「今年、なりたい自分になれた」。パン屋のおかみさんがたどり着いた「もう一つの仕事」とは

2021.12.22 WORK

お小遣い稼ぎに、定年後の準備に、スキルアップ。副業をする目的も人それぞれだが、自己実現や、やりがいのため、という人も存在する。函館在住の苧坂(うさか)香生里さん(43歳)は、複業という形でアイデンティティの補完をする一人だ。

 

苧坂さんは、東京でWebデザイナーとして企業勤めをしていた頃にパン職人の夫と出会い、結婚。出産をきっかけに、夫の故郷である函館に二人で移住。自家製天然酵母のパン工房「tombolo」を開業し、3人の子供に恵まれた。

「パン屋のおかみさん」は彼女の一つの顔だ。日中の数時間、店で夫を手伝う。一方、子育てが一段落した6年前から、個人事業主としてウェブデザイナーの仕事を再開した。知人の紹介経由で函館ローカルの企業のホームページ制作・運用の相談に乗る傍ら、今年からはオンラインの副業マッチングサービスも活用し、東京と石川県の企業でも週に10時間程度、ウェブデザイナーとして「リモート副業」もしている。そんな苧坂さんに、複業を通して実現する「自分らしい生き方」について、聞いた。

 

「私個人」としてやりたいことはいったい何なのか

開業当初の苧坂さん/夫撮影

苧坂さんが個人事業主としてウェブデザインの仕事を再開したのは、函館に移住して、5年ほど経った頃だった。函館で暮らし始めた時は一人目の子供が生まれたばかりで、お店も子育ても必死。まもなく二人目の子供も授かった。5年くらいしてようやく落ち着いてきた頃、「自分が自分として、苧坂香生里としてやりたいことはなんなのだろう」と考えたと振り返る。

 

現在43歳の苧坂さんのデザインの仕事の原体験となったのは、23歳の頃、「音楽スタジオのロゴを作ってほしい」と頼まれたことだったそう。依頼者がベーシストだったことから、ベースをモチーフにロゴを作成したところ、期待以上だったと興奮してもらった記憶がある。

 

苧坂さんは、「ロゴは、仮の自分のようなもの」と考える。だからこそ「その人にフィットするものを作ってあげたくて、考えているとアドレナリンが出て、この仕事は細く長くでも続けたい」。

 

「パン屋のおかみさん」だけでは、完全な自分になれない

それでも、2016年に、個人事業主として、家業のかたわらウェブデザインの仕事を再開した時には、「『パン屋のおかみさんで十分じゃない』は、すごくたくさん言われた言葉でした」と振り返る。でも、それだけだと完全なる自分じゃない──もの作りが好きで、ずっと残っていくようなホームページの制作にまた携わりたい。自分が作ったもので、喜んでもらいたい・・・そんな気持ちを追いかけ、ホームページを作成し、メンテナンスするサービスを個人で開始した。

 

函館は小さな町なので、人づたいの紹介で仕事が舞い込み、スタートは順調に見えたと話します。しかし、そんななか世界を襲ったのが、新型コロナウイルスの流行だった。「〇〇さんが、会いたいって」から、いつも仕事が生まれていたものの、外出もままならず、営業活動の一切が止まってしまったという。

 

このまま、廃業という形になるのだろうか──。不安を抱え、デザイナーとしての活路を探して大手の求人媒体に登録もしてみたが、苧坂さんの希望する、在宅勤務を前提としたフレキシブルな働き方の求人を見つけるのは困難だったという。「フルリモートOK」と書かれていても、行こうと思えば出社できる距離の場所に住んでいることが前提で、希望を正直に話すと、「そういう仕事は・・・ないですね・・・」と担当者に言われてしまったこともあったそう。

 

「リモート副業」だからできた。函館から広がる可能性

苧坂さんが暮らす函館の街並み

そんななか、ウェブデザイン業務の新たな受注経路として活用をはじめたのが、副業マッチングサービスの「シューマツワーカー」だった。今では、石川県と東京の広告代理店2社で、週に10時程度、「リモート副業」をしている。

 

「副業先では、マーケター・デイレクターなどとチームで働くことから、マーケティングの仕事の勉強にもなっています。slackみたいな新しいチャットツールに触れる機会にもなるのも面白いですね。『リモート副業』は、いつもと違う景色が見られることもあって、自分の仕事のポートフォリオの一つとして、これからも長く続けていきたいと思っています」

 

夫と営む天然酵母のパン工房は、2021年に、夫婦の夢だった薪窯のオーブンを導入。2022年には、北海道産の小麦・水・塩のみで作った天然酵母のパンを薪窯で焼く工房が、本格稼働する。パン屋のおかみさん、函館の街に根づいて行うウェブデザインの仕事、そして、東京や他県でのリモート副業。行動力があれば、いつも、どこからでも、「なりたい自分になる」ための一歩を踏み出すことができる例かもしれない。

 

著者情報

株式会社シューマツワーカーの広報 上原里菜

副業マッチングサービスの広報・働き方分野のライターとして、パラレルキャリアを通した人生の可能性を啓蒙。月刊人事マネジメントやマイナビニュースなどの複数媒体で、働き方やプロ人材を活用した企業の課題解決法の連載を持つ。自身も複業家として活動中。

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