どれだけ成功しても満たされない…引退後、イライラと不眠に苦しんだ50代実業家が、涙ながらに吐き出した「本当の気持ち」

2026.09.14 LIFE

「人のちょっとした言動にイラッとしてしまう」「相手にも事情があるとわかっているのに、どうしても許せない」──そんな経験はありませんか?

心理学をベースに、経営者やトップアスリートなど多くの人を支援してきたメンタルコーチ・平本あきお氏は、目の前の相手への怒りの奥には、過去の体験から生まれた感情が隠れていることが少なくないと語ります。

本記事では、平本氏の著書から、怒りの裏にある本当の気持ちと、それに向き合うことで見えてくる心の変化について紹介します。

※本記事は書籍『感情は全部出し切ったほうがいい つい、自分の気持ちを我慢しすぎてしまう人のためのメンタルスキル』(平本あきお:著/日本実業出版社)から一部抜粋・編集したものです。

 

上司にイラッとする本当の理由は「昔のあの人」にあった

カウンセリングやコーチングをしていると、目の前にある今の怒りや不満だけでなく、もっとずっと昔の感情―ときには、幼少期までさかのぼる怒りや傷つきを抱えている人が多いことに気づかされます。

なかでも多いのが、父親や母親に対する葛藤です。目の前の上司やパートナーの姿に、過去の父や母、教師、部活のコーチなど、幼少期に強い影響を受けた人の面影が無意識のうちに重なっていることが多いのです。

だから、「今の上司」への怒りなのに、心のなかでは「昔の父親」と向き合っている、ということが起きます。

そうなると、頭では「この上司にも事情がある」や「この人も悪気があって言っているわけではない」などと理解できていても、感情のほうが先に反応してしまいます。

イラッとする。反発したくなる。つい、言い返さずにはいられなくなる。

これらは、今、目の前の出来事に反応しているというより、過去に味わったつらさや怖さが無意識のうちに重なって、今の出来事としてよみがえってしまっているのです。

 

成功しても消えなかった「心のモヤモヤ」

ここでAさんの話を紹介します。

Aさんは、ある業界で起業し、成功を収めた実業家です。若いころはがむしゃらに働き、社員にも無理をさせて、事業を拡大してきました。

50代になり、ビジネスの最前線で闘い続けることに限界を感じたAさんは、会社を若い世代に売却し、自らは一線を退きます。

ところが、いざ退いてみると、いつまでも自分が創業した会社のことが気になり、つい口を出してしまいます。

自分がこれから何をしたいのかも見つからず、毎日どこか落ち着きません。イライラが募り、夜もよく眠れない――。そんな状態が続き、私のもとにセッションを受けに来られました。

ただ、このAさん、最初は強気でピリピリして、あまり協力的に質問に答えようとしてくれない。

そのようななか、私はAさんに次のように問いかけました。

「やりたいことがわからないとおっしゃっていますが、子ども時代に夢中になったことや、楽しいと感じたことはありませんか?」

Aさんは即座に言いました。

「そんなの、いっさいないです」

さらに話を聞いていくと、彼は幼少のころから父親に否定やダメ出しばかりされて育ったため、楽しいと感じることなどなかったと言います。

かけっこで1位になっても否定され、2位なら、もっと否定される。志望校に合格しても、一流大学に入っても、大企業に就職しても、ダメ出し。起業して成功しても、やはりダメ出し――。

人生のどの場面でも、「父親に認められた」という感覚を持てなかったのです。

「もしかすると、お父さんに認められたくて、ずっとがんばってこられたのではないですか?」

私がそう聞くと、Aさんはそっけなく答えました。

「別に。そんなの関係ないですよ」

こうした強気な受け答えにも、父親への感情が影響しているのだろうと感じつつ、まずはAさんの眠れるようになりたいという要望に応え、リラックスして眠るための瞑想法を学んでもらいました。

もともとセッションは一度きりの予定だったので、本来はここで終わるはずでした。ところが、数日後、Aさんから思いがけない連絡がありました。

「おかげさまで、瞑想でちゃんと眠れるようになりました。それで少し落ち着いたら、この前、平本さんが言っていたことがすごく気になってきたんです。たしかに私は、オヤジに認められたくて生きてきたのかもしれません。がんばり続けないと、自分には価値なんてないと思っていました」

