「老化を嘆かなくてもいいんです、単なる脳の再編成だから」中野信子氏が語る、66歳からの脳の変化と“ダイエット厳禁”の理由
働き方、暮らし方、結婚観など、ここ数年で時代は大きく変化しました。これまでと違う考え方や生成AIの登場で、私たちはときに「どうしたらいいのか」途方に暮れてしまいます。
そんな私たちの言葉にしがたい戸惑いを、書籍『眠れない夜に、言語化の話をしよう』(ソシム・刊)の著者、脳科学者の中野信子先生と開発者の川田十夢さんが言語化してくださいました。
前編記事『「血縁ベースの家族が終わり、AIお母さんが登場する未来は遠くない」脳科学者・中野信子と開発者・川田十夢が語る「この時代に必然的に起きる変化」』に続く後編です。
脳は9歳、32歳、66歳、83歳で書き換わる。老化とは脳の「再編成」に過ぎない、抗わなくてもいいかもしれない

――前編記事では「AIお母さん」が登場するかもという話から新しい時代の家族の形をお話いただきました。さて、家族と同じくらい、自分のこと、特に老化に関しては心配事が増えてきました。そんな中、文中の「老いは脳の『再編成』である」というくだりが、とても救いに感じました。「高齢者の脳は若年層と異なる回路で効率的に情報処理を行うと分かった」という最新の研究は、「老いたら価値がない?」という不安を軽減してくれます。
中野 『ネイチャーコミュニケーションズ』という認知科学の学術誌で、「脳は人生における発達段階で書き換わる」という研究がなされてきました。最初は9歳(7~13歳)頃に大きな変化があって、このフェーズでは前頭葉の発達が生まれ変わるレベルで変化します。発達が早いほうがいいかというと、早い遅いはあまり関係なく、9歳前後の数年間で非常に大きく変わります。
次は、32歳。ここは私も思い当たる節があって、33歳ぐらいの時に、すごく記憶力が落ちたんです。それまで見たものすべて覚えていたんですけど、覚えられなくなって。ただ、代わりに文章を楽に書けるようになり、抽象的なものの処理ができるようになりました。
3番目の変化は、約30年後の66歳。ここでは、脳にある白質(はくしつ)という神経組織の劣化が起きます。白質は、神経細胞の細胞体から伸びる軸索(じくさく)という電源コードみたいな物質で構成されています。電源コードは、周りをビニールのような素材で覆われていて、劣化すると漏電したり電気が切れたりしますよね。軸索も同じで、脂肪で覆われていて、劣化すると脳からの指令伝達がうまくいきにくくなります。劣化スピードは人それぞれですが、70歳ぐらいになると、脳が縮んでいる人とそうでない人がはっきり分かるようになります。
その後、83歳で最後の変化が起きます。83歳以降は健康状態との相関が大きくて、脳全体の変化というよりも、局所的な劣化が目立つようになります。老化は、ちょっとずつ加齢が進む話と、健康状態との相関がある部分とを分けて考えたほうがいいかもしれません。
――だとすると、やみくもにダイエットで脂肪を落とさないほうがいいでしょうか。
中野 あまりダイエットはしないほうがいいと思います。白質はほとんど脂肪なので、脂肪を制限すると劣化を早めてしまいます。
――認知症は50歳くらいから始まると言われますが、66歳あたりで不可逆的になるのでしょうか。
中野 神経細胞の脱落があったら終わりかというと、そうとも限らなくて、新しい神経が生まれる場合もあります。脱落した細胞の代わりに新しい細胞が入れ替わるので、100%不可逆とは言えません。けれども、じゃあそれが速やかに起こるかといったらそうでもない。脱落や白質劣化の起きやすさは遺伝の影響もありますので、生活習慣を気をつけても、それだけでフォローできるわけでもないんです。
生成AIを使うと記憶力が83%損なわれる

