不倫相手を忘れられない…。既婚男性にすがる35歳女性の孤独は(後編)
別れた不倫相手への「未練」の正体
「新しい相手がいたりするのかなあ……」
咲希の言葉は、「次の人」がいる可能性が十分に高いと理解しているから出る不安だった。自分と同じように声をかけられ、持ち上げられ、上っ面の言葉に舞い上がってやすやすと肉体を差し出す女性が世の中には大勢いることも、咲希には想像がついていた。
「いたところで、もう関係ないでしょ」
あえて突き放すように言ったのは、まともな関係の築けない既婚男性への未練など無駄でしかない、と気がついてほしいからだった。
「そうだけど……」
咲希は言葉を濁す。考えたところで意味がないと自分でもわかっていても、相手の姿を見てしまったことでその現実の重さが改めてのしかかるのだろうなと思った。
「あのね」
「うん」
「後をつけちゃった」
「え?」
「誰かと一緒かなって、気になって。
でもずっとひとりで、駐車場に向かうのを見て怖くなってやめたの」
これが尾行か、と自分でツッコミを入れて、咲希はふふと笑った。
「……やめなよ、後を追われたって分かったら、あんたが不審人物で通報されるかもしれないよ」
呆れてそう返すと、咲希は「二度とやらないから」と投げやりな口調で答えた。
今の未練の正体は、自分だけがいつまでも忘れられずに相手にはすでに新しい不倫相手がいるという、「置いてけぼり」にあった。相手の「やり方」を知ったからこそ生まれる焦りであって、そこには憎しみも恨みも含まれる。
「前と変わらず調子の良さそうな顔を見たら、腹が立ったのよ」
電話をかけてきたときの落ち込みとは別の重みを感じさせる声色で、咲希は言葉を吐いた。
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