「資産運用は野菜を育てる農業に近い」のはなぜなのか?元ファンドマネジャーがそっと公開する「自分の資産内容」#7
24年年頭にスタートした新NISA制度。「オルカン」「S&P500」という言葉はすでにおなじみとなりました。しかし、「よくわからないなりに何とか始めました」という人だけでなく、「始めないといけないのはわかっているけれどどうしていいのかわからない」という人もまだまだいるでしょう。
「オルカン積んでるから俺はOK」と考えている人に、元ファンドマネジャーの澤田信之さんから「それが危険な場合もある」と確認事項が。さっそくご説明いただきましょう。
【元ファンドマネジャーが指摘「新NISAでやらねばならなかったこと」】#7
(この記事は7本シリーズの7本め/1/2/3/4/5/6/7)
定年後も平穏に豊かに生きていくため、「ドキドキしないこと」の重要性をお伝えします
こんにちは、元機関投資家・ファンドマネジャーで、現在は文筆業兼個人投資家の澤田です。資産運用は順調ですか?
【資産運用の5ステップ】
最終回の今回は、「実践(元機関投資家の資産運用)」と題して、現実に私がどんな運用をしているのかお話ししたいと思います。最後までよろしくお願いします。
機関投資家は会議してる時間のほうが長いかもしれない
私は10年ほど前まで、機関投資家でファンドマネジャー(FM)をやっていました。日系、外資系、政府系とキャリアを変え、それぞれで、債券、外国債券、為替、外国株、不動産投資信託(REIT)に投資するファンドの担当をしておりました。
FMといっても何をする仕事なのかご存じない方もいらっしゃることでしょう。トレーダーのことですかと聞かれることもあります。自己勘定の売買をするディーラー、対顧客の売買をするトレーダー、経済分析をするエコノミスト、市場分析をするストラテジスト、それぞれ違う専門性を持っています。
FMはお客様から預かった資金のみを運用します。投信の場合は銀行や証券会社を通じて個人の皆様の、年金の場合は基金を通じて個人の皆様のお金を預かっています。
横文字職業で金融というと、丸の内によくいるストライプのワイシャツで茶色の革靴のイメージかもしれませんが、FMはもっと地味なデスクワークです。
出勤すると、朝は前日の海外市場動向分析から始まります。米国市場が閉まって約4時間、その間に日本市場への影響、保有銘柄に関するニュースを概観します。
為替市場は相対取引でほぼ24時間取引可能です。株式市場は取引所が開いている9時から15時半が主要な取引時間です。金融というとその時間中ずっとBloombergなどのスクリーンに張りついているようなイメージでしょうが、実際には社内で投資立案の会議をしたり、投資対象となりうる会社の調査(現地調査もします)をしたりしているので、画面を見ている時間は短いものです。
というのも、売買注文を執行する部署は別にあるから。その部門は取引のみに集中しています。ファンドマネジャーがするのは投資判断と資金の流出入に伴う売買の決定のみです。ニュースで見るデイトレの個人投資家や為替のトレーダーとは幾分違った職業です。
個人投資家としての絶対指針は意外にも、「農業的であること」です。なぜならば
理由は後述しますが、私は今から10年ほど前に個人投資家になりました。今回ご紹介した「損益計算書」「バランスシート」「ライフプラン」「キャッシュフロー表」「アセットアロケーション」はいずれもその際に利用したツールです。今でも使っていますが、すべてエクセルの四則演算だけでやっています。
私はドキドキしない資産運用をお勧めしています。これは農業的投資とも言い換えられるかもしれません。
資産運用というとギャンブルにも似て、リスクを取って狩猟的に利益を追求する、というイメージがあると思います。確かに一部のヘッジファンドや市場の歪みを利用するアービトラージ系は売買頻度も高いのでそういった印象も間違っていません。
一方で私が実践している運用は、売買を避け、なるべく長くお金を寝かせて収穫を待つ、というのが基本スタイルです。
シリーズ中にも書きましたが、資産運用のコツはなるべく長い期間市場に残り続けることで、期待リターンを薄く広く積み重ねて複利効果を体現することに尽きます。
肥沃な土地(期待リターンが高い資産)を探し、いろんな種をまく(分散投資)ことで天候のリスクを避け、天変地異に逆らわない(流動性を持つことで保険にする)ことを念頭に運用をしています。
ライフイベントにどう対峙するかの判断も、長期AAがあればすべて根拠を持てる
