「センスがいいと思われる、夏の手土産って?」なにを選ぶか、どう贈るかが、その人の「品格」を決める! 【有名 和菓子バイヤーが伝授】
マナー上手な手土産の選び方、渡し方は?
季節が感じられる&話に花が咲くお菓子を
京都の亀廣永(かめひろなが)の「したたり」や鶴屋吉信の「御所氷室」、金沢の森八の「蓮根羹(はすねかん)」などは伝統的な季節のお菓子です。
季節が感じられるお菓子ということを踏まえて渡してください。したたりのように通年作っているお菓子もありますが、冬場に贈っても貰った人の心にあまり響きません。ところが、祇園祭の頃に「今、祇園さんやし食べて」と言って渡すと、「あ、もう祇園祭の時期なんや」と分かるし、そのお菓子のことを誰かに教えたくなります。
京都以外のところに住んでいる人なら、「昔よく祇園祭行っていたし、ニュースで見たし・・・」と思いを馳せながら味わってくれるでしょう。
また、新進気鋭の職人が作る新しく斬新なお菓子は、手土産にすると話の種になります。包装を開いた時に「可愛い!」と感嘆の声が漏れるし、味わいにも奥行きもあるので話が尽きません。そうしたコミュニケーションができる方に贈るといいでしょう。
和菓子に限らず、食べ物全般に言えることですが、お菓子まつわる話ができる人に渡すのが喜ばれるポイントです。自分で見聞きして、知ったものを誰かに伝えたい。その中の一つにお菓子があって、そういうお菓子を渡したいという気持ちが乗っかっていくのです。
昔は単純に礼儀を尽くす、しきたりや常識の中で礼儀を尽くしてお礼をするという型にハマっていたのですが、それでは贈った物に関する話が広がりません。
例えば、東京の虎屋では、大きな羊羹より毎年5月中旬から販売される小形羊羹「珈琲羊羹」を贈る人が圧倒的に多いといいます。「この時期にしか食べられないし、コーヒーの香りが豊かで美味しいのよ」と言って渡す。相手にお菓子のことを説明したり一言添えたりして贈るのが粋な手土産です。
では、夏の手土産におすすめなお菓子にはどのようなものがあるのでしょうか?
高島屋の敏腕和菓子バイヤー、畑 主税さんにおすすめの和菓子を教えていただきました。
祇園祭の時期に食べたい、亀廣永『したたり』
「したたり」は、琥珀羹の一種ですが、奥深い黒糖の風味が際立っています。もともとは祇園祭の茶席に出されていたお菓子で、今も祇園祭の時には、菊水鉾の茶席で供されます。茶席では皿に「したたり」が乗せられているのですが、その皿は毎年黄色や緑、水色など色が変わり、持ち帰ることができます。そのお皿を集めるのを楽しみにしているコレクターもいます。
「したたり」という菓銘は、9月9日の重陽の節句にちなんでいます。重陽の節句は五節句の中でもマイナーな節句ですが、昔は一番大事にされていました。菊の花の上に綿を乗せると夜露が綿に染み込むのですが、その綿で体を拭いたら長生きできるという伝説があり、それと重なるように、菊の雫を飲むと長生きできるという話も伝えられています。能や歌舞伎には、菊から滴る雫を飲んで不老不死を得たという「菊慈童(きくじどう)」という演目があるのですが、そこから「したたり」という菓銘になったそうです。
祇園祭の時は、鉾で販売する「したたり」だけで手一杯で他では手に入れることができないのですが、「したたり」は通年販売されています。冷蔵庫でキンキンに冷やしていただいたり、サイダーなどの炭酸系飲料やあんみつに寒天の代わりに入れたりするのもおすすめ。特に、黒糖は柑橘や生姜との相性がいいので、レモンスカッシュやジンジャーエールに入れて楽しむのも乙なものです。
【亀廣永】京都府京都市中京区高倉通蛸薬師上ル和久屋町359 TEL:075-221-5965
鶴屋吉信『御所氷室』