Aさんは、父親に対する感情こそが、自分のイライラや憂鬱の原因ではないかと考えるようになり、さらに深いセッションを希望されたのです。

そこで、Aさんに感情を出し切るワークをしてもらいました。

目の前にかつての父親がいると想定して、Aさんに言いたいことをすべて枕を叩きながら吐き出してもらいます。

はじめは口の重かったAさんですが、少しずつ恨み節が出てきます。

「ずっと俺はがんばってきた。なのに、オヤジはなんで認めてくれないんだよ!」

「何をやっても、否定ばかり……」

言葉が増えるにつれて、いつもの強気な態度は消え失せ、途中からは子どものように泣きじゃくりながら、Aさんは感情を吐き続けました。

「俺がどれだけ一生懸命やってきたと思ってるんだ!」

「ふざけるな! あのとき俺がどんなにつらかったか、何にも知らないくせに!」

「俺は、どうすればよかったんだよ!」

そして怒りを出し切ったAさんに残ったのは、深い悲しみでした。

「本当は、オヤジに愛されたかった……」

「オヤジの息子として認めてもらいたかった……」

自分の感情を出し切ってはじめて相手の立場に立つことができます。

父親の目線に立ってみると、「おまえのためを思ってやっていたが、そんなふうに受け取っていたとは知らなかった。すまなかった」という感覚が自然と湧き、「オレもまだ未熟だったこと」や「オレもまた、厳しい環境で育ってきた」など、Aさんから父親の口調で言葉があふれ出てきました。

その気づきが生まれたとき、Aさんは「もう、この人に振り回される人生は終わりにしよう」と、心の底から実感するようになりました。

 

感情を出し切ると、本当の気持ちが見えてくる

このAさんのように、厳しい親に認められたい一心でがむしゃらに努力を重ね、成功しても、心のどこかにいつもむなしさが残っている人がいます。

「成果を出し続けない自分には価値がない」と思いこんで、自分を追いこみ続けているため、少しでも自分を否定されたように感じると、すぐに怒りのスイッチが入ってしまうのです。

私はこれまで、長年カウンセリングやコーチングの現場に臨みながら、「相手の立場に立って、相手の事情をきちんと認めつつ、自分の言いたいことも伝えていきましょう」という話を、くり返しお伝えしてきました。

この考え方そのものは、多くの方がすぐに理解されます。「なるほど、その通りですね」と、うなずいてくださる方がほとんどです。

でも、いざやってみようとすると、「相手の立場に立つ」というところで足が止まってしまう人が少なくありません。

頭では理解できる。でも、感情がどうしても追いついてこない。「わかろうとはしているけれど、どうしても納得できない」という感覚に引っかかってしまうのです。

ただ、感情を全部出し切ると、あれほど強気でいつもピリピリしていたAさんも、おだやかな表情になり、こう言って帰っていきました。

「ずっと父に言えなかったことは、もう解消できました。これからは、自分の生きたい人生を生きていきます」

自分の怒りをしっかり出し切った人は、例外なく自分の本心にたどり着きます。その本心は、「認められたい」「愛されたかった」「自分はよくがんばってきた」という、とてもポジティブな思いです。

怒りを出し切ったあと、怒りのまま終わった人を私は1人も知りません。

 

ここまでの記事では、「怒り」の奥にある「本当の気持ち」に向き合う大切さについて紹介しました。つづく関連記事では、幼少期の体験が大人の感情や子育てにどう影響するのかをお届けします。
つづき>>富裕層から一転、全財産を失い人生をやり直した40代男性。愛する家族と幸せになるはずが…妻との離婚を招いた「意外な原因」とは

 

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著者: 平本あきお
エグゼクティブ・メンタルコーチ。カウンセリング、コーチング、ZONEフローの専門家。米国アドラー大学院修士、東京大学大学院修士(臨床心理)。偏差値37から中央大学を卒業後、心理カウンセラー、心理学講師を経て、1995年の阪神・淡路大震災で両親を亡くしたことを機に渡米。小学校、州立刑務所、精神科デイケアなどにコーチングを導入する。2001年に帰国・起業。現在は上場企業経営者・役員、トップアスリート、アーティスト、インフルエンサーなどのエグゼクティブコーチを務める。オリンピック金メダリスト、メジャーリーガー、サッカー日本代表、プロ野球監督、俳優、経営者など、多くのハイパフォーマーを26年間サポート。また、ソフトバンク、本田技研工業、三菱UFJ銀行、富士通など200社以上・12万人に、リーダーシップや管理職、キャリア研修を実施。著書に『すぐやるコツすぐやめるコツで全部うまくいく!』、共著に『アドラー心理学×幸福学でつかむ! 幸せに生きる方法』などがある。

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