「男性更年期、不安で仕方ない」煩悩多き50歳男2人が検査を受けてわかった「意外なこと」【男性更年期】

ここ数年で認知度が上がっている「男性更年期」。パートナーや同僚・友人など「周囲の女性」がその知識を持つ重要性も知られてきています。

 

女性は初潮を迎えた全員が閉経を迎えます。平均50歳の閉経前後で起きる急激な女性ホルモン値の乱高下により、一部の人々は更年期障害の症状に見舞われますが、数年で体が慣れて症状も収まる例がほとんど。つまり「女性の更年期障害は何もしなくても時間がたてば治る」ものです。適切なケアでこの期間を乗り切り、その後のシニア期に向けた体づくりをスタートすることが大切。

 

いっぽう、男性の場合は、40代以降徐々に男性ホルモン(テストステロン)値がなだらかに下がっていくため、寿命を迎えるまでのどのタイミングでも更年期症状に見舞われる可能性があります。テストステロン減少で起こる代表的な症状にED(勃起障害)がありますが、これは60歳代の日本人の場合は60%以上に見られる「ごく一般的な」現象。そして、女性と違い「いま男性更年期症状のある男性は、治療をしない限りは寿命が尽きるまでそのまま回復しない」のです。

 

男性更年期にまつわる自覚症状が「とてもある」「ややある」主婦の友社の男性編集者2名が、実際に男性ホルモン値を含む検査を受け、治療の経過を公開することに。ご自分の、あるいはパートナーの状況と照らし合わせて受診目安としてください。

(トップ画像/医師・堀江重郎先生)

 

診察は事前の採血結果と「AMSスコア」をもとに行われる

訪れたのは東京・日比谷の「日比谷国際クリニック」。「ストレス治療」の概念を日本ではじめて打ち立てた医師・鴨下一郎氏(元衆議院議員)が1981年に創設したクリニックです。企業の人間ドック・健康診断と並行して「生活習慣病外来」「メンズヘルス外来」など特徴的な外来も設置。周辺のオフィス勤務者に向け一般外来(内科)も行います。

 

このうち「メンズヘルス外来」は男性更年期の第一人者・順天堂大学の堀江重郎先生らの出張診療です。事前に採血に出向き、診察日当日は採血結果とAMSスコアをもとに診察を受けます。以下のAMSスコアで簡易に自分の状態が確認できますから、気になる人は一緒にチェックしてみてください。

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AMSとはAgingmales’symptomsの略称で、ドイツのハイネマンらが開発した加齢男性性腺機能低下症候群(LOH 症候群、男性更年期)診断のスコア。精神・心理、身体、性機能についての17項目を5段階で評価する、国際的に認められた質問票です。

 

コロナ以降、趣味に対するワクワク感が極端に減り、やる気と活力がなくなった50歳。悩みは深いが

1人めの受診者は編集者N氏。50歳、171cm、体重66kg、独身一人暮らし。優しくおだやか、スイーツや観劇が大好き。料理研究家や料理編集者など女性の友人が多い、「女子力の高い」男性編集者です。

 

「もともと推し活に熱中していて、新派のお芝居が大好きでした。週末は地方に観劇で遠征、次週はファンの皆さんとお茶会と、30代40代は激務ながらも仕事に趣味にワクワクした日々を送っていました。でも47歳で見舞われたコロナ禍以降、ぱったりとそういう活力がなくなってしまって。これがコロナうつのようなものなのか、それとも男性更年期なのか、原因が知りたいです。もしどちらでもないのなら、何か大きな病気が潜んでいるのではないかと不安で不安で……」

 

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そう訴えるN氏のAMSスコアは36点。5点のチェックがついた2項目は

「9・からだの疲労や行動力の減衰(全体的な行動力の低下、活動の減少、余暇活動に興味がない、達成感がない、自分をせかさないと何もしない」

「11・憂うつな気分(落ち込み、悲しみ、涙もろい、意欲がわかない、気分のむら、無用感)」

まさに本人の主訴のとおりです。簡易診断上は「軽度」の男性更年期の範疇。

 

医師が最初に指摘したのは意外にも、男性ホルモンではなく「ビタミンD」

おだやかに、訴えをじっくり傾聴する堀江先生の診察がスタートしました。

 

堀江先生「寝つきと体重変化はどうですか?」

 

N氏「コロナ禍の最初のころは寝つきは普通でしたが、ここ1年でやや悪化しました。体重はここ10年で8㎏増え、特にコロナ禍以降の3年で5㎏増えました。体全体が重いです」

 

