この夫、必要なのかな。相談すれば無視、自分で決めれば「勝手にするな」…何をしても妻が悪者になる夫婦の会話

2026.09.12 LOVE

モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。「働く女性」は、モラハラやDVをする夫から簡単に逃げられるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。さまざまな事情から、支配的な配偶者との結婚生活を続けている方は少なくありません。オトナサローネ世代のモラハラ被害にフォーカスした本連載、今回は、モラハラ夫の「論破」に支配されてきたTさんのお話です。

※本記事は、相談者様への敬意と守秘義務に十分配慮したうえで、モデルケースとして編集・再構成しお届けしています。特定の人物や事例を示すものではありません。

【実録・カウンセラーから見たモラハラ】#119 前編

夫とは会話が成立しない。反論、論破、そればかり

結婚8年目のTさんは、夫に何かを相談するたびに反論されることに、すっかり疲れていました。ただ相談しているだけなのに、いつの間にか話がすり替わり、最後にはTさんが悪いことになっている。そんなことが何度も繰り返されていたのです。

 

モラハラ夫の「論破」は、問題を解決するための話し合いとは違います。相手が何を伝えようとしているのかを考えるよりも、「自分が責められた」「自分が負けそうだ」と感じた瞬間に、相手を言い負かすことへ意識が向きます。

そして、自分に都合が悪くなると論点をずらし、相手の欠点を持ち出し、ときには黙り込む。その目的は、「自分は悪くない」という立場を守り、相手にそれ以上何も言わせないことなのです。

 

Tさん夫婦が暮らしているのは、Tさんが親から譲り受けた、築35年の一軒家です。夫はそのことをありがたいと思っている様子もなく、当然のように暮らしていました。築35年も経つと、床や壁紙も古くなり、そろそろリフォームを考えなければならない時期です。何度言っても相談に乗ってくれない夫なので、Tさんは業者から資料を取り寄せ、費用の目安まで調べたうえで夫に相談しました。

 

「床も壁紙も貼り直したほうがいいと思うんだけど、一緒に考えてくれない?」

夫は、見積もりを見ることもなく言いました。

「そんな金、ないだろ」

「でも、もう35年も経つんだから。今のフローリングの上から貼るだけでいいものもあるんだって」

 

夫は何も答えず、スマートフォンをいじり続けます。

「全部やるって決めたわけじゃないよ。どのくらいならできるか、一緒に考えたいの」

 

それでも夫の返事はありません。これは、モラハラに見られる「会話を拒絶する」行動のひとつです。話しかけられても、答えること自体を拒むのです。話し合いでは、お互いが同じ立場で意見を出し合うことが大切です。けれど、一方が黙り込んでしまえば、もう一方はどうすることもできません。

 

そして何よりつらいのは、「私の話なんて、聞く価値もないと思われているのかもしれない」と、悲しくなってしまうことです。ただ一緒に考えてほしかっただけなのに、返事さえしてもらえない。Tさんには、夫から無視された悲しさだけが残りました。

 

話をすりかえて、私を責める夫

数日後、Tさんがもう一度リフォームの話をすると、夫はまったく別の話を持ち出しました。

「そういえば、5年前にIHに変えたときも、俺には一言もなかったよな」

「あのときも相談したけど、答えてくれなかったんじゃない」

「いや、どうせお前はさ、俺の言うことを聞く気がないんだよ。”自分の言うことが一番正しい”と思っているんだろう!」

 

リフォームについて相談していたはずなのに、いつの間にか「Tさんが勝手な人間だから悪い」という話にすり替わっています。これが、論点ずらしです。

 

自分に不利なことが出てくると、過去の別件を持ち出して相手を責める。責められた側が過去のことを説明しているうちに、本来話していた問題はどこかへ消えてしまいます。

 

それでもTさんは、家のことなのだから夫婦で相談して決めたいと思っていました。業者から床材と壁紙の見本を借りてくると、夫の前に並べました。

「床は、この色とこっちだったらどっちがいい?」

「どっちでもいい」

「壁紙は?」

「そんなの俺に聞くなよ」

「じゃあ、私が決めていいの?」

「勝手にすれば」

 

そのあとは夫は無言になり、スマートフォンをいじりはじめました。「これ以上話しかけたら、不機嫌になるかも」そう思ったTさんは、夫の「勝手にすれば」という言葉に従い、自分で見積もりを業者に依頼することにしました。

 

「GO」と「STOP」を同時に命令する「ダブルバインド」

ところが、Tさんが業者に見積もりを依頼したことを伝えると、夫は不機嫌になりました。

「勝手に話を進めるなよ」

「だって、何回聞いても何も決めてくれないじゃない」

「だからって、勝手に業者を呼んでいいって話じゃないだろ」

「じゃあ、あなたはどうしたいの?」

 

夫は答えません。また、スマートフォンをいじり始めました。夫に聞けば答えてくれない。それなら自分で決めようとすると、それも怒られる。これでは、Tさんはどうしたらいいのかわかりません。

 

こうして、どちらを選んでも責められてしまう状態が「ダブルバインド」です。

何度もこんなことが続けば、「じゃあ、私はどうすればいいの?」と思うようになり、何をするにも夫の顔色をうかがうようになります。

 

Tさんは、本当はただ、夫婦で一緒に考えて決めたかったのです。でもTさんは、夫に相談することをやめました。もう夫に相談していても何も決まらない。それなら、自分で決めようと思ったのです。

本編では、家のリフォームについて夫に相談しても無視され、自分で決めようとすれば「勝手に話を進めるな」と責められる、Tさん夫婦の“ダブルバインド”についてお届けしました。

▶▶「夫って、私にとって必要なのかな」相談するのをやめた妻が気づいた、夫がいなくても困らない現実

では、夫に相談することをやめ、自分の判断でリフォームを進めたTさんが、その経験をきっかけに夫婦関係そのものを見つめ直していくまでについてお届けします。

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