元高校球児、45歳男性の熱中症「ビールを4杯も飲んだし水分は足りていると思っていました」驚くべき顛末は
こんにちは、主婦の友社の井一です。記録的な猛暑の中、例年よりも警戒する必要があるのは熱中症。神奈川県済生会横浜市東部病院の谷口英喜先生にお話を伺った記事『熱中症「夜寝ている間」「プールで」「時差発症」もあり得る。「しっかり寝て、朝ごはんを食べることです」』には大きな反響が集まりました。
この記事を配信した翌日、同僚が記事に書かれた通りの「寝たまま熱中症」になりました。その体験談「朝起きたら、まさか私が熱中症?」38歳女性社員が襲われた「寝たまま熱中症」の恐ろしさ、どう避けるのかを配信したさらに翌日、こんどはオンライン会議で別の同僚が「熱中症になってしまって、今週はずっと休みで」と。
こんなに連続して、まったく生活パターンの違う同僚が倒れるだなんて、過去には一度もなかった話です。しかも2人目の男性は身長185㎝、体脂肪率低めの、がっちりとしたとても健康な男性。彼すら倒れるだなんて、いったい何が起きたの?? 詳しくその経緯を聞きました。
翌日病院に行くまでは「コロナに違いない」と思っていた。熱中症の症状を知らないと「疑いもしない」と思う
こんにちは、2人目に倒れた山崎シンヤ(仮名)、45歳の編集者です。ぼくは中学から大学まで野球を続けていたほか、社会に出てからもサーフィンやフットサルなど常に何かしら運動をしていました。ただ、この2年はウェブ担当になったため在宅ワークで、まったく運動せずずっと座って過ごしてきました。今回は高校野球の観戦で倒れたのですが、久しぶりに日当たりのよいところに出てみたら、以前の感覚のままだとこうなっちゃうんだなと思い知った事件でした。
ぼくたちの時代は野球も「水なんて飲むな」の世代ですから、炎天下の試合にも慣れていましたし、飲まなくても倒れたことはありませんでした。体力も人並みにはありますので、これまでインフルエンザでもだいたい1日で調子が戻っていました。でも今回は丸3日寝込んでもまだ具合が悪い。熱中症がこんなにきついだなんて想像もしていなかったです。
そもそも、最初はコロナだと信じていました。普段熱を出さないぼくが発熱、しかもそれほど高熱ではなく37度8分程度なのですが、汗をかくから室温を下げると今度は寒くて仕方ないという具合に、寒さと暑さが同時にきます。加えてすさまじい倦怠感、どう考えても感染症だとしか思えない。さらに、こんなに胃腸にくるとは思いもしませんでした。水を飲んでも吐き気がすごいし、体内に入った水分は全部そのまま下してしまう。もし病院に行かなかったらコロナだと思い込んでいたのではと思います。
連休初日の野球球場。足元の熱で足が真っ赤になるレベルの暑さだった
経緯をお話しましょう。3連休初日の土曜日、ふと久しぶりに野球でも見に行こうかなと思いつきました。高校野球の予選が始まっているので、早起きして見に行こうと。いつもなら7時に起きるのですが、この日は5時に起きて、涼しかったので冷房もつけず窓を開けて気持ちよく洗濯をして、Tシャツに短パンで8時に神宮球場に向かいました。
あとで聞いたら土曜は危険な暑さだったのですが、そんなことはまったく知りませんでした。球場に着いたら日陰の席が空いていなかったので内野席の日なたの席に座りました。ちょっと日焼けが危ないかなと思い、持ってきたタオルを頭から両耳を覆うように垂らして、その上からキャップをかぶって顔の横側の日焼けをガードしました。
第一試合の最中に足元がどんどん熱くなってきて、これは結構やばい暑さだなと、とりあえずビールを買いに行きました。とてもいい試合でビールも進み、結局3杯飲んだのかな。ふと足元を見ると、足がスタンドのコンクリートから上がってくる熱で赤くなっています。触ったら足そのものがかなり熱い。こんなことは初めてで、これは嫌だなとトイレに行って少し身体を冷やし、日陰は涼しいなと涼を感じたりして、もう1杯ビールを買って席に戻りました。このころには気温もかなり高くなっていて、ちょっとのぼせるような、長風呂したときのような感覚もありました。
