男性更年期「女性に興味のなくなった男性は寿命が尽きる」。おかしいなと感じたら何をすればいいのでしょう?
「男性更年期」。最近、テレビや雑誌、ネットで話題になりつつも、まだまだよくわからないことが多いですよね。実は、放置していると、うつ病や生活習慣病につながるリスクが高く、早期発見・早期治療が大事です。
男性は女性に比べて医療に苦手意識を持ち、受診しにくいという特性があるそうです。もしも夫やパートナー、ご兄弟、同僚、お父さま、ご友人など「身近な男性」が、なんだかこれまでと違うかも……?と感じたら、「年だから仕方がない」「仕事が忙しい」なんて言わせないで、ぜひおせっかいを焼いて病院の予約を取ってあげて。
男性更年期障害の症状や対処法・治療法について、メンズヘルスを牽引する泌尿器科のエキスパートである井手久満先生に伺いました。
一斉に更年期になる女性に比べて、男性の更年期障害は「何歳からでも発症する」
「テストステロン」という言葉をご存じでしょうか。筋トレかいわいなどで耳にする機会が多いかもしれません。
「テストステロンとは男性ホルモンのひとつで、男性らしい肉体をつくるほか、男性らしい社会での活動の礎ともなります。ひとことでいうと狩猟行動のホルモンで、狩りに出かけようと思う気持ち、獲物をしとめようと思う気持ち、それを持ち帰って仲間を喜ばせようという気持ちのもととなります」(井手先生)
ですが、男性は20歳代をピークにこのテストステロンがゆるやかに減っていきます。そこに、職場や家庭などの過度なストレスがかかったり、肥満などが重なったりすとテストステロンが急激に減少します。
ホルモンバランスが乱れると、身体・精神・性機能にさまざまな不調を引き起こします。これが男性更年期障害です。医学的に「加齢男性性腺機能低下症候群」、略して「LOH(エルオーエイチ)症候群」と言われています。
「一般的に50代以降で発症する場合が多いのですが、30代で発症する人もいますし、70代でもテストステロン量が十分な人、80代で初めて更年期症状を訴える人など、個人差が大きいです」(井手先生)
男性のテストステロンも加齢で減少するが、「みんなが一斉に減る」女性とはまったく違う
そもそも、なぜテストステロンの減少が起きるのでしょうか。
「まず、加齢で減少します。加齢に伴い、精巣の中にあるテストステロンをつくるライディッヒ細胞の数が減り、性腺刺激ホルモンの反応も低下して、テストステロンが減少。その減少を早める最大の要因はストレスです。生活習慣の乱れ、飲酒、不眠、肥満、メタボ、糖尿病、運動不足も減少させます。このため、家で動かずごろごろ寝ていて起きたら飲酒してまた寝るという生活はよくありません」(井手先生)
女性の場合は、みんながほぼ一斉に閉経という劇的な変化を迎えます。閉経の前後5年を更年期と呼び、この10年の間に女性ホルモンの「エストロゲン」が揺らぎながら急降下、そのせいで多岐にわたる不調が現れます。この不調にも閉経後数年で慣れるため、症状自体が落ち着いていきます。
対して男性の場合、男性ホルモンの減少は本当に人それぞれです。
「男性の場合は、テストステロンが20代からゆるやかに穏やかに減少していきます。減り方には個人差があり、また男性ホルモン量が同じでも不調が起きる人と起きない人がいます。さらに、男性更年期の症状が出る場合も、出る年齢にばらつきがあります。早い人で30代から始まり、50代で一気に患者数が増え、80代になって訴える人も。症状が出る期間は長く、終わりがありません」(井手先生)
どの値までテストステロン値が下がれば障害が出るかという点も人それぞれで、低値でもまったく問題のない人もいれば、値は高いのに障害に悩む人もいます。人それぞれの病気なのです。
「このほか、ストレスも大きく影響を及ぼします。仕事で強いプレッシャーがかかると体調が悪くなって休んでしまう人、あるいはPCに向かっているけれどずっとネットを見て逃避してしまう人がいると思います。この背景には男性更年期障害があるとも言われます」(井手先生)
男性更年期外来を受診する男性は、どんな症状を訴えているのでしょうか?
