10歳年下の彼の既読スルー。どうすれば…【小説・あなたのはじめては、わたしのひさしぶり14】
おひとりさま40代の私の部署に、年下の男性が配属されてきた。 歓迎会に誘っても「そういうの迷惑なんですよね」と言い放つ、協調性のない若い男の子、高坂くん。 ところが、ひょんなことからお互い「犬が好き」なことに気づく。 女性と2人で出かけたことすらなかったピュアな高坂くんと、私の関係は、少しずつ変化し……。
知られたくない名前
「柳沢くんって、誰ですか?」
聞かれたくなかったのに、やっぱり高坂くんはしっかりこの名前を耳に入れて、突っ込んできた。まさか元彼です、なんて言えるわけもない。
しかも、同じ職場なのだし、言いづらい。
「もしかして、企画部の柳沢さんですか?」
「……」
返事することもできず、気まずい沈黙が私たちの間に流れている。
その沈黙を破ったのは、言い出した沙羅だった。
「そっ、そういえば今日、避難訓練するって言ってなかったっけ!?」
「ほんとに!? 何時ごろ?」
今日が訓練の日だったことを、心の底から感謝した。
なんとか、話題を逸らすことができたのだから……。
バタバタと訓練に備えてヘルメットの位置などを確認し始めた私たちを、高坂くんは黙って見つめていた。
手伝おうともせず、何かを考え込んでいるかのような、難しい顔のまんま立ち尽くしていた。
彼の問いに答えることが逃げてしまったことを申し訳なく思ったけれど、でも、答えるわけにもいかないのだから、もうどうしようもなかった。
冷えていく関係
それからというもの、私のLINEに高坂くんが返事をしてくることは、なくなってしまった。
彼は、何事かに気づいたのかもしれない。
柳沢くんが、私の昔の恋人だということも、わかってしまったのかもしれない。
それとも私がちゃんと質問に返事をしなかったから、怒っているのかもしれない。
既読はするけれど、返事が来ない。
どんなに可愛い犬の画像を送っても、彼からの反応はなくなってしまった。
寂しいけれど、どうすることもできない。
昔の恋人の話をしても、結局は気まずくなる気がする。
「ほんとごめんね」
あのあと、沙羅には平謝りされた。
「口が滑っちゃって、名前だしちゃってごめん」
「いいよ」
私は本当に、いいよ、と思っていた。
いつかは知られることだったのかもしれない。
私からは言う勇気がなかったから、むしろこうやって高坂くんに知らせてもらって、良かったのかもしれないから。
迷惑なんですか
そして、気まずい中でも、週末は近づいてきていた。
私は迷った末に、彼にLINEをした。
「週末のドッグカフェは、どうする?」
あんなにあのカフェの犬を可愛がっててい彼が、今週行かないなんて、考えられなかった。
あのドッグカフェなら、犬のことでお互いの心もほだされて、この気まずさが消え失せるかもしれない。
そんな期待をしていたのに……。
彼からの返事は、たった一言だった。
『大丈夫です』
そう書かれていた。
『大丈夫って、今週は行かないってこと?』
しばらく経って、返事が来た。
『ひとりで行くから、大丈夫です』
私とは、一緒に行く気持ちがなくなってしまったらしい。
あんまりしつこく問いただすわけにもいかないけれど、でも、もう一度だけLINEを送る。
『私も今週行こうと思ってるから、よかったらまた一緒に行かない?』
そう誘うと彼からはこう返ってきた。
『僕と出かけて、迷惑じゃないですか?』
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