この日差しはまずい、今日はもう帰ろうかなとも思ったのですが、やっぱり試合が始まると第二試合も見てしまいます。しかもちょっと後ろのほうの席に移動して、どうせ汗だくだし3年ぶりに日焼けもしようかとTシャツを脱いで観戦しました。この試合はコールドで早めに終わったのですが、終わった瞬間もう足元がおかしくなっていました。
みるみる具合が悪くなっていく。でも「たくさんビールを飲んだから水分はとれている」と思っていた
さすがにもう帰ろうと神宮球場をあとにしましたが、球場を出て地下鉄の駅まで歩く間にもふらつきがひどくなります。まっすぐ歩いているつもりがどうも右に寄っていくんです。あとから思えば家に帰るまで水を飲まなかったのもまずかったのですが、ぼくはビールを大量に飲んでいたので最後まで「水分が足りない」認識がありませんでした。あれだけ水分補給していたのに、なんで熱中症?とすら思いましたが、あとで聞いたらビールは水分に入らないどころか、ビールを1リットル飲んだら水も1リットル飲まないとならない「マイナス水分」なのですね。知りませんでした。
さて、帰宅中、地下鉄に乗っている間もどんどん具合が悪くなっていきました。とにかくだるい。動きたくない、座り込みたい、立っていられない、早く横になって寝たい。駅について家までの道でも、早く帰って横になりたいと、それだけ考えて足を進めていました。動きたくない。早く寝たい。
やっとの思いで家についたのが15時ごろ。まず体を冷やそうと冷房をキンキンにして布団をかぶって寝ました。ところが、1時間寝て起きたら寝る前よりももっと具合が悪くなっています。これ、もしかしてコロナかな?と思ったのがこの段階でした。
16時半ごろにお腹がすいたのでうどんをゆでたのですが、このあたりで吐き気がすごいことに気付きました。うどんを口に入れた瞬間にウッとなり、全部吐きたい衝動に襲われます。18時頃からは下痢も始まりました。それこそ10分に1回はトイレに駆け込みますが、口に入れた水分が全部そのまま出てきてしまう感じです。正露丸を飲みましたが収まりません。また、熱は37度8分程度なのですが、冷房をつけると寒くて寒くて凍えそうになるし、切ると暑くて暑くて辛い。上げたり下げたりしながら調節して、最後は27.5℃に設定して23時ごろに寝ました。
それでも1日寝れば治ると思っていたが、なんと5日たっても全快していない。ダメージが大きすぎる
翌朝起きたらすっきり……と思いきや、熱は38度3分まで上がり、さらに具合が悪くなっています。ひどい倦怠感。水分をとれば吐き気があり、下痢も続いています。喉は痛くないものの、これは間違いなくコロナだと確信して、日曜も対応してくれる発熱外来を探して受診しました。しかし、PCR検査を受けてもコロナは陰性。医師に「昨日何をしていましたか」と聞かれたので、野球を見に行った帰りからだんだん具合が悪くなったと経緯を話したところ、「熱中症だね」と診断されました。
そんなわけがないでしょう、あれだけ水分もとっていたのにとその場では思いましたが、帰宅して調べると症状が明らかに当てはまります。しかも、読めば読むほど「やってはいけない」と書いてあることをかたっぱしからやっています。まあ、それでも、今日一日寝ていれば普段の不調時のように回復するだろうと思っていました。
つくづく甘かった。日曜一日どころか、祝日の月曜も丸一日寝こみましたが、それでも回復しません。火曜水曜は少し調子がよくなったので在宅勤務して、木曜の今日やっとリモートで会議ができるようになったところです。丸2日寝込んで、5日たっても完全には治っていない。これが加齢かと落ち込むくらいのひどい症状ですが、加齢よりも今年の暑さが普通ではなさすぎるのだという説明も聞き、あまりに無防備だったと反省しました。
