「最初は家で作ってました」札幌の石けん専門店が成功をつかむまでの大苦労とは
SNSもない時代からのネットショップ運営
―まずは「サボンデシエスタ」創業のきっかけを教えてください。
私自身がもともと肌が弱く、学生時代から趣味で石けんを作っていました。私にとってこんなにいいものなのだから、きっと同じような悩みのある人にもいいものであるに違いない。これをブランドとして事業化したい思いが芽生えて、16年前にお店を始めました。
敏感肌の方が使いやすいような石けんを中心としたスキンケアアイテムをご提案しつつ、製品の中に地元北海道の自然素材を使うことで、北海道の魅力を伝えられればという思いで立ち上げたブランドです。
―自宅でも石けんは作れるんですね。
うちの石けんはコールドプロセスという昔ながらの製法で、自宅で作ることも可能です。
ただ、製品として品質を高めるには厳密な温度管理が必要だったり、原料を入れるタイミングも大事だったりと職人技的な工程もけっこう多いんですよね。機械だけには頼れない細かなポイントもあるので、工房では人の手によるチェックを入れながら製造しています。
―附柴さんは今も製造に入られているのでしょうか?
以前は作っていましたけど、近頃は製品の処方を考えたり品質チェックをする役割がメインになってます。製造スタッフたちも10年以上のベテランばかりなので、むしろ私より上手かもしれません。みんないつも「自分の子どもをお嫁に出すような気持ちで作っている」と言ってますね。
―すごく愛情を持って作られているんですね…! 創業当時、実店舗ではなくネットショップでの販売を始めたのはなぜだったのでしょうか?
当時は作るのも売るのも私一人でしたから、むしろこうして今のように実店舗を持つことは全然考えてなかったんですよね。学生時代に自分でホームページを作っていて、そこでいろんな人とやりとりを重ねるうちにオンラインの可能性を肌で感じることができていたのも大きな理由です。これからの時代はオンラインを使ったほうが、より広く発信できると思ったのがきっかけです。
―実は「サボンデシエスタ」が利用するネットショップサービス「カラーミーショップ」のサービス開始も同じ2005年です。
あのころは今のようにネットショップ作成サービスも多くはなかったですよね。
当時から私がやりたかったのは大手モールでの勝負ではなく、やりたいことを自由に表現できる独自のネットショップでした。カラーミーはショップデザインの自由度も高いですし、サービス内容もすごくよさそうで。私が始めた頃は登録店舗数もまだ3ケタくらいだった気がしますけど……どんどん利用者数が増えていったのがおもしろかったです、共に歩んでいるみたいで。
―開設当初はSNSもなかったですが、集客面での苦労はありませんでしたか。
ちょうどブログブームが始まった時期だったんですよね。今までのホームページとは違い、タグ打ちも不要で気軽に情報発信できるようになっていったので、むしろすごく楽しかったです。ネットショップをやってる人が多くなかったので、見つけてもらいやすい時期だったと思います。
―ネットショップが軌道に乗ったと感じるまで、オープンからどのくらいの時間がかかりましたか?
1年くらいですね。新聞やテレビで紹介していただいたことでシエスタを知ってくださる方が増えてきて。その方たちがネットショップを見に来てくださったように思います。
最初の頃は「47都道府県すべてにお客さまを作りたい!」と思って、新しい県の方から注文があるたびに都道府県リストを塗りつぶしてたんですよ。最後の県のお客さまから注文をいただいたときはすごく嬉しかったです。「全都道府県コンプリートしました!」ってお礼のメールを送ったのを覚えてます。
―全国にお客さまができるのは嬉しいですね! 16年間のネットショップ運営で特に大きかった変化は何でしょうか。
開店後の数年間はPCからのご注文が多かったのですが、スマホが普及してからはスマホからのご注文が圧倒的に増えてきました。
―スマホの普及はEC業界を大きく変えましたよね。今日に至るまでに、ネットショップで取り組み続けていることはありますか。
日々コツコツと情報発信を続けることですね。たとえば季節のお肌や気持ちに寄り添いながら、商品をブログで丁寧に紹介したりとか……とにかくコツコツっていう感じです。
パッケージまで徹底してこだわる「季節の限定商品」
―たくさんの商品を展開している中、附柴さんが特に思い入れのある商品はどれですか。
どれか1つのアイテムというより、毎月出している季節の限定商品にすごく思い入れがあります。
―月替りの商品は、開発にどれくらいの時間を要するのでしょうか?
石けんはできあがるのに30~40日ほどかかるので、試作を何度か繰り返したり社内で検討を重ねたりしながらじっくりといいものを作るには、だいたい1年くらい必要になります。
たとえば、北海道は少しずつ秋が深まってきて、この時期は少しメンタルが弱まったりするんです。そんなときに気持ちの支えになる香りはどんなものかとか、パッケージはどんな色味がいいだろうとか、1年後の季節や空気感を思い浮かべながら作っています。
―パッケージ、どれも上品でおしゃれですよね。
毎回デザイナーさんに入っていただきながら、すごくこだわって作っています。
ある日、ネットショップのお客さまからとってもかわいいお礼のハガキが届いたんですけど、よく見ると限定石けんのパッケージを丁寧にコラージュしてくださってたんです。
―それは嬉しいですね!
ネットショップって、実店舗のように直接のやりとりがないように思えても、こうして目に見える形でお手紙をくださる方もいるんですよね。パッケージを捨てずに取っておいて、最終的にハガキにして見せてくれたんだと思うと、なおさら嬉しかったです。
後編>>>周りに無視されても「石けん屋になりたい」と発信し続けた。それが勝因
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