「御所氷室」は、夏限定の干菓子です。糖蜜に空気を入れて、白く濁らせたすり蜜に寒天を入れ、固めて乾かしたお菓子です。今、若い方の間では琥珀糖が流行っているのですが、御所氷室は白く濁らせたすり蜜琥珀糖の仲間になります。固めただけだと羊羹やあんみつの寒天のようになりますが、乾かしてあるので最初の口当たりはシャリっとしていて、内側は少しとろみのある食感になります。大納言小豆が入っていて、ほんのり甘酸っぱい梅酒が香るのも爽やかです。
「御所氷室」という菓銘ですが、昔は冷蔵冷凍庫がなかったので、7月1日、旧暦の6月1日に山奥に隠した氷をムロから取り出して天皇やお殿様に献上した儀式がありました。氷室から氷を取り出すことにちなんで「御所氷室」と名付けられたといいます。真っ白な箱に入った御所氷室ですが、蓋を開けると青紅葉を模した干菓子が添えられていて、目にも美しいお菓子です。
常温でも美味しく食べられますが、砂糖でできているので、昨今の猛暑では溶けてしまう可能性もあります。冷凍庫でキンキンに冷やして食べてもいいでしょう。実は、金平糖も冷凍すると美味しくいただけます。
【鶴屋吉信】https://www.tsuruyayoshinobu.jp
風土が感じられる手土産を選ぶ
和菓子は「観光案内所」のようなもの。その土地の文化や素材が色濃く反映されています。地元素材を活かすというのが和菓子の鉄則です。どこかに旅行に行ってお土産を買う時には、その土地の風土が感じられるお菓子を選ぶといいでしょう。
東京には全国各地の人が集まっています。故郷が感じられるお菓子には愛着が生まれます。さらに、四季に収まりきらない様々な季節の素材が楽しめるのが、その土地のお菓子の魅力です。
県庁所在地や新幹線が止まる駅でなくても、マニアックな土地には秋祭りに因んだお菓子とか、その土地でしか採れない芋やザクロなどの産物使ったお菓子がありますし、昔、近くにカワウソがいたという言い伝えからカワウソの形をしたお菓子のある地域もあります。杏が美味しい長野県に行けば杏の、レモンが美味しい広島県にはレモンのお菓子が数え切れないほどあります。手土産に和菓子を選ぶ時は、ぜひその土地に思いを馳せてみてください。味わいに奥行きが出ます。
加賀野菜・小坂蓮根をふんだんに使った森八『蓮根羹(はすねかん)』
森八は江戸時代から続く加賀百万石の御用菓子司。19代目の女将は職人でもあります。森八の蓮根羹は、伝統的な夏のお菓子。和菓子屋さんは、その土地の産物を大事にしますが、蓮根羹は加賀野菜の一つ、小坂蓮根という蓮根をすりおろし、寒天で寄せてあつらえています。
小坂蓮根は8月の初旬から採れるのですが、8月下旬までの2、3週間、蓮根が白いうちだけ作られます。小坂蓮根は鍬で掘り起こし泥付きのまま出荷されるのですが、その蓮根の泥を落として水に晒し、道明寺くらいの大きさになるまですりおろすことで、シャキシャキした食感と澱粉のもちもちした食感が生まれます。
原材料は小坂蓮根と寒天と砂糖だけ。蓮根の色が変わりやすいので、取り寄せたらすぐに冷蔵庫に入れましょう。常温で持ち歩かないようにしてください。
【加賀藩御用菓子司 森八】https://www.morihachi.co.jp
贈答文化の変化。手土産は顔が見える人に贈る
贈答の文化が非効率だと多くの人が気づいています。コロナ禍以降、ますますその必要性は無くなりました。大きな箱に入ったお菓子を贈られても、相手の方は量が多すぎたり、同じようなものばかりたくさん入っていたりして迷惑になることがあります。もう定番のお菓子や飲料、加工食品などを贈っておけばいいという時代ではなくなりました。