堀江先生「体の痛みは? たとえば、肘を脇にくっつけて腕を外に開けますか?」

 

N氏「痛みは特にないです。ここ数年で関節の可動域が少なくなって常にぼきぼき鳴るのですが、肘は開けました」

ひととおり体調を確認したあと、堀江先生が血液検査の結果を説明。

 

N氏の検査結果①クリックで拡大。ビタミンD「25OHVD」は20.0未満が欠乏、20以上40未満が不足、40.0以上が充足。

堀江先生「採血結果はそれほど悪くないと思いますが、ビタミンDが欠乏レベルです。総じて日本人はビタミンCとBはよく摂取しますが、ビタミンDは足りていません

 

N氏「採血が悪くないということは、この不調には更年期以外の原因があるのでしょうか?」

 

堀江先生「そこまで悪くないだけで、ビタミンD欠乏は大きな問題です。Dが欠乏すると憂うつな気分になりがちで、メンタルへの影響も考えられます。また、男性ホルモンも減り気味になるため、体重も増えます。コロナには罹患しなかったそうですが、Dは免疫力とも関係します。サプリメントで補充して値が改善すると、男性ホルモン値も上がっていきます」

 

N氏「薬ではなく、サプリメントでよいのですか?」

 

堀江先生「本来は食品から摂取するのがよく、特に鮭は1日1切れ食べれば充足するので積極的に食べてください。ビタミンDはキノコ類に含まれるビタミン D2と、魚・卵など動物性食品に含まれるビタミン D3に大別されます。他に医薬品の活性型ビタミンD3がありますが、副作用リスクもあるためサプリメントの使い勝手がいいと考えています」

 

「40代以降は朝ごはんは無理に食べなくていいです」数値から判断された意外なアドバイスは

N氏の検査結果②クリックで拡大

堀江先生「もう一つ、検査が食後だった影響もありますが、コレステロール値、中性脂肪値が高めな点は要改善です。原因は二つ。一つは運動量に比べてカロリーの摂取量が多いこと。もう一つ、肝臓が加齢の影響を受けています。コレステロールの値が上がるということは肝臓の力が下がるということです。ビタミンD値が上がると改善していきます」

 

N氏「体重が激増していることもあり、中性脂肪値は気になります。どう対策すればいいですか?」

 

堀江先生「いまは朝ごはんを食べていないのですよね、それでいいと思います。中年期以降は1日3食食べる必要はなく、朝もコーヒーにMCTオイルやバターを入れてバターコーヒーとして飲むくらいでOK。お昼は定食屋でもいいのですが、こじゃれたイタリアンレストランに出向き、サラダ、アボカド、オリーブオイルを中心に食べ、午後におなかがすいたらナッツをつまむのが理想的です」

 

N氏「イタリアン……毎日行く時間はなかなか取れません。定食屋さんではどんなものを食べるといいでしょう?」

 

堀江先生「魚の定食ですね。逆に、コレステロールや中性脂肪の対策としてお昼に控えるべきはラーメン、チャーハンなど炭水化物。炭水化物が多ければ太ります。このほか筋トレもスタートしてください。ビタミンDは12000IUほどの摂取が理想で、サプリメントが簡単で確実です」

 

在宅勤務で頻尿が進んでしまった。どうすればいいのでしょう?

N氏「別のご相談です。頻尿が気になっていますが、どうすればいいでしょうか。コロナ以降の在宅勤務で、座りすぎがよくないと聞き、1時間に1回立ち上がるようにしています。ですが、立ち上がるとそのままトイレに向かう習慣がついてしまい、勤務時間中に5、6回は行くんです」

 

堀江先生「頻尿のチェックポイントは、頻度や近さではなく、たくさん出てスッキリするかどうかです。たくさんは出ない、勢いもそんなにないという場合は注意が必要です」

 

N氏「そもそも、なぜ頻尿が起きるのでしょう。これも加齢と関係があるのですか?」

 

堀江先生「尿意は交感神経が強くなると出てきます。たとえば学生時代、試験中に残り3分と言われたのに全問解けていないととたんに尿意に襲われましたが、あれが典型例です。原因の一つは集中して仕事をしているので交感神経が活性化するためでしょう、これは問題ありません。もう一つ、骨盤の筋肉が硬くなり、柔軟性に欠けている可能性もあります。腕立てとスクワット、ストレッチで改善するので、尿意に見舞われたら少し我慢しながらその場でストレッチをしてみてください。ほとんどの場合で尿意そのものが消えると思います」

 

N氏「ストレッチはどう行えばいいのでしょう?」

 

堀江先生「床にマットを敷いておいて、尿意がなくても1日3回を目標に、前屈、股関節、上半身のストレッチを行ってください。余裕があれば、立って仕事ができる机の導入もおすすめです。電動で高さを変えられる机が便利で、立って仕事をするだけで運動不足をかなり補えますし、後ろに足を振り上げるなどの運動もできます。このほか、サプリメントで頻尿の対策をするなら『シトルリン』、スイカの皮のサプリメントがおすすめです」

 

「歌いながらタラタラ走る」のが絶大なる効果を生む「納得の理由」とは?

