「自己肯定感が低い」ことに悩むなかれ。問題を抱えているからこそ「進化」できる、令和の人材とは
難局を打開し、未来を切り拓き、生産性を上げていくことを可能にする「考える力」は、拓 く問い」に向き合い続け、その結果として試行錯誤を繰り返しながら培われていくものです。「拓く問い」とは、「決まった答えが用意されていない問い」「記憶や知識に頼らず自分の頭で考える必要のある問い」のことです。
こうした問いに本気で向き合おうとすればするほど、必然的に、より本質に向かって「意味や目的、価値」を考え抜くことを自らに課し続ける状態になっていくものです 。これは、まさに“哲学”の世界です 。
「考える力」を日常生活で養ってきたドイツに学ぶ
日本で“哲学”というと、何か遠い世界の話のようなイメージがありますが、実はドイツなどではそうでもありません。ドイツでよく言われるのは、「哲学は日常生活の中に普通に入り込んでいるものだ」ということです。
一時期ドイツで暮らし、日常生活でドイツ語を使うようになったとき、日本では専門語だと 思われているドイツ語の哲学用語である「 アウフヘーベン(Aufheben):止揚。矛盾するものを更に高い段階で統一し解決すること」なども日常語として普通に使われていることに驚かされました。
私たちは、何かを始めるとき、「そもそも何が目的なの?」「やることにどういう意味があるの?」といった問いに向き合っているでしょうか。残念なことに、「考える」ことが日常になっているドイツなどとは違い、日本に住む私たちは、幼いころから「拓く問い」と向き合う環境に置かれてこなかったのです。
しかし、最近では、少しずつ「正解のない問いが持つ意味」に、社会の関心も高まってきています。
『こんなに違う!?ドイツと日本の学校 ~「自由」と「自律」と「自己責任」を育むドイツの学校教育の秘密』(和辻龍著、産業能率大学出版部)という本があります。この本の中に、著者がドイツに行って、自己紹介のスタイルをガラリと変えたという話が出てきます。というのも、通り一遍の経歴などを話すと、「あなたはドイツで何を学びたいのか?」とか、「それを今後のキャリアにどう結びつけていきたいのか?」などといった質問が当たり前のように飛んでくる経験をしたからだそうです。
まさに、「ものごとの意味や目的、価値を問う」ことを重視しているドイツならではの一コマだと思います。今、私たちが取り組まなければならないことは、「考える力」を養うために、一見無駄に見える、決まった答えがあるわけでない「拓く問い」に、仲間と一緒に向き合い議論を重ねる機会(拓く場)をできる限り多く設けることです。そのためには、考えることのできる時間の余裕をつくる必要があります。
費やす労力や時間は、「新たに生み出す価値の大きさ」で決める
仕事の生産性を上げるには、新たに生み出す価値の大きさでその仕事の比重を変え、費やす労力や時間を決めていくことが欠かせません。
その仕事が「まったく新たな価値を生む仕事ではない」場合は、費やす時間を可能な限り少なくする、という判断が必要になります。同様に「やっておく必要はあるが、それほど新たな価値を生み出すわけではない」と考えられる仕事は、可能な限りシンプルにさばく、という判断をするということです。
従来と同じように単に仕事をさばくだけなら、置かれた前提のもとで「どうやるか」を考える「枠内思考 」で十分ですが、可能な限りシンプルにさばくとなると、「意味や目的、価値」を考え抜く姿勢を常に持ち続ける「軸思考」が有効に機能していないとうまくいきません。
そうした整理ができて初めて、新たな価値を生む仕事に十分な時間を費やすことが可能になるわけです。そのためには「仕事の価値を判断できる能力」が必要ですが、その能力は、日頃から、「拓く問い」に向き合い、「意味や目的、価値」を常に考え抜く姿勢を持っていてこそ養われるものです。
「問題を抱えている自分」だからこそ進化できる!
仕事の価値を判断し、優先順位をつけて時間を使うことができれば、自分が自由に使える 時間を取り戻すことも可能になります。それは、自分の人生を取り戻すための前提条件でもあり、人間らしく自分の頭を使って考える生き方ができる、ということをも意味しています。
そうした生き方を実現していくために、私が大切にしている価値観があります。それは、人間らしい生き方は、「自ら進化し続けていこう」という姿勢を常に持ち続けることで実現するという考え方です。
自ら進化し続けるには、まず、問題を抱えている自分を認めることが大切です。自身の持つ問題を自ら見つけ、それを変えていこうという姿勢が“進化”をもたらします。私が大切にしているのは、完成された立派さではなく、立派になるために努力をし続けること。私はその姿勢を“進化”と呼んでいるのです。
そして、その“進化”は「何かを成し遂げたい」という思いがあってこそ可能になるものです。そのような前向きな気持ちを自分の中に持っていることが、仲間たちと「拓く問い」に向き合いながら、困難な仕事を成し遂げようとする際の原動力になるのです。
私たちが持てる力を発揮し、働く人生を豊かにするためには?
「自分自身を信頼できる自分になること」というのが、企業変革のさまざまな場面で多くの人を見てきた私の“仮説”です。「進化し続けていく自分を信頼すること」と言い換えてもいいかもしれません。そのためにはまず、「自分の中の問題点を見つけ、自分を変えていこうという姿勢を持つこと」が必要です。
私がいつも心がけているのは、「自分と自分のまわりの人の強みを発見しよう」という姿勢です。ここで言う「強み」というのは、学歴とか生まれとかいった形式的なものを指しているのではありません。「強みを発見しよう」というのも、長所であっても短所であっても、自らの特性を「強み」に変えていこうとする姿勢のことです。
「私たち日本人が持っている力を何としてでも発揮できる世の中にしていく」ために必要なことは、まず無自覚の「枠内思考」という現代の思考停止を自覚することです。そして、自分の頭で考え抜くことによって、「枠内思考」と「軸思考」を適切に使い分けることを身に着けてください。
新しい価値の創造が求められる令和の時代に、日本と日本企業が何よりも必要としているのは働く私たちの「考える力」です。私たちの働く人生を豊かにし、人間らしい生き方へと至る道は、「自分が働くのはそもそも何のためなのか」などという最も基本的な「拓く問い」と向き合い、考え抜くことから始まります。
一人でも多くの人が、夢や志を持つ生き方を選択できる、そんな日本にしていきたい、と心から思っています。
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