仕事も家事も「やってもやっても評価されない」。その理由は?

【妖精】これでよかったのね

編集者の友人S子がある物書きTと仕事をした時のこと。

 

それはそれは細かな注文をつけられて

やり直すという作業が半年も続き

S子は会うたびに

「心が折れそう」とつぶやき

見るたびに白髪が増えていった。

 

老舗の専門雑誌の副編集長の経歴を持つS子が

それほどストレスを訴えるのは珍しいことだった。

 

卒倒寸前でなんとかやり遂げたあと

S子が「この仕事にはどういう意味があったのか」

という質問とともに引いたのは

「妖精」のカードだった。

 

このカードのキーワードのひとつは

<手助け>だ。

 

カードの詩文には

<いつのまにかとなりにいて

昨日いなくなった妖精

もう大丈夫

そう言い残して>

とある。

 

「もの作りや表現者に見えないものの手助けがある。

または手助けする仕事につく。」

と解説は言う。

 

S子はしみじみカードを眺めながら

「Tさんへの手助けを全うしたという意味だね、これは。」

と言った。

 

T氏は思い入れが激しい人で

完璧主義を自分にも他人にも要求するタイプらしかった。

 

理不尽とも思える要求を聞きながら

ときに自分の仕事の適性に疑問さえ抱きつつ

辛抱強いS子はどれだけの許容量をもって

T氏のパワーを受け止めたことだろう。

 

心底ほっとしたような声で

「『もう大丈夫』ってね

これはTさんと私へのメッセージにしか思えない。」

と、S子は言った。

 

「これでよかったのね。」

 

 

覚 和歌子

©FUKAHORI mizuho

詩人・作詞家

山梨県生れ/千葉県育ち。早大一文卒。平原綾香、smap、新垣勉、夏川りみ、クミコ、ムーンライダーズなどの作詞で、多くの作品をCD化。NHK全国学校音楽コンクール課題曲、校歌、合唱組曲等の作詞なども多く手がける。01年『千と千尋の神隠し』主題歌『いつも何度でも(曲・歌唱/木村弓)』の作詞でレコード大賞金賞。詩集『ゼロになるからだ』(徳間書店)、『はじまりはひとつのことば』(港の人)、『2馬力』(ナナロク社)など。エッセイ、絵本、翻訳など著作多数。映画監督、脚本、舞台演出、朗読、自らのバンドを率いてのソロライブ、米国ミドルベリー大学日本語学特別講師など。詩作を軸足にマルチな活動を展開。

 

***

 

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