あなたは「虚」「実」どちら?医師に教わる「漢方と自分の体質」
「皮膚科領域の漢方治療は、アトピーで特にニーズが多いのですが、いっぽう皮膚科の漢方医は多くありません」。
そう教えてくれたのは、よしき皮膚科クリニック銀座 院長 吉木伸子先生です。
吉木先生は皮膚科専門医として皮膚科の分野に漢方と西洋医学の薬を併用して処方し、効果を挙げているのだそう。
知っているようで知らなかった「漢方のこと」を教えてもらいました。
漢方の基礎理論「陰陽」と「虚実」とは
–漢方ではおおまかに人の状態を4パターンに分けて診ていきます。
この状態のことを「証」と呼び、「陽実証」「陰虚証」など分類していきます。ただし、この「証」は変化しない固定的なものではありません。
「陰」と「陽」は病気の状態。たとえば、高齢者では抗原抗体反応が弱って、腎盂腎炎にかかっているにもかかわらず、あまり熱が出ないことがあります。これが漢方でいう「陰」の状態です。
いっぽう、「虚」と「実」はもともとの体質です。「虚」「実」は、いわば基礎体力や抵抗力の有無のこと。風邪をひくと熱がぱーっとでて1日で治るという人がいますが、これは「実」。漢方では胃腸を重要視しており、人間の免疫のすべての根源が胃腸だと考えます。胃腸が強いと「実証」、弱いと「虚証」です。
例を挙げると、子どもは典型的な「実証」です。逆に、何かあるとすぐ食べられなくなるタイプは「虚証」で、とにかく弱く、いちど病気すると治癒まで長くかかります。そういう「虚証」の人には胃腸を丈夫にするような人参湯などを使うと元気になっていきます。
では「陽の虚」って何なんだ、矛盾すると思いますが、「陽証」ですから新陳代謝は活発。だが、どこか弱い、乳幼児や妊婦が当てはまります。身体に弱いところがあり、暑がりで新陳代謝はいいけれど免疫が弱いなどの状態です。
もう一つわかりにくい、「陰の実」は、胃腸が弱い高齢者のイメージです。
漢方には病気になったときだけ飲んでもらうものと、日頃から体力の弱い点を補うため、冷え性や体力を補うために飲んでもらうものがあります。みんながみんな、慢性疾患のために飲んでいるわけではありません。発症して急に悪化する病気はすぐ治る場合もありますし、長くかけて悪くなった病気は治癒にも長くかかることが多いと感じます。
「気」「血」「水」は生理学的な要素です
「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の要素は生理学みたいなものです。
「気」は生まれつき、母親から先天の気をもらって生まれてくるもの、また日々生産するもので、仕事などで消費していきます。このバランスが悪いと「気虚」になります。「気虚」は声が小さく、目に力がなく、ぼそぼそ話す人。風邪ひくと治りにくいですね。胃腸を丈夫にする漢方を使います。
「気逆」という、この気が逆流する状態だとカーッとなったりめまいや汗が出たり、パニック障害になったりします。イラっとしたり、動悸がしたりする人。気を引き下げる生薬や処方を使います。
「気鬱」は気がうっ滞する人です。気分がふさぎ込んだり、ストレスで胃が重たくなったりする人。比較すると、「気鬱」のほうが局所的で、あっちこっちなんとなく調子が悪く、張るという訴えが多いです。気を開く生薬を使います。「気逆」のほうが発作的でぽっと出ます。
「血虚」はみんなに関係あります。人は老化してくるとみんな血虚の状態になるからです。閉経すると皆「血虚」になり、髪の毛がぱさぱさになります。「血虚」だと月経が薄くなったり、不眠にもなります。漢方では、肝臓に肝があり、そこが感情をコントロールしていると考えられているが、そこに十分な血(けつ)が回らないと不眠になるのです。
「瘀血」の状態ではメンタルの異常も現れます。血の流れが悪くなり、微小循環障害に伴うひとつの症状と考えられます。目の下がどす黒くなったり、下着の当たる部分が黒くなる人にも多いです。
「血虚」の人の下まぶたは白っぽいのですが、「瘀血」の場合は青っぽいのが特徴です。最近運動不足の人が多いですよね、PCで仕事したり夜中までスマホを見たり。男性でも「瘀血」が増えました。
また、年中コンビニでも冷たいものばかり買いますが、人間は自然の状態では体内からは冷やしていないので、中からの冷えに非常に弱いのです。体の中から冷やすのが悪い。夏でも氷が入っているものは飲まないほうがいいです。また、血液をどろどろにする食べ物やストレスも悪いです。
世代によって始まるものもある
「水」はむくみに近いもの。年を取るほど「水毒」の症状が一般化します。
20代30代の、生理がある間は「瘀血」が強いのですが、閉経期に入ると急に「水毒」が始まります。よく、この世代から「膝に水が溜まって痛い」「雨が苦手」という症状が出ますが、「水毒」が多いです。
その後、60代70代になると「血虚」が始まります。70代はみんな「血虚」があります。高齢者はみな体質が似てくるものなのです。
「水毒」は子どもでも結構あり、閉経期以降みんななりますが、西洋医学的に言うとアクアポリン細胞間の水の通りが悪くなる状態。むくんでるけど口は乾く、トイレは近いのに汗は出ないというような水のバランスの悪さが出てきます。耳のリンパが悪いと聞こえやめまいにも症状が出てきます。
「水毒」の人は粘膜も鼻炎になるので鼻がつまりがちで痰も出ます。
その人の状態に合わせ、足りない部分を補うのが漢方
漢方が下、西洋医学の治療が上、というようなことはなく、たとえば免疫抑制剤を飲んでも治らなかった人が、漢方でスパンと治ることがあります。体力をつけて治していくという考え方は西洋医学にはありません。たとえば食が細くか弱い人に、胃そのものを動かす薬はそんなにありません。こういう人は漢方のほうが、胃腸を動かしてくれる力があるので合うでしょう。
また、大人ニキビは、私のクリニックでは漢方しか出しません。本当は1日2回飲むものですが、証があっていると1日1回でもピタリと効くことがあります。
女性の病気は男の3倍治りにくいと漢方医学では言います。やってみると確かにそんな気がします。いちばん簡単なのは子ども。反応が早く、副作用が出ません。アレルギー体質は意外に子どもによく効きますが、胃腸の漢方を使っていくと効果が出ることが多く、おそらく腸内環境も整うのだと思います。
漢方の特徴は、病名投与はしないこと。西洋医学的に同じ診断だとしても、人によってその証は全く違うからです。アトピーはアトピーとして治療するのが西洋医学ですが、その人によって違う状態に合わせるのが漢方なのです。
(談了、抜粋)
この記事は、株式会社ツムラが後援するKampo Academiaでの吉木先生の講演「漢方で肌を健康に美しく」から一部を抜粋、要約しました。
「肌は内臓を映す鏡」といわれており、肌の症状と体内の不調は深く関わっています。したがって、肌だけを診て対処をするだけではなく、根本的な原因を探り当てて、そこを改善させていくことが重要です。
根本的な不調に向き合うことは、自分を正しくケアすることにつながります。また、年齢や環境に応じて体と肌も変化していきます。
“いつもの肌荒れ”とあきらめたり、“たかがかゆみ”とあなどったりせず、肌からのメッセージを見逃さずに適切な治療を受け、しっかり治すことが大切です。
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