N氏「出勤している日にできる対策はありますか?」

 

堀江先生「移動は小走りを心がけてください。タラタラでもジョギングでも体が受け取る効果は同じなので、テレンコ、テレンコと走るのが体にいちばんよいのです」

 

N氏「息が切れなくてもいいということですか?」

 

堀江先生「はい。ベストは帰宅の際、駅から10分くらい、歌いながらテレテレと走ることです。歌いながら走ると横隔膜も使えるので最高です。早歩きではなく小走りを心がけるのもポイントです」

 

N氏「早歩きと小走りの違いは……?」

 

堀江先生「歩く場合は足のどちらかが地面についていますが、走る場合はどれだけいいかげんでも両足が離れる瞬間があります。これが決定的な効果の違いを生みます。通勤時は中敷きのしっかりした、土踏まずを強化できるスニーカーを履き、会社に着いたら革靴に履き替えるのもおすすめです。ウェアラブル機器で心拍数を測れる人は120~130を目標にしてください」

 

テストステロン値は「思ったほどには低くない」、だが数値と主訴は必ずしも一致しない

 

N氏の検査結果③クリックで拡大。テストステロン、遊離テストステロンの値を見る。PSAは前立腺がんに関わる数値。

N氏「先生、私の男性ホルモン、テストステロンの値はどうでしょうか?」

 

堀江先生「高くはないが、かといって明らかに病的という低さでもありません。ここまで説明してきたビタミンD摂取、ストレッチ、筋トレを取り入れるだけでかなり上がるでしょう」

参考値・クリックで拡大

N氏「なんとなくの不調を感じているのはテストステロンの低下のせいでしょうか?」

 

堀江先生「それもあると思いますが、病的には下がってはいないため、このせいだとも断言できません。このほかの対策として、漢方の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で腸内細菌叢を整えてみても。朝晩飲むとテストステロン値がアップします。冬虫夏草もいいですね、どちらかをおすすめします」

 

N氏「テストステロンを補充すると、私のように意欲の落ち込みに悩む人もすぐに気分が上向くのでしょうか?」

 

堀江先生「一般に遊離テストステロンが7.5pg/ml以下や総テストステロンが250~300ng/ml以下、かつ更年期症状がある場合に、テストステロン補充が適用と考えられるものの、補充は値の高低ではなく、現在の困窮度で判断します。仕事ができない、誰とも話したくないような場合は適用です」

 

N氏「男性更年期だと診断するにはいまひとつ数値が下がりきっていないのですね」

 

堀江先生「現状はまだ保険上の補充療法の適用ではないと言えます。が、対策を3~4か月やってみても数値が改善しない場合、自費でのテストステロンジェル補充も考えられます。ただ、外から補充してしまうと体内で作る機能が落ちてしまうので、何でも補充すればいいというものでもないのです。ジェルは比較的即効性があるため、お守りのように持っておき、気分が落ち込んだときに使うという方法もあります」

 

N氏「確かに、抑うつで引きこもっているわけではありません。でも、どこかへ行きたいな、楽しみだなという気力がなくなってしまい、人生が彩りを欠く状態ではあります。微妙なところなのですね」

 

堀江先生「国内の男性ホルモン補充療法は大変遅れており、保険適用になるのは注射のみ。ですが、使い勝手が悪いためあまりおすすめしていません。使いやすいジェルがおすすめです。筋トレの際にテストステロンを補充すると効果が出やすいので併用してみてください」

 

N氏「すぐに意欲を出したい!という場合、何かおすすめの方法はありますか?」

 

堀江先生「意欲が出ない、会社に行けないという場合、朝に抹茶を飲むのもおすすめです。ポリフェノールが摂取できるほか、ドーパミン神経回路が活性化され、うつうつとした気分にプラスの影響が期待できます。苦くて飲みにくいという場合、お湯で溶いたあとに牛乳を加えて飲むのもいいでしょう」

 

 

▶【つづき】いっぽう「男性ホルモン足りてそうな50歳男性」が受けてみたら、意外な結果に

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