いろんなものが入っている方がいいし、もっと言えば、小分けでいいのではないかという。例えば、マドレーヌ3個だけを袋に入れて、「これを3セット作ってください」という人が増えています。「これ、美味しいから食べて」と、お裾分けする感じです。さらに、同じものが5個入っていても食べられないかもしれません。「小ぶりな羊羹1個とおまんじゅう1個、焼き菓子1個を袋に入れて」という方も結構います。相手の方の口に合うか合わないかということや世帯の人数など全部考慮することが大事です。
すなわち顔が見える人にしか贈らない。儀礼的なものは排除して、完全に顔が見える相手、コミュニケートができ、商品の価値が分かる人にだけ手土産を贈りましょう。もちろん、ご自身が「このお菓子すごく素敵だと思うから食べて」とか「見てみて、このお菓子めちゃ可愛いから」というワクワクした気持ちと共に贈っても構いません。
水の都で誕生した和菓子・つちや『みずのいろ』
岐阜県大垣市は澄んだ湧き水が溢れる水の都。夏になると和菓子屋の軒先には湧き水が張られ、その中で冷たく冷やした水まんじゅうというお菓子が販売されます。残念ながら水まんじゅうは取り寄せできませんが、大垣市に店を構える老舗の菓子屋、御菓子つちやは、10年くらい前に「みずのいろ」という琥珀糖の仲間を作りました。
「みずのいろ」は、水の都という背景を持ちながら、カラフルな色合いで四季を表現した和菓子。人工の着色料は使わず、美濃のハーブなどで色付けしているのも魅力のひとつです。あかはローズヒップと岐阜県さんいちごの自家製ジャム、しろは、養老・玉泉堂酒造の「美濃菊 貴醸梅酒、だいだいは無農薬栽培の南濃みかんの果汁と果皮、きいろは関市・上之保産の無農薬栽培のゆず、みどりはミントと揖斐・瑞草園の緑茶、あおはバタフライピーというハーブと垂井町・春日養蜂場のはちみつを使っています。
円盤型の形を型抜きではなく、全部手で丸くしているのですが、それは水が不定型だから。水は形がないので雫を垂れた時にいろんな形になります。型抜きしてしまうと同じ形になってしまうからあえて手で伸ばして丸い形にしています。二度と同じ形にはなりません。
見た目はカラフルで可愛らしく、スタイリッシュで斬新に見せながらも、味わいや表現はザ・和菓子。「みずのいろ」という二歩引いた名前も想像力を掻き立てます。真っ白な箱にきれいに並べられたおはじきのような琥珀糖は、見た目にも涼やかです。(「みずのいろ」「みずのいろ 夏」は店頭販売とデパートの催事販売のみ。みずのいろルミエールはオンラインショップで購入できます。)
【御菓子つちや】https://www.kakiyokan.com
【前編】では粋な手土産を選ぶコツやマナーをご紹介しましたが、【後編】では、畑主税さんおすすめの手土産を続けてご紹介します。
ホームパーティーに手土産を持って行く時の裏技やオトナサローネ読者にだけ教えてくれる桜餅の食べ方も。
▶【後編】はこちらから >>>
<畑主税さんプロフィール>
全国1,000店以上の和菓子店を駆け巡り、10,000種類以上の和菓子を食べた、高島屋全店の和菓子担当バイヤー。2003年高島屋に入社し、2006年に和菓子売り場担当に。京都の和菓子を作り立てのままでお客様に提供したいという思いから、人気店の上生菓子を自身が京都に行って朝一番で受け取り、新幹線で運び、夕方には新宿店の店頭に並べた。これが和菓子好きのお客さまから大好評を博し、2009年に和菓子担当バイヤーとなる。フィールドを全国に広げ、和菓子店を自身で駆け巡る日々。自分の足で稼いだリアルな和菓子情報は、プライベートで書いているブログ「和菓子魂!」やX(旧ツイッター)などで発信。
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