日本が陥る「思考停止」脱するキーワードは仲間と一緒に「拓く場」、具体的に何をするべき?
日本の停滞を招いている真因の一つが、私たち日本人の多くが陥っている「思考停止」にある、というのは、最近よく言われることです。「思考停止」と言っても何も考えていないわけではありません。
思考停止とは、無自覚に置かれている前提を問い直さずに「どうやるか」を考える、ある意味では便利な思考姿勢のことだと私は考えています。
そもそも「思考」とは何を意味しているのでしょうか? その意味するところに思考停止の状態から抜け出すヒントが隠されています。
「考える力」を高めるための2つのキーワード
無自覚に前提(枠)を置いてものごとを処理する、効率的な思考姿勢を私は「枠内思考」と呼んでいます。新しい価値を生み出すためには、「ものごとのそもそもの目的や、持っている意味、もたらす価値」を、前提も含め、すべてに渡って考える思考姿勢である「軸思考」が必要です。
こうした姿勢を持ち続けるというのは、決まった“枠”を前提にした思考に慣れている人にとっては、実は安定を欠いた居心地の悪い状況なのです。だから、まずは、“意味や目的、価値”を考え抜くことの意味を感じられるよう、議論を進化させながら「考える力」を高めていく必要があります。
その際の重要な鍵になるのが、「拓く問い」と「拓く場」という二つのキーワードです。 「拓く問い」というのは、「決まった答えがあるわけではない問い」「記憶や知識に頼るのではなく自分の頭で考えることを必要とする問い」という意味です。例えば、自分は「なぜ働くのか」「会社の中でどういう役割を果たすべきなのか」など、状況次第でさまざまな答えがある問いのことを言っています。
もう一つのキーワードの「拓く場」とは、「シナリオが設定されていない場」のこと。言い換えれば、「仲間とともに“拓く問い”に向き合う場」のことです。この「拓く場」に相対するのが、日本の会社の会議のように、前例踏襲や予定調和を前提に、予定されたシナリオに沿って運営される「閉じる場」です。
本当の意味で「考える」という行為とは?
「思考力」というのは、本当の意味での「考える力」のことであり、予定された正解のない「問い」に向き合っていくことのできる力、とも言えます。
そもそも“考える”という「人間が最も人間らしくありえる行為」を始めるには、きっかけとなるものが必要です。そのきっかけが「問い」であり、「問題意識」です。人は、問いを自分に向けたり、人から投げかけられたりすることによって、“考える”という行為を始めるのです。
「拓く問い」に本気で向き合い続けていると、人生観や仕事観といったものが磨かれていきます。例えば、「あなたはなぜ働くのか」という問いを考え抜くことによって、より深い意味を持つ答えに到達する可能になります。つまり、こうした問いと常に向き合ってきたか否かが、思考力の強化に大きく影響します。
予定された正解がない、時として自分の人生を問い直すことも必要とされる「拓く問い」と向き合うことが、本来の“考える”という行為であり、人間を進化せていく行為だということなのです。
仲間と一緒に「拓く問い」と向き合う「拓く場」をつくる
「拓く問い」と向き合う際には一緒に議論ができる仲間の存在が欠かせません。もちろん、「自分にどういう問いを投げかけるのか」で考えることの質が決まるので、自分自身が問いと向き合うことが大切です。ただし、自分だけで考えられることには限界があります。
まずは、仲間と互いの思いを共有し、関係性を構築しながら、「拓く場」をつくっていくことです。「拓く場」は日本ではそもそもなじみがなく、あまり評価もされていませんが、そこでは常に考えることが求められるので、上手にやれば、私たちの「考える力」を鍛え、創造力を引き出してくれます。
その代表的なものが「オフサイトミーティング」です。オフサイトミーティングとは、欧米の組織開発用語では「離れた場所で行う会合」を意味します。ただし、ここで言っているのは、私が30年以上前から提唱し、自らもやり続けてきた「立場を離れてまじめな話を気楽にする」という日本式のオフサイトミーティングのことです。
「オフサイトミーティング」は、人材育成の場であり、まさに生きる力を養う場でもあります。つまり、「楽しみながら主体的かつ前向きにかかわる力」「仲間と一緒に意見をぶつけ合って自分の頭で考え抜く力」が養われる場が「拓く場」なのです。
「拓く場」の質を上げる勘どころ
「拓く場」での大切な約束ごとは、相手の話を真剣に聴くという姿勢です。まずは「相手の 言おうとしていることを受け止める」ことに全力を注ぎます。相手の言いたいことをきちんと理解しようという努力から、すべては始まるのです。
会社の隣の席で仕事をしている人であっても、組織の中の「立場」で接している限り、お互いが抱いている本心を知る機会はほとんどありません。あらためてお互いのことを知ると、「意外に近いことを考えていた」ということがわかり、親近感が増し、互いに心理的な安心感が生まれます。この安心感をベースにした忌憚のない議論が、意見の違いを乗り越えた先に「新たな価値」生み出していくのです。
オフサイトミーティングを含むさまざまな「拓く場」で、やり取りされる情報は2種類に分けられます。「伝える中身が明確になっている情報」と「中身があいまいなままの断片的な情報」です。会議などで使われるのは、基本的に前者です。
「拓く場」の特性は、この「断片的な情報」の重要な役割にあります。「断片的でありながら、日頃あまり触れることのない興味を引く情報」の持つリアリティとエネルギーが参加者に刺激を与え、それまで閉じていた心のアンテナを立てるのです。アンテナが立つことで情報が入りやすくなり、人は考えるきっかけを持つのです。
場の質を上げるには、「拓く問い」について十分な議論を促すための、新たな切り口を持った問題意識(発言)を投げ込むことが重要です。
日本が思考停止に陥っていることが自覚されつつある今、一人でも多くの人が「拓く問い」に向き合うことの意味を実感し、仲間と一緒に「拓く場」を持つ機会を増やし、「考える力」を鍛え直すことが私たちの急務と言えます。
■文/柴田昌治
株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー。1979年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。大学院在学中にドイツ語学院を起業した後、ビジネス教育の会社を設立。80年代後半から組織風土・体質改革の支援に本格的に取り組む。社員が主体的に協力し合っていきいきと働ける会社にしたい、という社長の思いがスピーディに組織の隅々まで伝わる会社づくりをめざしサポートを続ける。2009年にシンガポールに会社を設立、対話によるチームづくりを通じて日本企業のグローバル化を支援している。
著書に『なぜ会社は変われないのか』『なんとか会社を変えてやろう』『トヨタ式最強の経営(共著)』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか』(以上、日本済新聞出版社)など多数。
『日本的「勤勉」のワナ まじめに働いてもなぜ報われないのか』柴田昌治・著 869円(10%税込)/朝日新聞出版
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