映画祭でも話題! 村上龍 原作の『ピアッシング』がついに日本公開!
これまで海外で映画化された日本文学の作家には、三島由紀夫(「午後の曳航」、「肉体の学校」)、谷崎潤一郎(「鍵」、「卍」(まんじ))、川端康成(「美しさと哀しみと」、「眠れる美女」)、遠藤周作(「沈黙」)等があり、最近では村上春樹の「納屋を焼く」が『バーニング 劇場版』として公開されたことが記憶に新しい。
それらの作家が、多くの海外クリエイターに影響を与えてきた中で、本作『ピアッシング』が村上龍にとって初の海外映画化作品であると聞いて驚く方がいるかも知れない。しかし映像化はされなかったものの、その影響を強く受けていたひとりが本作品のニコラス・ペッシェ監督である。
理性が崩壊するスリリングな物語がスクリーンを支配します
ペッシェ監督は、2016年のファンタスティック映画祭で作品賞をはじめ5部門を受賞したデビュー作『The Eyes of My Mother』(日本未公開)が高い評価を受け、今回が2度目の監督作品となる。
彼は村上龍原作の三池崇史監督作品『オーディション』の大ファンだったと語る通り、もともと日本のカルチャーを敬愛。本作品でも劇中のインテリアに荒木経惟の<若い芸者がスイカを食べている写真>を使うなど、日本のアートを随所に登場させている。
また次回作として日本のホラー映画『呪怨』のハリウッド版リブートである『Grudge』にも取り組んでいる。
ラスト1秒まで緊迫感が持続する衝撃の「サイコスリラー」
『ピアッシング』は愛する者にアイスピックを向けるという衝撃的なシーンで幕を開け、ラストの1秒まで緊迫感が持続するサイコスリラーである。殺人衝動を持つ男と、自殺願望を持つ女が出会った一晩の物語は、過激でセクシャルという言葉だけでは到底説明しきれない展開で観る者を挑発する。
これまでの「サイコスリラー」というジャンルが陳腐に思えるほど、濃密でスリリングな時間がスクリーンを支配。2018年のサンダンス映画祭で絶賛され、スイスのヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭では国際批評家賞、未来イメージ賞の2部門に輝いている。
主人公のひとりは、自分の幼い娘をアイスピックで刺したいという衝動に駆られる男。彼はその衝動を抑えるため、SM嬢をホテルに呼び出して殺害する計画を立てる。しかし計画は滑稽なほど思い通りにはいかない。
もうひとりの主人公――ホテルにやってきた女は、いきなり自分自身を傷つけて倒れこんでしまう。これはリアルな悪夢なのか、シュールな現実なのか? 刃を外に向ける者と内に向ける者は、磁石のプラスとマイナスのように交わり、やがて共鳴していくのだろうか…。
一度観たら忘れられない、オリジナリティあふれる世界観も魅力的
主人公リード役のクリストファー・アボットは、近年では『ファースト・マン』に出演。端整な顔立ちと静かな表情の中に、抑えきれない狂気を混在させた演技を披露している。数々のインディペンデント映画で注目を集めているアボットにとって、本作が代表作のひとつになることは間違いない。
もうひとりの主人公ジャッキーを演じるのは『アリス・イン・ワンダーランド』シリーズのミア・ワシコウスカ。本人も「今までに演じたことのないキャラクター」と語る役柄に挑戦。些細なことで壊れてしまいそうな女性の危うさと美しさと孤独を、指先にまで神経を張り巡らせて演じている姿は、女優としての新境地を感じさせる。
物語だけでなく、無機質でスタイリッシュ、それでいて現実との境界線が曖昧な高層マンションの映像など、一度観たら忘れられない不思議でオリジナリティあふれる世界観も大きな魅力となっている。村上龍本人も「原作者として120%満足しています」と語っている映画『ピアッシング』。理性が崩壊する物語の快感に身を委ねてみては?
映画『ピアッシング』
6月28日(金)渋谷シネクイントほか、全国ロードショー( PG12)
配給: パルコ
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取材・文/森田東悟