言ったでしょ、不倫はあなたを幸せにしてくれないって。ご主人、気づいてるの?【不倫のその後】
「切られる自分」を知らないまま
「私と会う時間を作るのが大変だったみたい」」という夏菜の言葉に、「前は、その人が自営業だから会いやすいって言ってたのに」と一応返してみたが、「取引先とのお付き合いとかが多くて、自営業だと会社員と違って不規則な生活になるんだって。まあわかるよね、営業しないといけないし」と、夏菜はカフェオレのカップに指を伸ばして言った。
「……」
「ま、無理はできないよね、不倫だし」
半笑いでそう言いながら、一口飲んだカップをテーブルに戻して
「やっぱり難しいのね、不倫って」
と、ため息をつく。
「夏菜は無理をしていなかったの?」
そう尋ねると、「私は、うん、何とかなってたね」とすぐにうなずいた。
「……」
夏菜は気づいていない。
「会う時間を作るのが大変」は不倫相手を切りたいときに使う既婚者の常套句だが、相手との関係に本当に価値を感じているのなら、その「無理」をしてでも機会を作るのだ。
自分が不要になったから終わりを選ばれた可能性を、夏菜は考えていなかった。
今度の不倫相手は、「5名ほどの社員を抱える設備工事の会社を経営している」と夏菜に伝えていて、その真偽を確かめるすべもないが、始めの頃は男性のほうが積極的に夏菜をホテルに誘っていた。40代だがスタイルの崩れもなく、営業職で会話も楽しませてくれる夏菜の「価値」は、最初こそ高かっただろう。
向こうから誘われるので夏菜もテンションを維持することができて、「少しでいいから」とクルマのなかでの性急なスキンシップを求められたときも応えていた。そんな刺激がいつから減っていったか、夏菜が家庭を優先して男性の誘いを断ることが増えてから、連絡は少しずつ遠のいていた。