、まどかさんが選んだのは、息子2人と東京で暮らすこと。
その理由は大きく二つ。まずは、既に小学校生活をスタートしていた長男が、東京で暮らしたがったから。そしてもう一つの決め手は、「障害児とその親」としての暮らしやすさでした。
「東京は、療育施設や発達支援がとても充実しています。それから、障害児を含めた『多様性』が受け入れられやすい。これがものすごく大きなポイントでした」。

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かつて、まどかさん家族が親戚と顔を合わせた時のこと。当時6歳でありながら発語がない次男を見て、親戚が「あれ?しゃべらないの?」と投げかけてきました。ところが、同席していた母親は、その問いかけに肯定も否定もせず、曖昧な返事で答えを濁し続けたのです。
「『あぁ、恥ずかしいんだな』って思いました。突然障害の話をされたら相手が戸惑うかもしれない、とは私も思いますが、母の様子はまたそれとは違って……。孫を恥じている、その本音を見たようで、とても複雑でした。
もちろん、地域や文化を一括りにして語るつもりはありません。でも、あの出来事で、少なくとも私の故郷では、『○○さんちの子って、実は△△らしいわよ』と、心地よさとは程遠い視線を向けられるだろうと、容易に想像できてしまったんです。田舎に帰った場合と、ここで暮らし続ける場合をイメージしたら、『障害児の親』としては、東京の方が生きやすいのだろうな、と感じました」。
長男に思うこと

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家族全員が自分らしく暮らせる「家族のカタチ」を一つ一つ選びとってきたまどかさん。その甲斐もあり、長男は健やかに成長し、すっかり頼もしい存在に。現在は中学2年生になりました。
「離婚も東京への引っ越しも、すんなり受け入れてくれましたが、一度だけ聞かれたことがあるんです。彼が小学3年生くらいの時だったかな、『お父さんと何で別れたの?』って。『お父さんはお母さんを傷つけるようなことをしたから、別々に暮らすようになったんだよ』と答えたら、長男からは『わかった』と、たった一言。小さな時から、どこか大人びた子なんです」。
そんな人柄も手伝ってか、「弟の障害を理由に、周囲から心ない言葉を浴びせられるのでは」というまどかさんの心配は、いまのところ杞憂に終わっているといいます。長男が打ち込むクラブチームの活動や学校での参観には、次男を連れて行くのが日常。周囲も自然に「障害がある弟がいる」と認識し、受け入れてくれました。
「そういう場で、私や次男が嫌な態度を取られた経験もないんです。周りの方々には、心から感謝していますね。かたや長男は、『試合中に、弟の声が気になって集中できないから、あんまり連れてくるな』なんて言うんですけど(笑)。でも、そういう不満や要望を素直に親に伝えてくれるのは、むしろ健全で、安心ですよね」。
一方でまどかさんは、そんな長男の物分かりの良さに寄りかかりたくないともいいます。
「長男には次男に対する責任を感じ過ぎず、好きなように生きてほしいと思っているんです」。
その思いを形にするための準備も、実はコツコツと進めているのだとか。そのあたりの詳しいお話は、また後ほど。
副業と、ケアと、家事と。それでもやっぱり「今が楽しい」

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東京に残ると決めた日、長男に「経済的に厳しくなったら、田舎に帰るからね!」と伝えたまどかさん。あれから4年が経ちました。今も経済的に大きな余裕があるわけではないといいますが、インタビューに臨むその表情からは、穏やかな笑みが絶えません。
「今の生活は楽しいですよ。もちろん、私が生活を支えないといけないプレッシャーはあります。でも、息苦しさはないんですよね」。
現在の仕事の就労時間は、週24時間。仕事が終われば、支援施設に通う次男の送迎やケア、クラブチームでスポーツに打ち込む長男のサポート、そしてもちろん家事もあります。そんな慌ただしさの合間で、様々な副業にも取り組む日々です。
「副業の一番の目的は、やはり生活のためです。現状の生活資金確保のために、TELアポとか、不動産サイトの更新作業とか……できることは全部やってきました。さらに、今は学童と放課後等デイサービス(以下 放デイ)に通えている次男も、2年後に中学生になれば、学童がなくなります。つまり、預かり時間が減って、私の働き方に制限が増えてしまうんです。その未来に備えて、最近はライターの勉強もしながら、選択肢を広げられるようがんばっています」。
家族が、支援者が、時間が、悩む自分を支えてくれる

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未来にひとかけらの不安は抱きつつも、今できることに集中して行動を積み重ねる日々を、まどかさんはこう語ります。
「大変じゃないと言えば嘘になります。でも、気持ちのいい風が吹いているとでもいうのかな……自分でやりたいようにやれている実感があるんです。
夫と暮らしていたころは、『これをしてはいけない』『こう話さなくてはいけない』と緊張感のある日々だったけれど、今は自由。自分が思うがまま、息子たちとどうでもいいような話を好きなようにできる。家事や仕事が落ち着いた夜、長男と一緒にのんびりアニメを見ながら、ああだこうだと話すのも、至福の時です」。
とはいえ、孤独に苛まれる夜や、疲れが溜まる日もあるはず。そんな時は、どうしているのでしょう。
「次男にまつわる悩み事は、支援者さんや同じ施設に通う保護者の方に相談することも。逆に、それ以外の人には、次男に関する話題を一切話さないんですよ。相手に気を遣わせてしまうだろうし、なかなかイメージもできないだろうと思うと、どうも話す気になれないんです。だから、目線の近い相手と相談や情報を交換したりするひとときは、安心が得られる貴重な機会ですね」。

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そんな相手とすぐに話せない時は、「一人の時間を大切にしている」とも。
仕事が終わってから、次男を迎えに行く合間や、日曜日に次男が放デイで過ごす間は、とっておきのおひとりさまタイム。読書や副業に打ち込むわずかな時間が、マインドフルネスや自己効力感につながります。
「それでもね、気力も体力も尽きる瞬間だってありますよ。そういう時は、息子たちに『今日はもう話しかけないで!』って宣言します(笑)。そして、潔く寝るんです。時間が解決してくれることも、意外と多いですから」。
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