不倫相手を忘れられない…。既婚男性にすがる35歳女性の孤独は(後編)
前に進むことの難しさ
咲希は、この既婚男性と別れた後で何とか別の独身男性と知り合い、デートまでこぎつけたけれど結局は気持ちを育てるエネルギーを持てずに自分から終わりを選んでいた。その「悪あがき」の経験が、余計に今の既婚男性の状態を気にする理由になるのだろうと思った。
独身者同士の恋愛と違い、相手が離婚するまで関係を公にすることもできない不倫は、失恋後も未練を抱えるほうがいつまで経っても成就できない思いに苦しむ。不倫で痛い思いをした女性の多くが次の恋愛では独身男性を選ぶのは、その果てのない絶望を二度と繰り返したくないからだった。
咲希もそうやって続きの見える独身男性との恋愛を望んでいたが、実際はそう上手くいかず、不倫相手との幸せな記憶に翻弄されていた。「今すぐ疑似恋愛を提供できるスキル」が高い既婚男性との不倫ほど、その次の「相手と恋愛感情を楽しむためには時間がかかる普通の恋愛」を受け入れることが難しくなる。これが当たり前だと理解はできても、心がついていかないのだ。
前に進むことは本当に大変なのだと思うのは、本人にその意思があっても「手軽に味わえた高揚と刺激」がもたらす強い幸福感と、それを取り上げられて供給のなくなった心に生まれる虚無感が繰り返し襲うからで、そんななかで根源の人を目にしてしまえば、とんでもない行動に出る自分に違和感も持てないのだ。
過去の不倫相手が「誰と一緒か」を確認するために後をつけるなんて、惨めでしかない。そんな自分を受け取ることが、余計に新しい一歩を阻む。わざわざ言ってこなかっただけで咲希のなかではずっと苦しみが続いていたことを、改めて考えた。
その男に、次の女がいたら… 次ページ