井手先生の診察を受ける患者さんの場合、2割ほどが奥さまからの勧めで来院されるのだそう。8割の人は自ら「男性更年期」の記事を読んだり聞いたりして、自分で心当たりを感じて受診します。
「たとえば、54歳、商社勤務男性の例です。これまで世界を股にかけて出張して、ばりばりと仕事をこなしてきましたが、最近はどうにもやる気が起きず、集中力もない。疲れるのであれだけ熱中していたゴルフもスイミングも通えず、休日はごろごろして過ごすようになり、女性にも興味がなくなってきました」
この方は自分でおかしいと思って来院、半年ほどの治療で元気になられたそうです。
「もうひとつ、女性への興味も重要なポイントです。12月に山形大学が発表した研究では、異性に興味がなくなった男性は死亡率が有意に上昇しました。女性は男性に興味がなくなっても生命予後に関係がないのですが、男性では早死にします」(井手先生)
患者さんたちはどのような症状を訴えているでしょうか? 以下に箇条書きにすると……。
・疲れやすい
・体がだるい
・やる気がでない
・集中力がなくなった
・記憶力が悪くなった
・興味や意欲がなくなった
・体の節々が痛い
・イライラする
・眠れない
・急に暑くなって汗がでる
・夜トイレに何度も行く
・性欲が減退した
・ED(勃起障害)
・朝立ちがなくなった
「テストステロンは、筋肉や骨を維持し、血管、性機能、認知機能などに関与する重要なホルモンなため、急激に減少すると、身体や精神面に多様な症状が現れるのです。近年は、『プレゼンティーズム』、疾病出勤と呼ばれる状態も問題となっています。心身に不調がある状態で出社し業務遂行能力が低下している状態を指し、増加の傾向にあります」(井手先生)
ちなみに、狩猟のホルモンであるためでしょうか、1日の中でもテストステロン値は大きく変動します。
「実は夜中が高く、朝まで高くて、お昼からは下がります。そのため、男性ホルモンの検査は午前が推奨されています。テストステロンは加齢に伴って減少していきますが、一晩中刺激を与えて起こしているとテストステロン値が夜に上がらないなど、睡眠が大きく関与することも判明しています」(井手先生)
たとえば、不眠症であればテストステロン値が低いという相関がみられますが、これは鶏と卵のような話でもあり、テストステロン値が低いことで不眠症が引き起こされている可能性も考えられるのだそうです。
うつ病とはどう見分ける?「死にたいという気持ちがあるならばうつの治療を」
男性更年期障害は、気分の落ち込みや急な不安、不眠など、うつと重なる症状も多く、識別は問診で行います。簡単に言って、男性更年期ならば太っていき、やせていくならばうつ病の可能性があるとのこと。
「死にたいという思い、『希死念慮』がある場合は重症なうつ病です。実はテストステロン値とうつ病は相関しないのですが、うつ病の患者を調べるとテストステロン値が下がっていることは多く、テストステロンを補充すると症状が改善することがあります。逆に、本来は男性更年期なのに精神科を受診し、ドグマチールなどテストステロンを減少させる抗うつ剤で症状が悪化することもあります。更年期障害とうつ病は、泌尿器科と精神科の連携が必要です」(井手先生)
国際的に男性更年期障害の診断で広く用いられている男性更年期障害質問票「AMS(Aging Males’ Symptoms)スコア」で、チェックしてみましょう。
17項目の質問に、「ない」1点、「軽い」2点、「中程度」3点、「重い」4点、「きわめて重い」5点の5段階で回答し、点数を合計して、総点数で評価します。
合計点
26点以下/正常
27~36点/軽度
37~49点/中等度
50点以上/重症
「不調が顕著な場合、必ずしも男性更年期障害とは限らず、重大な病気が隠れているかもしれません。放置せず早期に受診してください」(井手先生)
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