次回はきちんと対策して、3年ぶりの観戦を楽しみます
「やってはいけなかった」ことを3つ挙げると、まず1つめがビール。ビールは水分ではないし、むしろ体内の水分を減らす働きがあるので、飲んだら同じ量だけ水分をとらないとならないということはまったく知りませんでした。
2つめ、ガードなく直射日光を浴び続けたのも悪かったそうです。タオルで両耳を隠していましたが、むしろ首に巻いて後頭部を隠すべきだったとのこと。
さらに3つめ、具合が悪くなったあとに水分を補給していないのも悪かった。早めに水分を補給していればもしかしてここまで悪化しなかったかもしれないそうです。
そのほか、席は日陰を選ぶ、身体を何かの形で常に冷やす、水分をたくさんとる、直射日光を浴びない、ましてや上半身脱いで日焼けしようとしない。
この夏は3年ぶりに晴れ晴れとした気持ちで野球観戦を楽しめるので、こりもせずまた見に行くつもりですが、次回はきちんと対策をして、体調も万全に整えて向かおうと思います。
【医師コメント】「命があってよかった」としか言いようがない。今年の夏はいつもの夏ではないと心得て
大変な思いをされたことにはお見舞いを申し上げますが、医療サイドから見ればまるで見本のような「やってはいけない」パターンでした。以下、失礼ながら、ダメな理由をダメな順に並べます。今回は本当に誰にも絶対まねしてほしくない、シャレにならないひどい状態ですから、先々のことを思ってちょっと辛口です。ご容赦ください。
1・暑熱環境に長時間いた ➡ 観戦時間が長すぎました。
2・炎天下でビール ➡ お気づきの通り、ビールは全く水分補給になっていないどころか、アルコールが体温を上げ、急速に脱水症を作ります。
3・寝不足 ➡ 朝5時に早起きした点。早起き自体はいいことですが、自律神経が乱れて体温コントロールが破綻し、発汗や皮膚血管の拡張が妨げられます。
4・熱中症になってからの対応 ➡ 休息、冷却、そして口から水分をすぐ摂取すべきだった。今回のように発症しても、飲水できるなら十分に改善できました。
5・熱中症アラート下で長時間の外出 ➡ そもそも熱中症アラートの存在に気付いていないようですが、この夏の晴れた朝は必ず天気予報でチェックしてください。普通の夏ではありません。
山崎さんが思っているよりも今回の熱中症は重く、3段階あるうちの真ん中、中等度の熱中症です。一歩誤れば重症化し命を左右する恐れがありました。
そもそも、いまは誰しもコロナ禍で体力、特に筋力が落ちています。山崎さんのように2年間運動をしていないとなると、見かけ上や体重に変化がなくても、筋肉が脂肪に置き変わっている可能性があります。筋肉は身体の中でもっとも水分を貯める部位の一つですので、筋肉量が落ちているとなれば脱水症・熱中症に弱い身体になっているのです。コロナ禍のテレワークあるあるで、もともと運動をしていて体力のある人ほど過信がリスクになるのが今年の夏です。
それでも次回行くなら(医師としてはやめてほしいけれど)、
- 普段以上の睡眠時間をとってから行く
- ビールをはじめ、アルコールは飲まない
- 首を冷やすグッズを持つ。ネッククーラーは複数持つ
- できるだけ短時間の観戦にとどめる
- いざという時のために経口補水液を1リットル以上持って行く
- 何よりも、自分のからだは衰えていると自覚する。運動経験者ほど「昔と同じ」と過信しない
- 観戦中はアルコールはやめて、水やお茶を飲むようにする
- 観戦の合間に食事をする。水分補給になる
これを全部やるくらいの対策でお願いします。
こうした命を守るエッセンスを詰め込んだ新刊『いのちを守る水分補給: 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(谷口英喜・著 1,540円/評言社)もぜひご参照ください。
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