「生活費が足りない?じゃあお前はメシ食うな」病院に行くことも禁止され…。フルタイム妻を追い詰めた「優しそうな旦那さん」の裏の顔とは

2026.05.09 LIFE

モラハラ・夫婦カウンセラーの麻野祐香です。

働く女性は、モラハラやDVの夫から簡単に逃げられるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。さまざまな事情で、支配的な配偶者との結婚生活を続けている人たちは少なくありません。

オトナサローネ世代のモラハラ被害にフォーカスした本連載、今回は、近所では「優しそうなご主人ですね」と言われながら、家の中では思いやりのかけらもなく、妻の体調が悪い日でさえ「俺の飯は?」と言い放つ夫と暮らしていたNさんのお話です。

お互いフルタイム勤務。「助け合いたい」という思いは一度も叶えられなくて

Nさんはフルタイムで働きながら、家事も育児も、ほぼ一人で担っていました。朝5時半に起きて家族の朝食とお弁当を作り、子どもたちを急かして支度をさせる。保育園へ送り届け、そのまま仕事へ向かう。仕事が終われば買い物をして帰宅し、夕飯の準備、お風呂、洗濯、寝かしつけ。一息つける頃には、日付が変わっていることも珍しくありませんでした。それでも夫が手伝うことは、ほとんどありません。

 

お互い働いているんだから、少しは手伝ってほしいと、Nさんは何度も夫に訴えました。しかし夫は、ソファに座ったままスマートフォンから目も離さず、冷たく言うのです。

「俺のほうが給料高いんだから、仕事の負担も俺のほうが大きい。家のことは、お前の役目だろ」

 

「私だって忙しいんだから」

そう返すと、夫は鼻で笑うように言いました。

「俺より稼げるようになってから言えよ」

 

その冷たい視線を向けられるたびに、Nさんは「この人に何を言っても無駄なんだ」と諦めていったのです。

仕事、家事、育児。休む間もない生活の中で、Nさんはついに体調を崩してしまいました。頭痛と吐き気があり、食欲もない。やっとの思いで帰宅し、「今日は体調が悪すぎて…。夕食は食べられない」と伝えた、そのときでした。

夫はソファに座ったまま、振り返ることもなくこう言ったのです。

「食べなきゃいいじゃん。で、俺のメシは?」

 

体調を気遣う言葉は、一言たりとも聞くことはできませんでした。夫が気にしていたのは、自分の食事のことだけだったのです。しかしそのときのNさんは、さすがに限界でした。「動けないから、自分で何とかして」そう言い残し、そのままベッドへ倒れ込んだといいます。

 

するとリビングから、夫の怒鳴り声が聞こえてきました。

「俺のメシはどうするんだよ!子どもたちの分も作ってないじゃないか!」

その声を聞きつけた子どもが、

「ママ、大丈夫?」

と心配そうに部屋をのぞきに来ました。子どもの頭を撫でながら、涙があふれたことを、Nさんは今でも忘れられないといいます。

 

こうした夫の冷たい態度や暴言は、決して特別なことではありませんでした。日常的に繰り返されていたのです。「仕事がつらいから辞めようかな」そう漏らしたときも、夫はこう言いました。「へぇ、俺は知らない。生活保護にでもなれば」

 

本当に苦しいときに体調が悪いと伝えても、「病院代がもったいない。気力で治せ」と言うだけでした。夫からは、優しさも、思いやりも感じることができなかったのです。

 

追い詰められる日々、一体なんのための結婚なのか

「私は、なんのために結婚しているんだろう」

Nさんは、何度もそう自問自答していたといいます。当時のNさんは、精神的にもかなり追い詰められていました。原因のわからない体のだるさが続き、それでも仕事は休めない。家のことを完璧にできなければ、夫から文句を言われる。だからこそ、少しでも楽になりたくて、病院へ行こうとしていたのです。

 

夫は商社勤務で、収入は決して少なくありません。それでもNさんは、夫の正確な給与額を知りませんでした。月々、渡される生活費は8万円ほど。住宅ローンや光熱費、食費で、ほとんど消えてしまいます。しかしそれ以上は決して渡してもらえないため、子どもの学費や塾代、日々の細かな出費は、Nさんが負担していました。

 

フルタイムで働きながら、家事も育児もほぼ一人。それなのに、夫から返ってくるのは、ねぎらいではなく責める言葉ばかりでした。

「生活費が足りない?それならお前はメシ食うなよ。文句があるなら出ていけ」

 

そして、こんな言葉まで口にするようになったのです。

「俺の言うことを聞くなら、この家に置いてやってもいいけどな」

 

“家に置いてやる”

その言い方に、Nさんは言葉を失いました。

 

本来、家は安心して過ごせる場所のはずです。けれど当時のNさんにとって、家は気を抜けない場所になっていました。夫の機嫌次第で、いつでも居場所を奪われる……。そんな感覚の中で、毎日を生きていたのです。

 

「家に置いてやっている」という言葉がはなつメッセージ

家に置いてやる。この言葉には、「(妻が)この家にいるには、夫の許可が必要だ」というメッセージが含まれています。本来、住む場所も、食べることも、家族として一緒に暮らすことも、夫婦が対等に築いていくもののはずです。家族を扶養することも、夫婦で支え合うことも、本来は当たり前の責任です。

 

それなのに夫は、まるで自分の“許可”によってNさんがここに住めているかのように振る舞うのです。そうした言葉を繰り返し浴びせられるうちに、Nさんの中には、「私は、ここにいさせてもらっている」という感覚が、少しずつ根づいていきました。

 

これは、経済的DVと心理的支配が組み合わさったときに起こりやすい状態です。生活費を渡されることで、「自分は夫に養ってもらっている側だ」と思わされる。実際には、自分もフルタイムで働き、自分の収入を家庭に入れているにもかかわらず、暴言を繰り返し浴びせられることで、「自分には価値がない」と思い込まされていくのです。

 

そうなると人は、現状に疑問を持つ力そのものを失っていきます。さらに夫は、モラハラ加害者に特有の「外ではいい人」を演じていました。学校行事では穏やかに振る舞い、周囲の保護者とも自然に会話をする。近所で会えば、感じよく挨拶をする。「優しそうなご主人ですね」そう言われることも少なくありませんでした。

 

夫の外での評価が高ければ高いほど、Nさんは、自分が感じている違和感のほうを疑うようになっていきました。「私の受け取り方がおかしいのかもしれない」そう思うようになってしまうのです。相談したとしても、「そんな人には見えない」と言われるのではないかと思うと、その怖さから、Nさんは誰にも夫の本当の姿を話せなくなっていきました。

本編では、フルタイムで働きながら家事育児を一人で抱え、夫から「俺の飯は?」「家に置いてやってる」と支配され続けたNさんの苦しみについてお伝えしました。

▶▶「もう無理かもしれない」髪が抜け始めた私…モラハラ夫から逃げる決意をした日

では、暴言と支配の中で心と体に限界が訪れたNさんが、子どもを連れて家を出るまでの経緯についてお届けします。

スポンサーリンク

スポンサーリンク

スポンサーリンク