私は20代の新卒就職から40代前半までずっと仕事に忙殺されていたため、40代半ばで迎えた子どもの中学受験は育児に参加するラストチャンスでした。キャッシュフロー表を修正してみると何とかなりそうでしたので、ここでサラリーマン生活を終えてそのまま個人投資家になりました。時間的な余裕をすべて子どもの勉強のサポートに充てて育児にフルコミット、それから10年で子どもが手を離れて今に至ります。
個人投資家になって以降は、シリーズの#5で記載したグローバル三分法に基づいて運用しています(こちらから)。
株1/3(日本株約10%、外国株約20%)
債券等1/3(社債10%、外債10%、預金等20%)
不動産1/3(居住用不動産20%、REIT10%)
これがここ5年くらいのAAです。以前に比べて外貨建て資産の比率を増やし、資産の増加で居住用不動産の比率が下がりました。メインが資金運用なのでちょっとした工夫をしています。以下でご紹介したいと思います。
■日本株
自分の機関投資家キャリアの中では意外にも担当したことのない資産クラスだったので、個人投資家として楽しみを持って最も注力しています。自国ですから企業や文化についての知識も一定はあるので、知的好奇心を満たしてもらえます。現在のところ、個別銘柄投資30銘柄程度と、投資信託を保有しています。
投資手法としては、10年で2倍になる銘柄を探して長期保有することにしています。2014年の日経平均は15000円程度、今は40000円ですから、この10年だったら日経平均で指数だけ保有するパッシブ運用で十分だったな、と思ったりもします。
ネット証券が手数料を引き下げて、私が利用しているSBI証券ではほぼ日本株の売買にはコストがかからなくなりました。長期で投資をしているとキャピタルゲイン課税もばかにならないので、流動性も考えて投資比率の調整には日経平均やTOPIXの先物を利用することが多いです。
■債券(預金)
債券は日本企業の発行した社債を中心にしています。新規発行社債では倒産リスクに注意を払い、過度に利回りを高くするための信用リスクを取らないようにしています。
AAとしては金利に対する価格感応度(デュレーション)を管理することが必要なのですが、満期まで5年以内の社債に限定することで、預金より少しでも利回りが高くなればいいかなという観点で銘柄選択しています。個人投資家は新発社債を購入するのが常道ですので、それ用に日系大手証券複数に口座を持っています。
クラウドレンディングにも一部投資をして、この資産クラスでの超過リターンを目指していますが、過去5年くらいで見るとデフォルトや詐欺の発生もあり、リスクに応じたリターンは得られていないのが現状です、泣。
■外国株式
以前は米国のハイテク株を中心に個別銘柄投資もしていましたが、一部の銘柄に株価上昇が集中しているように思われるため、現在はNY証券取引所に上場しているS&P500連動投信とオルカンから日本を除いたような投資信託を保有しています。外貨資産を持って外国為替で同じ通貨を売る為替ヘッジは行いません。内外金利差がなくなるからです。
■外国債券(外貨預金)
外国債券は、日系の発行体のものを中心に、短中期社債のバイアンドホールドにしています。日本の債券も同様ですが、個人投資家には小ロットで債券を売買するインフラがありませんし、あるとしても非常に割高なので、償還まで保有することを前提にしています。
コロナ明けくらいまでは金利に魅力を感じなかったので外貨預金代わりにFXの円売りで為替エクスポージャーを取っていました。欧米の金融引き締めで長期金利が歴史的に見て投資対象として見ていい利回り水準にまで上昇したので、2022年にまとめて社債ポートフォリオを構築し積み上げています。
外貨預金は、海外送金する機会もままあるため、利便性とコスト、そして預金金利を勘案してソニー銀行を選んでいます。ランクが上がると海外送金手数料が無料になるのが気に入っています。
■不動産
居住用不動産は売却する予定がないので時価評価していません。行政から送られてくる固定資産税評価額を用いています。住所と階数を入れるとおよその評価額が分かるサービス(SRE不動産の推定価格閲覧機能)を利用しています。
REITはおよそ50%の借り入れをして不動産を保有しているので、リスク量を2倍にしてAAを計算しています。総合型REITと個別資産型REITがあって、主に居住用不動産REITを中心に、アパート投資代わりに保有しています。
以上、長くお付き合いいただき、ありがとうございました。今回分にはテクニカルな内容もありますが、ご自分で運用されている方の参考にしていただければと思います。それでは皆さま、ドキドキのない資産運用を祈念しています。
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