いとうあさこに「できればブスでいてほしかった」人たちって誰だ

2020.12.11 LIFE

今、一番つぶしがきくのは、お笑い芸人ではないでしょうか。

バラエティー番組はもちろん、ワイドショーのコメンテイター、舞台、朝ドラに出演しています。文筆業の世界に進出する芸人も多く、芥川賞作家となった又吉直樹を筆頭に、ヒット作を多数生み出しています。渡辺直美にいたっては、世界進出も遂げています。

 

女優より、オンナ芸人のほうが重宝される時代がやってきた

ひと昔前は職業のテリトリー意識が強く、芸人がドラマに出たりすると文句を言う人もいたかもしれませんが、今やそんなことを言う人はいない。それは、一般人の自意識が変わってきたからではないかと思うのです。

 

私が若かったころ、芸能人というのは「憧れて、マネする対象」でした。女優・藤原紀香の全盛期、あのウルフカットをしてもらうために2か月待ちで、紀香御用達の美容師さんに鬼のように電話したOLを私はたくさん知っています。髪型以外にも、有名人の〇〇さんが使っていると言えば、物は売れたことでしょう。

 

しかし、バブルがはじけてから日本経済は芳しくない。お金がなければ人は生きていけませんから、人々はそうそう浮かれてばかりもいられない。こうなると、テレビでも「自分に近い人」を見たくなるのではないでしょうか。紀香を見て憧れても、紀香になれないことをたいていの人は知っている。それなら、自分に近い(と思える)芸人にシンパシーを抱き、彼らを見たいと思う人がふえてもおかしくない気はします。

 

ブスが嫌いなのは、オトコなのかオンナなのか?

お笑い芸人の地位は向上していますが、一方でオンナ芸人は結構難しい局面に立っているのではないでしょうか。

 

少し前のオンナ芸人と言えば、ブス、モテないが二大ネタでウケていた。しかし、みんながみんなそれをやると食傷気味になる上に、2017年の#Me too運動以降、フェミニズムが盛り上がり、女性をルックスで判断することに対して疑問の声が上がってきています。

 

なので、今ではすっかりお笑い芸人のブスいじりも見られなくなりましたが、実はこれがオンナ芸人の首をしめているのではないかと思うのです。芸人がネタ番組に出演し、その時のパフォーマンスで判断されるなら、ブスでも美人でも関係ない。

 

しかし、現在のところ、ネタ番組はそう多くなく、バラエティー番組で要求されるのはキャラとフリートークの力。短時間でウケをとるのに、ブスとかモテないというのは格好のネタだったわけですが、もうそれは使えない。となると、オンナ芸人はそれに代わる、人とかぶらない何かを生み出さなくてはならないわけで、それはそう簡単ではないでしょう。

 

「ブスでいてほしい」と思っている人たちの腹の底

もう一つ、オンナ芸人が直面している難しさ、それはオンナ芸人にブスとは言わないものの、ブスでいてほしい人がいるということ。

 

おしゃれに縁がなかった芸人が目覚めたり、ダイエットに成功したりすると、女性誌が取り上げるでしょう。それを見た一般人は「すごい」とほめそやします。しかし、ある程度の時間が経つと、必ず「前よりはきれいになったけど、ブスだよね」「調子に乗ってる」という声が出てきます。

 

「痩せました」「おしゃれをするのが楽しくなりました」は、イコール「きれいになりました」ではないのに、なぜ「前よりはきれいになったけど、ブスだよね」と言われてしまうのか。それが「オンナのブス嫌い」だと思うのです。

 

子どもの頃から「女子だけ」外見をあれこれ言われる文化の中で育ち、テレビをつければ、オンナ芸人はブスだのモテないと笑われている。年頃になれば、美人しかできない高時給のバイトが存在することを知るでしょうし、就職するにも美人のほうが有利です。こうなると、美は経済格差にもつながっていきます。

 

これらの序列は、権力を握っているオトコはんの「若くてきれいなオンナをそばにおきたい、抱きたい」という欲望をベースに作られています。単なる下半身マターなわけです。

 

しかし、この序列を「正しい」と信じこまされてしまった女性は40代50代になっても「ブスは無価値だ」「ブスが調子に乗ってる」という攻撃的な言い方をするのだと思います。オトナがそう信じていれば、子どももその価値観を踏襲しますから、「女のブス嫌い」は永遠に終わらないのではないでしょうか。

見た目に気を使っている人イコール色気がある人なのか?

一般人から親しまれ、時に軽く見られ、けれど「調子にのってる」とか「オンナを出しすぎてる」と思われない。これらを満たすのは、本当に難しいことだと思います。

 

が、やはり売れてる人は違う。12月2日配信のmi-molletに登場したいとうあさこ。そのあたりをやすやすとクリアしています。あさこサンは「ディファインメイクで自分の顔を好きになる」(講談社)の著者で、メイクアップアーティスト、水野未知子センセイにメイクをしてもらうという企画に参加します。

 

普段はノーメイクというあさこサンですが、ディファインメイクをすると、若作りしているわけではないのに、みずみずしく、自然ですが力強く、どこか色っぽい印象を受けます。あさこサンは「美しいんだから、もっとそれを見せつけたほうがいい」という水野センセイの意見に対し、

 

「そういう感覚がないんです。私は、綺麗だの可愛いだの、そういう世界にいない。誰かが笑ってくれるのがいちばんの喜びだから、どれだけ受けるか、リアクションはどうかをいつもうかがっていて。だから……、ああ、もう恥ずかしい!」と答えていました。それでは、いわゆる見た目に興味がないのかというとそうでもなく、番組で使う水着や下着は下品に見える一線を超えないように、シビアに試着して決めているそうです。

 

他人目線ではなく、自分で判断基準を持っているかどうか

他人や自分を否定も卑下もせず、自分の好きなものに集中して、余計なものには首をつっこまない。オトコはんの評価は違うのかもしれませんが、オトナの品や色気というのは、結局のところ、姿形だけでなく、自分のありかたに対する基準を持っているか否かなのかもしれないと思わされたのでした。

 

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