川田 それにしても、今の時代ってすごい危険だなと思いませんか。みんなAI使うじゃないですか。どの年代の人も同じ1つの意識につながっている。これってすごい危険だなと思うんです。
7歳から13歳までは、自分で考える力を養う時期。僕、算数の公式とか習わなくても分かってたんですよ。習ってやるもんじゃないなと思ってたんで。重いとか軽いとか、体積って何だろう?とか。教科書を覚えるんじゃなくて。探求を進めると、覚えるんじゃなくて、分かるんですよ。理解として。それを踏まえずに、7歳や13歳で情報を与えるのはいけないような気がして。脳の発達に応じたチャンネルがあると思います。プロンプト(AIに指示する文)でやっちゃうんじゃなくて。ChatGPTは、年代ごとに出力を変えたほうがいいですよね。
僕の知り合いの作家さんが、ChatGPTと仲良くなりすぎて危険な状態になってます。一緒に共作本を出版するとか言い始めたかと思えば、「自分はもう本を書く必要はない。AIに私のことを書いてもらえばいい」みたいな感じになっちゃって。まあ、孤独は埋まっていると思いますけど。
中野 プレリミナリー(暫定的)な結果ではあるんですが、生成AIを使うと記憶力が83%損なわ れるという研究もあります。83%って、脳が8分の1しか機能してないってことですよ。
――なのに、記憶力を83%も損失させる生成AIに「AIお母さん」をさせて大丈夫でしょうか?
川田 まだAIの影響を受けない年齢だから、大丈夫なんじゃないかな。
中野 世の中はこんなにも毒親の話題になっているのに、どこで親としてのトレーニングができますか? 子どもの発達のこと、どこで習いますか? 全員、プロじゃないですよね。
人生の最後まで脳を鍛え続けたいのなら、敢えて「分からないもの」にさらされ続けたほうがいい

――最後に、おすすめの脳の鍛え方を教えてください。
中野 取材などでよく聞かれるので、「自我の限界を超える装置」として芸術作品を鑑賞することをおすすめしていますが、正直なところ、好きでない、見たくないなら無理して見なくていいと言いたい。私は好きだから見に行きますが、嫌なら、他の好きなものに囲まれていればいいと思うんです。
――芸術作品に触れることで、脳が心地よくなるチャンネルが増える感じでしょうか。
中野 そうですね。そうですし、分からなかった面白さが分かったら、ちょっと楽しいし面白いですよね。例えば、数学の問題が難しくて解けなくて、でも、ちょっと補助線を引いたら解けちゃった、みたいな時は面白い。分からないままだと、本当に分からないまま。だから私は「分からないものにさらされろ!」とよく言うんです。
川田 「分かる」ってどういうことかというと、補助線になる前に点線の状態があって、点線が見えた時に、本で調べたり自分で考えたりしながら、別に楽しくないのに引き込まれていって、そしたら点線が線になって楽しい、みたいな感じです。ChatGPTがよくないのは、点線を把握してないところ。ChatGPTが線を引いちゃうから。
――なるほど。先ほどおっしゃった体積などの身体感覚をもって公式に導いていく思考ルートを、ChatGPTは線をビッと引いて先回りしてしまいますよね。
川田 身体感覚は、大事にしたほうがいいと思います。海外の美術館って、絵に触れられるじゃないですか。子どもが触れる体験は大事だと思います。日本は隔離して、ありがたがって遠くから見る感じだけど。
――AI時代だからこそ、身体感覚をもちいたセンサー、感知、感覚がとても大事で意味を成すということですね。
川田 センサーは人間しか持ってないから、そこをもっておかないと。ChatGPTは正解じゃないことも言ってくるんですけど、けっこう信じちゃうんですよね。
中野 ほんと。ChatGPTは、私が私立桜蔭高校卒業って言ってくる。違うのに。
――ああ。桜蔭って言われたら信じちゃいます。
川田 っていうか、OTONASALONEってもっとカジュアルな情報メディアじゃなかったっけ?(笑)
――90%はカジュアルです! どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。
つづき>>>「血縁ベースの家族が終わり、AIお母さんが登場する未来は遠くない」脳科学者・中野信子と開発者・川田十夢が語る「この時代に必然的に起きる変化」

お話/
■中野信子さん
脳科学者、医学博士。東京大学工学部卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに、研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会に起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授。著書に『サイコパス』(文春新書)、『空気を読む脳』(講談社+α新書)、『科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)など多数。テレビコメンテーターとしても活躍中。
■川田十夢さん
10年間のメーカー勤務で特許開発に従事したあと独立、やまだかつてない開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。著作に『拡張現実的』(Bros.books)、『AR三兄弟の企画書』(日経BP)がある。テレビからラジオ、ひみつ道具から学研の科学、乃木坂から六本木ヒルズに至るまで。その拡張範囲は多岐にわたる。商社との特許開発事業『どこでも自販機』が最新作。毎週金曜日20時00分からJ-WAVE『INNOVATIONWORLD』が放送中。WIREDで巻末連載中。
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