「体だけの関係だから」と何度も繰り返す彼女。本当にそう思ってる?【不倫の精算#46】前編

2022.04.15 LOVE

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後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。

不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。

 

仕事の栄誉を手に入れた彼女は、「不倫は遊び」と言い切る

Cさん(45歳)は、若い頃から運動が好きでランニングや家での筋トレを続けており、40代なかばになっても美しいプロポーションを保っていた。

 

すっと伸びた背中に余分な肉のついていない腰回りは、会うたびに羨ましいと思っていた。

そう言うと「継続が大事よ」と茶化すように返すが、彼女が自分の努力に自負を持っていることは堂々とした振る舞いから伝わってきて、言葉の通り継続の重要さがわかるのだった。

 

Cさんは製薬会社に勤めており、ずっと独身を貫いている。

親しいみんなで集まって恋バナになると、常に一歩引いて「楽しそうねえ」と笑うだけなのが印象的だった。

 

責任ある研究職に就き、それこそ若い頃から仕事一筋の面もあった彼女のプライベートを、そういえば詳しくは知らない。

 

そんなCさんが不倫にハマったのは一年前、相手は仕事で取り引きのある会社の既婚者だった。

 

仲のいいメンバーで開いた飲み会の席で、ワイングラスを片手に頬を赤くしたCさんが隣に座り、「あなたはそういう記事を書いているのよね」と言い出し何のことかと思ったら、

 

「あのね、私もいま不倫しているの」

 

と耳打ちされた。

 

驚いて彼女の顔を振り仰ぐと、じんわりと紅が滲んだように血色の良い目元と、きれいにハネたアイラインに囲まれて、熱に潤む瞳とぶつかった。

 

「不倫は遊びでしょ」

 

小声でそう続ける言葉に歌うような響きがあったのを、今でも覚えている。

 

不倫相手との関係は「恋愛」ではない、のか?

「だからさ、不倫相手に本気になるっていうのがわからないのよ」

 

今夜、待ち合わせたのはCさんのお気に入りのバルだった。

 

仕事帰りの彼女はゆるく束ねた髪に麻のセットアップを着ていて、ジャケットの下の、ブラウスのタックに走る光がきれいだなと酔った頭で見つめていた。

 

「不倫であっても恋愛ですからねえ」

 

炭酸で割った赤ワインが美味しくて、グラスに指を伸ばしながらそう返すと、Cさんは

 

「不倫が恋愛?

そんなわけないじゃない」

 

と呆れたように言って、アヒージョの皿からエビをつまんで口に放った。

 

「でも、みんなそうなりますよ」

「結ばれない相手に本気になっても時間の無駄でしょ」

「私もそう思いますが、みんなそうなりますね」

「遊びと割り切るのが不倫のルールじゃないの」

「そこまで達観していればね。でも、みんなそうなるんですよ」

 

繰り返さないで、と怒られてへらへらと笑いながらワインのグラスを戻すと、Cさんがため息をつくのが聞こえた。

 

「わからないわ。

私、今の彼氏に恋愛感情とか全然ないもの」

 

彼氏ですか、と隣に座る彼女にちらりと目をやると、上気した頬に挑戦的な光をたたえた瞳とぶつかった。

 

「彼氏とはね、好みが合うだけだから」

 

その言葉は、彼女が不倫を打ち明けてくれたときから繰り返し聞かされていた。

 

その「好みが合う」がいつから言い訳の響きを持ち出したのか、ぐらぐらする頭では思い出せなかった。

 

体だけの関係だから、気持ちなんてなくていい…本当に?

Cさんが口にする「好み」とは、ベッドの上でのプレイにあった。

 

行為の中身について、最初は言いづらそうに口ごもっていたが、要約するとSM的なものを彼女は不倫相手と楽しんでいた。

 

「そんな本格的なものじゃないのよ。

め、目隠しとか、あの、手錠とか、そういう軽いやつ」

 

別に内容は無理に話さなくてもいいですよ、と思ったが、Cさんにとっては「SMプレイを求める自分」を知られるのが恥ずかしかったのだろうなと思う。

だからことさらに「簡単なもの」と弁解するが、それが理由で既婚の彼とは肉体関係を持っているわけで、彼と過ごす時間について話すならどうしてもそっちに流れてしまうのだった。

 

SMに偏見はないので行為の内容は本当にどうでもいいのだが、問題はそれを楽しめる相手が既婚者であることで、不倫には変わりなかった。

 

賢くて頭の回転が早く、世の中をいろいろな面から見ることができる彼女が、どうして「好みが合うから」という理由で不倫に走るのか、違和感は消えない。

 

普通の恋愛ではない、リスクばかりが高く最終的に得るものは何もないつながりだと、本人が一番よく理解しているはずだった。

 

Cさんがしつこいくらいに「恋愛感情はない」と言うのは、純粋にプレイを楽しむだけの関係と強調したいからだろうが、「不倫にハマるのはダサい」とも聞こえ、

 

「それなら最初から既婚者を選ばなければいいのに」

 

という言葉を、この一年で何度も飲み込んできた。

 

「不倫は遊び」と豪語するのは「好みが合う既婚の彼」とは本当に情事だけのつながりで、ふたりで食事に行くとかホテル以外の場所で過ごすとか、そんな機会を聞いたことがないのも、彼女が「不倫=恋愛」を否定できる大きな理由だろうなと思った。

 

そんな彼女にちらちらと不穏な言葉が見えるようになったのは、いつからだったのか。

次ページ>>【不倫の精算#46】後編

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